『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)おぼえがき

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1)ヨーハン・ペーター・へーベル「奇妙な幽霊物語」。初出は『ドイツ怪談集』(河出文庫)。十九世紀はじめのバーデンの暦に掲載された暦話の一編で、旅の紳士が幽霊が出るという城に宿泊したときの体験談。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-25 02:04:21
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2)ヘーベルはジャン・パウルやゲーテからも評価された詩人にして聖職者。暦話を通じて民衆の啓蒙にもつとめた。同作も含めた暦話は木下康光編訳『ドイツ炉辺ばなし集 カレンダーゲシヒテン』(岩波文庫)で読める。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-25 02:04:32
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3)E・Th・A・ホフマン「吸血鬼の女」。初出は『ドラキュラドラキュラ』(薔薇十字社、1973年)。父が嫌っていた老男爵夫人の娘に恋をしてしまった伯爵。娘が語る夫人の過去と二人の恋の恐るべき顛末。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-26 00:39:36
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4)種村先生の解説にあるように「『砂男』のエディプス・コンプレックスによる吸血恐怖と、この物語の「悪い母親」への両極性感情を機軸にしたエレクトラ・コンプレックスの産物たる嗜血ー嗜肉癖を対照させながら読んでみるのも一興であろう」。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-26 00:39:57
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5)E・Th・A・ホフマン「ファルンの鉱山」。初出は「ユリイカ」1975年2月号。その後『書物の王国 6 鉱物』(国書刊行会)に収録された。船乗りが母の死を機に坑夫となり、地底で不思議な老人の導きで山の女王を幻視したことで起こった悲劇を描く。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-26 00:40:59
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6)種村先生の解説によればシューベルト『自然科学の夜の側』に収録された「ファルンの坑夫」が下敷きになっている。ちなみに岩波文庫の『ホフマン短編集』には本書解説者の池内紀訳の「ファールンの鉱山」が収録されていて、二人の翻訳を読み比べることができる。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-26 00:42:25
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7)種村訳のホフマン作品はほかに『砂男 無気味なもの』『くるみ割り人形とねずみの王様』(河出文庫)『ブランビラ王女』(ちくま文庫)がある。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-26 00:42:53
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8)ボナベントゥラ「夜警抄」。初出は『澁澤龍彦文学館 5 奇譚の箱』(筑摩書房、1990年)。「ドイツ・ロマン派のニヒリズムの書」とも呼ばれている作品で、芝居がかった独白で生の虚無を叫ぶ断章。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-28 01:39:38
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9)種村先生の解説では「強烈なペシミズムの倍音を奏でる謎の作家」ボナベントゥラの正体についてF・G・ヴェッツェルが定説と書かれているが、『世界文学大事典』(集英社)によると近年E・A・クリンゲマン説が有力視されているとのこと。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-28 01:39:52
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10)アヒム・フォン・アルニム「ド・サヴェルヌ夫人」。初出は『澁澤龍彦文学館 5 綺譚の箱』。世間知らずの裕福な未亡人があやしげな男に狙われる。後半の「ファブリオーのおおらかな笑話性と早すぎた精神病理学のパロディーともいうべき現実観察」(本書解説)が楽しい。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-29 02:45:39
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11)種村先生は『ドイツ・ロマン派全集 8』の月報に寄せた「転んだあとの杖」で自らの好むロマン派作品の特徴として「物の唐突な出現」とそこから導き出される恐怖または笑いをあげている。本作では最後に出てくる搾油機がまさにその役を担っている。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-29 02:47:05
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12)アルニムはロマン派の詩人。ブレンターノとの共編の民謡集『少年の魔法のつのぶえ』(岩波少年文庫)や幻想小説『エジプトのイサベラ』(国書刊行会、世界幻想文学大系)など幅広い作風で知られる。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-02-29 02:48:40
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13)オスカル・パニッツァ「エラとルイとのあいだのあらゆる時代の精神における愛の対話」。初出は「別冊幻想文学 怪人タネラムネラ 種村季弘の箱」(アトリエOCTA、2002年)。恋人同士の性的にあけすけな会話とみえて実は…。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-01 02:46:18
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14)『パニッツァ全集』(全三巻、筑摩書房、1991年)を個人で全訳するほど入れ込んだ作家。作家論としては全集解説のほか「梅毒としての文学」(『愚者の機械学』所収)、「パニッツァ復活」(「ちくま」1991年6月号)がある。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-01 02:46:30
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15)『世界文学大事典』(集英社)のパニッツァの項も執筆。「ユグノー亡命者の家系のフランス語を話す母とカトリック系のイタリア人の父との間に生まれ,プロテスタンティズムとカトリシズム,母語フランス語と母国語ドイツ語との間にたえず引き裂かれながら書いた作家」。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-01 02:47:48
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16)グスタフ・マイリンク「こおろぎ遊び」。初出は『ドイツ怪談集』。ブータンの研究員から届けられた白いこおろぎと手紙。蠱毒を思わせる恐ろしい魔術と第一次大戦前夜の終末のヴィジョンが鮮烈な印象を残す。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:51:31
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17)グスタフ・マイリンク「ヨブ・パウペルムス博士はいかにしてその娘に赤い薔薇をもたらしたか」。初出は『澁澤龍彦文学館 5 綺譚の箱』。巨人症の研究をしていた博士にもちかけられたある計画。怪しげな話から一転、感傷的な結末へと向かう。この作家としては異色作か。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:52:11
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18)グスタフ・マイリンク「チンデレッラ博士の植物」。初出は『現代ドイツ幻想小説』(白水社、1970年)。テーベの砂漠で発掘された像のポーズを真似した男が経験する幻視体験。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:52:45
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19)グスタフ・マイリンク「レオンハルト師」。初出は「幻想と怪奇」3号。単行本には初収録だから本書の目玉のひとつだろうか。老人の回想。呪われた出自と恋愛から放浪の旅へ。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:52:56
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20)種村訳マイリンクはほかに『ナペルス枢機卿』(国書刊行会バベルの図書館12、1989年)。同書月報に作家論「道化服を着たマイリンク」、代表作『ゴーレム』については「巨人ゴーレムの謎」(『怪物のユートピア』)、「ゴーレムの秘密」(『怪物の解剖学』)で言及。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:53:05
@KARUBI_Ino

