著者自身が語る、佐藤俊樹『社会学の新地平』(岩波新書)

11月17日に発売となった『社会学の新地平――ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)について、著者の佐藤俊樹さんによる投稿をまとめました。
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佐藤俊樹 @toshisato6010

【新著の宣伝です4】 ウェーバーのいう「合理的組織」が官僚制の階統型モデルから外れることは、現在の日本語圏では見過ごされていることが多いので、補足しておきます。 「基礎範疇」31節でウェーバーはこう述べています。「固定資本、自由な労働、合理的な労働の専門化とその結合、

2023-10-28 02:49:26
佐藤俊樹 @toshisato6010

そして資本主義的営利経済の基礎の上での純粋に流通経済的な資源調達Leistungの配分をともなう、合理的な資本主義的経営はただ西洋のみで知られている」(富永訳440頁、1/23 S.381)。執筆された時期と、経済的事象や制度をできるだけ網羅的に(意味ある行為の集積の形で)

2023-10-28 02:49:59
佐藤俊樹 @toshisato6010

再定義するという研究の性格から考えて、これが彼のいう近代資本主義の「合理的組織」(の経済でのあり方)の定義、少なくともその必要条件にあたると考えられます。そして、ここでは4つの具体的な要件があげられています。以下、簡単に解説します。

2023-10-28 02:50:37
佐藤俊樹 @toshisato6010

①「固定資本」は物財としての固定資本だけでなく、固定資本という考え方、すなわち出資金(資本)に対する利益率や、出資金比率にもとづく利益や決定権の配分などまでふくんでいます。これらは全て出身金の額が基準となる、その意味で資本を固定項としてあつかうことが

2023-10-28 02:51:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

前提になるからです。こうしたとらえ方は11節で解説され、それを「資本計算」と呼ぶとしています。「資本計算」は貨幣計算の形式合理性が最も高度に展開された形態だとされています(13節)。 ②「自由な労働」は、形式的に自由な意志による契約にもとづく労働をさします。

2023-10-28 02:51:25
佐藤俊樹 @toshisato6010

自らの意志で労働市場に参入/離脱する、その意味で自己責任を負うだけでなく、労働組織のなかでも自発性を発揮することが求められます。こうした点は19節で「専有されなさ」として解説されます。③「労働の専門化とその結合」は後回しにして、

2023-10-28 02:51:55
佐藤俊樹 @toshisato6010

④「流通経済的な資源調達」は、経済活動に必要な資源が市場で調達され、その成果も市場で調達される資源となることをさします。簡単にいえば商品経済です。これは14節で解説されます。なおこの節でも「「流通経済」という概念は……資本計算を志向しているかどうか、

2023-10-28 02:52:15
佐藤俊樹 @toshisato6010

そして資本計算がどの程度成立しているかとは無関連indifferentである」とあります(富永訳366頁、1/23 S.295)。くり返しますが、商品経済の発達と資本計算にもとづく経営は無関連だと、ウェーバーは考えていたのです。 以上をまとめると、ウェーバーは

2023-10-28 02:52:43
佐藤俊樹 @toshisato6010

近代資本主義を特徴づける「合理的組織」(の経済でのあり方)を、①資本計算原理と②自由な労働と③「労働の専門化とその結合」と④市場を通じた資源調達、の4つの要件で特徴づけています。そして①~④はそれぞれ独立です。例えば①を充たすが②~④を充たさない経済活動として、

2023-10-28 02:53:25
佐藤俊樹 @toshisato6010

徴税請負をあげています(11節)。 したがって次のようにいえます。――ウェーバーのいう近代の「合理的組織」の解説として③をふくまないものは不十分であり、またウェーバーの近代資本主義の成立論の解説として、③に関わる要因にふれないものもまた、不十分である。

2023-10-28 02:53:57
佐藤俊樹 @toshisato6010

「基礎範疇」がウェーバーの近代資本主義論や社会学にとってどれほど重要な著作なのかは、以上だけでもよくわかると思います。例えば1918-20年に執筆された著作で、近代的または合理的な「労働組織」とある場合、①や②ではなく、③が想定されている可能性が高いと私は考えています。

2023-10-28 02:54:16
佐藤俊樹 @toshisato6010

(「経済行為の社会学的基礎範疇」はしばしば難解な著作だとされてきましたが、資本主義的な経済の特徴を最も基本的なレベルから定義していこうとした、きわめて明快な研究です。例えば1節は「経済」で、経済という営みを、それに関わる人間たちの行為の形で定義しています。

