オフショア・バランシング戦略と米国におけるリアリズムの伝統について

題名どおり。後半、地政学の研究と翻訳で有名な奥山氏との対話。
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fj197099 @fj197099

防衛研究所が『東アジア戦略概観 2012』を公表しているが(http://t.co/M7SV6tTB)、その中の第六章「米国」において、統合エアシーバトル構想の採用は米国が前方展開を軽視し「オフショア・バランシング」を志向している事を意味する訳ではない、旨の明確な記述がある。

2012-03-31 23:16:45
fj197099 @fj197099

これは私自身が防衛研究所の関係者を含めて多くの人に何度も何度も繰り返してきたことなので、我が意を得たり、の感がある。「オフショア・バランシング」というと何か米国が新孤立主義に近い政策でも採用しているようだが、事実はまったく正反対で、米国はむしろ前方展開プレゼンスを強化している。

2012-03-31 23:19:03
fj197099 @fj197099

一部を引用する。「『エアシーバトル』は、米国が前方展開兵力を大幅に削減して、有事が発生したら後方から長距離打撃力のみで関与するというような『オフショア・バランシング』を志向することを意味する訳ではない。これはあくまで『戦い方』を示す概念として理解すべきであろう」(p.207)

2012-03-31 23:20:44
fj197099 @fj197099

統合エアシーバトル構想については些か一般的に誤解されている面が強いと思う。それは戦略ではなく作戦構想に過ぎず、しかもまだ公式に公表される段階にさえ至っていない。米国はむしろ昨年来、アジア太平洋への「リバランス」の姿勢を強化し、それは先の新国防戦略にもはっきり現れているのである。

2012-03-31 23:22:36
fj197099 @fj197099

「オフショア・バランシング」(OB)という大戦略を提唱し称揚するのはC・レインだが、レインのOBの理解たるやOBを採用した米国はNATOや日米安保を破棄して抑止と防衛の負担を同盟国に肩代わり(「バック・パッシング」)させようというかなり極端な主張である。純粋にリアリストのそれだ。

2012-04-01 00:39:06
fj197099 @fj197099

彼の議論は奇妙な幻想に満ち溢れている。一番奇妙なのは肩代わりを行った結果として同盟国が抑止や防衛の十分な自助努力が可能だとなぜそんなに楽観的に信じてしまうのかという点である。冷戦期間中、NATOも米国の前方展開もなくスターリンの拡張主義を押さえ込めたと本当に信じているのだろうか。

2012-04-01 00:41:12
fj197099 @fj197099

そして現在、中国の海洋進出や国際法に違反する拡張行動を米国が本気で阻止しようとすることなく同盟国にそれが可能だと信じているのか。理解に苦しむものがある。同盟国に安易に責任転嫁して同盟国がその能力に欠ける現実を示す場合、結局米国は紛争の発生を防げず関与せざるを得なくなるのだ。

2012-04-01 00:42:47
fj197099 @fj197099

OB論者はどういう訳か(いろいろ特殊な前提があるのだ)同盟や前方展開は「巻きこまれ」のリスクを高めると考えているようだが、全く逆の議論も可能で同盟を解体したり前方展開を撤収すればその方が紛争勃発と「巻き込まれ」のリスクを高めるとの立論も可能なのである。現に米政府はそう考えている。

2012-04-01 00:44:34
fj197099 @fj197099

OB論者の主張は、所詮は新孤立主義との区別が曖昧なものである。グローバル化の進んだ現代に新孤立主義など採用すべくもないということが彼らには正しく認識されていない。それはある意味では当然で、リアリストを自称する以上はグローバル化による国際社会の変化を認めないことを意味するのだろう。

2012-04-01 00:46:34
fj197099 @fj197099

OBがレインの主張する形で米国に採用されることはおそらくないだろう。米国は同盟関係や前方展開を維持し続けるだろう。エアシーバトルには作戦構想として長距離打撃を重視する要素はあるが、それは外交・安保面での大戦略ではない。大戦略では米国は覇権や卓越の立場を今後も採り続けると思われる。

2012-04-01 00:49:46
fj197099 @fj197099

ちなみに言うと、リアリストの論法が有力な米国外交ほど日本を含む同盟国にとって不愉快なものはないのである。我々はしばしば中国に「責任ある利害関係者」になれというが、肝心の米国がそうでなくなってどうする。勢力均衡は言われているほど安定的なものではない。我々はリベラルな覇権を好むのだ。

2012-04-01 00:52:12
fj197099 @fj197099

米国における(政治的)リアリズムの伝統というのはそれだけで何冊も本が書けてしまうほどの重大テーマだが、一言で言うならそんなものは殆ど存在しないのである。政治的リアリズムが米国に本格的に入ってきたのは第二次大戦後の亡命ユダヤ人の流入以降のことであり、その後も決して主流でなかった。