21)両親の「貴族的高踏的反俗性とユダヤ人的道化的反俗性とがドイツ俗物をサンドウィッチのハムのように挟撃している構図」を背景に「現実にも超自然にも、そのどちらかに決定的に荷担することができない」「だんだら模様の道化服を着た作家」(「道化服を着たマイリンク」) #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-04 02:53:29
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22)マックス・ブロート「無気味なもの」。初出は『狂信の時代・ドイツ作品群III 1945-1957 創られた真実』(学芸書林、1969年)。第一次大戦直前の不思議な体験が語られる。「幽霊談の食餌療法」という発想がユニーク。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-09 02:24:27
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23)マックス・ブロートは現在ではカフカの遺稿の管理人・紹介者・伝記作者として知られていて、自身の作品はほとんど読まれていない。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-09 02:24:43
@KARUBI_Ino

24)ハンス・ヘニー・ヤーン「無用の飼育者」。初出は『狂信の時代・ドイツ作品群II 1938-1945 おおわれた世代』(学芸書林、1969年)。馬の出産をスケッチした小品。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-10 03:47:57
@KARUBI_Ino

25)ハンス・ヘニー・ヤーン「北極星と牝虎」。初出は『ドイツ短篇24』(集英社、1971年)。没落し離れ離れとなった恋人を追う女の前に北極星の精霊が現れる。中国説話風の変身・転生譚。 #怪奇幻想綺想文学集

2012-03-10 03:48:06
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