整備兵氏(@seibihei)による「戦術の基礎(D. Wyly海兵隊大佐)」("Maneuver Warfare Handbook"付録)翻訳・第4課―2
前:第4課―1
「任務」と「目標」は混同してはならない。ここでは、「任務」は「任務戦術」を議論するときに扱ったものである。「目標」は「目標地点」であることもあるだろう。任務戦術における「目標」は、下級部隊の指揮官が、与えられた任務に応じて自ら選ぶものとなることが多い。
2012-03-25 22:37:54与えられた任務が「敵の渡河を阻止せよ」というものだったとしよう。適切な目標は橋梁や渡渉点、又は川を見下ろす丘といったものになるだろう。敵を見下ろす丘の方が良いかもしれない。これらのうち何がふさわしいかは、部隊が実際に現地に到着するまでは分からない。
2012-03-25 22:43:08指揮官は、前進中に方針を決めておかなければならない。陣地から出発した時には、目標は橋梁だったとしよう。しかし、たどり着くまでの間、目標は渡渉点にした方が良いことに気付くかもしれない。目標は戦闘の間にも変化する。統制手段を変更することを躊躇ってはいけない。
2012-03-25 22:47:21目標を適切に決定できる能力は、良き指揮官の証である。その能力がないのは素人だが、しかし歴史は適切ならざる目標を選んだ例に満ちている。ベトナム戦争で海兵隊は高地を巡って勇敢に戦闘したが、奪取してしまうと戦術的な意味は無かった。
2012-03-25 22:53:42兵士の命は、目標を選ぶ上での主たる選定基準のいずれに照らしたところでも価値のない地形のために費やされた。主たる選定基準は2つある。味方にとって有用なことと、敵にとって重要なことだ。どちらでもないのであれば、海兵隊員一人として犠牲にするような価値は無い。
2012-03-25 22:58:50こうしたことを、戦略的な面から見てみるのも有用だろう。このレベルの戦例はより多く書かれているし、そのため戦術は勉強したことが無くても歴史を学んだことのある学生にも理解しやすいだろう。
2012-03-25 23:04:51ベトナムにおける戦略の例を見てみよう。我々の目標は、全て南ベトナムにあった。敵である北ベトナムにとって、南は重要ではなかった。我々が南で行うことは、彼らには大して意味をなさなかった。このため、北ベトナムは彼らの戦い方を、冷静かつ合理的に進められたのだ。
2012-03-25 23:09:011950年、ダグラス・マッカーサーが仁川に上陸した時、彼は敵に対して重要な地点を目標とした。マッカーサーの目標はソウルであった。ソウルは北朝鮮軍の戦線の後方にあり、またその連絡線を支配していた。
2012-03-25 23:12:06このため、北朝鮮軍はソウルを通る後方連絡線を喪失したことに気が付き、完全に混乱状態に陥った。マッカーサー元帥は敵にとって重要な地点を奪取し、それにより、敵を撃破したのだ。
2012-03-25 23:17:54では、この議論を戦術レベルで続けよう。君は第5海兵連隊第1大隊のA中隊長だ。現在、120高地の敵と対峙している。(120高地の後ろに川が流れている。120高地のすぐ後ろに東橋、すこし西側に西橋があり、東側には道路はないが渡渉点がある。)
2012-03-25 23:22:29目標として選べる選択肢はいくつかあるだろう。敵のいる120高地の手前には150高地がある。敵の西側には200高地がある。川には東橋と西橋がかかっており、東橋の北へと道路が延びている。道路が延びた先には80高地があり、敵の迫撃砲が展開している。
2012-03-25 23:24:47ーーーーーー北橋ーーーーーーー ○←80高地 ーー西橋ーー東橋ーー渡渉点ーー ○ ○←120高地(敵がいる) ↑200高地 ○←150高地
2012-03-25 23:28:15正しい答えはいくつかあるだろう。多くの学生は「東橋」を選ぶのではないだろうか。それは敵を支援から孤立化させるからだ。しかし、もう少し大胆なら80高地を狙うだろう。そうすれば敵の迫撃砲陣地を眼下に収め、敵にとって重要な火力支援を無力化できるからだ。
2012-03-25 23:41:36しかし、「敵の迫撃砲陣地」自体を目標にすることもできる。渡渉点を渡って敵の後方を奇襲することに気が付けば、だ。これは現地に行かないと(渡渉点の状態を確認しないと)判断できないだろう。
2012-03-25 23:43:35もし150高地を選ぶとしたら、敵との火力の応酬には少しは意味があるだろう。しかし、敵にとって重要とは思えない。120高地を選んだとしたら、それはガチの消耗戦を選ぶということだろう。200高地を選ぶとしたら、それは味方にも敵にも重要にはなり得ない。
2012-03-25 23:45:46最良の目標は地形ではない、ということを思い出してもらいたい。この場合、最良の目標は迫撃砲陣地だろう。目標はただの「目標地点」の場合もあるが、地形に限定されるべきではない。もちろん、地形が非常に重要な場合もあるので、その価値を低く見ることはできない。
2012-03-25 23:50:29双方の機動力が高い場合でも、地形目標は重要であり続ける。敵の輸送車列を撃破しようとしている戦車部隊指揮官は、その車列が将来通過するであろう経路を支配する高地を目標として選定することがあるだろう。
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