2012-04-01 01:32:03
fj197099 @fj197099

無論、ケナン、モーゲンソー、キッシンジャー、それにウォルツなど様々著名な「リアリスト」の名前を挙げることはできる。だが彼らは個人として卓越した人物ではあったものの、決して米国政治や米国外交の中枢に位置するような存在でなかったというべきであろう。キッシンジャーですらそうなのだ。

2012-04-01 01:33:43
fj197099 @fj197099

リアリズムを社会科学の構造理論として発展させたウォルツをやや例外にして、米国のリアリストの多くは基本的には欧州の国際関係に深く関わりを持つ人々である。すなわち多極システムにおける国家戦略というものに深い造詣をもった知識人である。だが米国人一般は多極を感覚として理解していない。

2012-04-01 01:36:25
fj197099 @fj197099

19世紀からモンロー・ドクトリンを中心に西半球で覇権的な単極システムを築いてきた米国は多極システムを安定的かつあるべき秩序の姿として理解することが本質的に困難であるというべきだ。むしろ彼らはフロンティアの時代に代表されるように自己のリベラルな価値を拡大した統一的なシステムを望む。

2012-04-01 01:38:37
fj197099 @fj197099

20世紀中盤以降の亡命ユダヤ人らによる米国社会へのリアリズムの啓蒙は、言わば門戸開放主義の下に拡張を続けてきた米国が初めてソ連という侮り難い強敵に直面し不本意ながらもこれと共存せねばならなくなった時に「多極」(実際には「二極」だが)の論理を受け入れさせるためのものでもあったのだ。

2012-04-01 01:41:50
fj197099 @fj197099

しかしそうした異質な政治システムを持つ相手との対等な関係の容認は本質的に米国社会の価値になじまないものであり、結局そこにケナンの挫折もあったことは指摘するまでもない。この点、キッシンジャーだけがやや例外である。彼はベトナム戦後の疲弊した米国をリアリストとして動かすことができた。

2012-04-01 01:43:46
fj197099 @fj197099

米国がベトナムの苦戦で自信を失っていた時だからこそ、リアリストの論理は比較的すんなり受け入れられた。つまり中国という異なる政治システムを持つ他者との宥和という論理が成立しえた。それは同時にソ連とのデタントという発想にもつ繋がった。これは珍しくリアリズムが米国に受け入れられた例だ。

2012-04-01 01:46:14
fj197099 @fj197099

しかしこのデタント路線も直ぐに米国社会の内在的な論理とは異なるものだとして厳しい反発に直面した。それが以前も述べたジャクソン上院議員の挑戦であるし、またカーターの人権外交やブレジンスキーの対ソ強硬路線だったとも言えよう。レーガンの登場に至ってリアリズムの後退は再び明白になるのだ。

2012-04-01 01:48:08
fj197099 @fj197099

米国外交史の解説を延々しようとは思わないが、つまりは米国外交にとって異なる政治システムを持つ異質な国家との共存=多極システムの受容を求めるリアリズムとは、本質的に異質なものなのである。研究者としてのウォルツも、業績を評価はされつつも議論をストレートに引き継ぐのはごく僅かな人々だ。

2012-04-01 01:50:14
fj197099 @fj197099

米国におけるリアリストの評価もそういう前提で行われなければならないだろう。つまり、彼らは基本的に主流からは大きく外れた人々なのである。米国外交の基本は覇権/卓越や選択的関与を求める人々であり、オフショア・バランシングや新孤立主義を求める人々ではない。外交への影響力も限定的である。

2012-04-01 01:51:55
fj197099 @fj197099

米国外交を現実に動かす当局者の中にはリアリストは事実上存在しないといっても過言ではない。クリントン国務長官もキャンベル国務次官補も、無論オバマ大統領もその他の如何なる主要な人々も、オフショア・バランシングや新孤立主義を称揚する人々は一人もいない。それほど例外的な存在なのである。

2012-04-01 01:53:53
fj197099 @fj197099

無論、そのことはリアリズムが全く無視されていることを意味しないが、ただしリアリズムは物事を多面的に見るレンズの一つとして使用されることはあれ、純粋なリアリストの主張が米国外交の表面に出てくることは稀であると言えよう。それは一般に米国の国益に適うとはみなされないことが多いのである。

2012-04-01 01:56:33
fj197099 @fj197099

言い出すと長くなるので避けますが、その点、米国衰退論にはさほどの根拠はないと見ています。@masatheman 同意しますが、どれだけの期間維持できるかの方がポイントかと。RT"@fj197099: OBがレインの主張する形で米国に採用されることはおそらくないだろう。

2012-04-01 02:01:29
fj197099 @fj197099

そこは実は関係ある話ではないかと。米国にとって同盟国を持つことは国際秩序の形成面で重要です。@masatheman ただしイザとなったらアメリカには関係のない話かと @fj197099: リアリストの論法が有力な米国外交ほど日本を含む同盟国にとって不愉快なものはないのである

2012-04-01 02:02:34