2023-10-28 02:55:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

こうした定義の展開の仕方は数理科学では一般的なので、理科系の人の方が読みやすいかもしれません。ウェーバーが本来どんな思考をする人かを知る上でも、重要な著作だと思います。 また、31節は1節から始まる「経済行為における合理性」の定義論の最後の節にあたります。

2023-10-28 02:55:37
佐藤俊樹 @toshisato6010

その意味でも、31節で「合理的経営」が先ほどのように定義されることは、近代資本主義の合理性をウェーバーがどのようにとらえていたのかを示すとともに、ここでの定義がウェーバーの近代資本主義論の、時間的に最後の形態であることも示している、と私は考えています。

2023-10-28 02:57:04
佐藤俊樹 @toshisato6010

「基礎範疇」では、「ある意味で、資本主義のさまざまな種類と形態・方向性を定義した第30節と第31節がその圧巻になっている。そこでは同時に、西洋の資本主義とその他の種類・形態・方向性をもった資本主義との間の差異は、「経済的原因だけでは不可能な説明」を必要としていると

2023-10-28 02:57:36
佐藤俊樹 @toshisato6010

される」というシュルフターの解説は、そのことを簡潔に表現しています(前掲612-613頁、S.426)。なお、「基礎範疇」16節にあるように、ウェーバーは労働の「特殊化Spezifizierung」(英語でいえばspecified work)と「専門化Spezialisierung」(英語でいえばspecialized work)

2023-10-28 02:58:21
佐藤俊樹 @toshisato6010

を区別して、後者だけを近代資本主義の要件としていますが(黒正・青山訳『要論上』22-23頁がわかりやすいです)、シュルフター前掲の訳書521頁の「特殊化」はspecialized の方です。後の「専門化」と「特殊化」は訳し分けられているので、たぶん誤植だと思います。)

2023-10-28 02:58:51
佐藤俊樹 @toshisato6010

③が何なのかは「基礎範疇」や私の『社会学の新地平』を読んでください(と今は書くしかありませんが(^^)。一つ重要な点を述べておくと、「基礎範疇」16節では③の「高度な形態」として「オーケストラの演奏」があげられています(富永訳378頁、1/23 S.306)。日本語圏の社会学で

2023-10-28 02:59:09
佐藤俊樹 @toshisato6010

愛用されていた言葉を使えば、ウェーバーは「合理的な組織」を、少なくともある面では交響的(!)だと考えていたわけです。「労働の専門化と結合」の「結合」はVerbindungで、英語に直訳すればcombinationですが、F・ナイトはco-ordinationと訳し(→【3】)、青山秀夫は

2023-10-28 03:00:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

「複雑協働」と訳しています。どちらも意訳に近いですが、だからこそ二人が「合理的組織」の要件③の重要さに気づいていた証拠でもあります。 また、オーケストラを階統型組織の高度に発達した形態だと考える人は、ほとんどいないと思いますが、だとすれば③は階統型hierarchy

2023-10-28 03:00:30
佐藤俊樹 @toshisato6010

とは異質な特性になります。それゆえウェーバーの「合理的組織」を、官僚制論の階統型モデルで代表させたり解説したりすることもまた、不十分な紹介や解説になるといえます。 そして興味ぶかいことに、ルーマンもまた、近代的組織をとらえるには官僚制論の階統型モデルでは

2023-10-28 03:01:06
佐藤俊樹 @toshisato6010

不十分だと述べています。裏返せば、ウェーバーの「合理的組織」とルーマンの組織システム論は③を通じて繋がっています。例えば、階統型モデルは組織をその最上位者個人に還元しようとするものだ、とルーマンは述べています。「命令モデルはただ一人の構成員、すなわち創立者

2023-10-28 03:01:59
佐藤俊樹 @toshisato6010

企業家、支配者の立場に、合理化の基礎を置いている。組織はいわば、その一人の行為の合理性を拡張したものである」(「目的・支配・システム」大黒訳191頁、LSO 1 S.166)。 これもとても面白い指摘だと思います。官僚制組織の階統型モデルは経済学のprincipal-agentモデルと

2023-10-28 03:02:36
佐藤俊樹 @toshisato6010

機能的等価だよ、と述べているからです。より正確にいえば、principal-agentモデルの多くの使い方がそうであるように、経済活動の主体を全て個人へ還元するには、組織の方も階統型モデルと同一視する必要があるわけです。

2023-10-28 03:04:48
佐藤俊樹 @toshisato6010

これも、ウェーバーの「合理的組織」が階統型モデルと同一視されてきた理由の一つではないだろうか、と私は考えています。組織とは何かを考えずにすませる点で、大塚史学の資本の自己運動論とprincipal-agentモデルは機能的に等価なのです。

2023-10-28 03:05:16
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