シリーズ「係」

世の中にある、と思われる様々なお仕事や係についての#twnovel。
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七歩 @naholograph

僕の心の警備員は可愛い女の子。僕の心の傷を小さな体で代わりに受ける。身を挺して僕を守るその姿。僕が恋に落ちるのは必然だった。#twnovel 「好きです」僕の告白に戸惑う彼女。愚かな僕は伝えてから気づく。NOと言われたならば僕は、僕の心は。意を決し命がけの答えを出す彼女。「私は」

2012-11-03 09:01:16
七歩 @naholograph

大掃除を業者に頼んだら、心の掃除も勧められた。頼んでみると小さな掃除係達が私の胸に次々入ってく、と思ったらすぐに出てきた。「もうおしまい?」「はい、必要ありませんでした」やだ、心が綺麗ってこと?褒めたって何も。「心がなかったので」「はい?」「あなたは心ない人です」#twnovel

2012-11-27 07:56:43
七歩 @naholograph

責任は俺が取る。ある日僕の心に住み着いた上司はそう言った。なんでも好きにやれ。失敗が許されるとこうも違うのか。僕の業績はうなぎ登り。順調に出世し責任ある立場となる。#twnovel 「好きにやれ」あの日彼が僕に言った言葉の怖さを思い知る。彼と一杯やりたいな。心のドアを叩く僕。

2012-11-29 13:55:37
七歩 @naholograph

僕の心に住みついた怠け者は、炬燵の中で昼寝と蜜柑を繰り返す。掃除は?明日。洗濯は?明日。全てを明日に託す君。明日なんか来ないんだろうと思ってたある日、君は「明日」を始める。#twnovel あれから3日。君は未だに「明日」にいる。何を手伝うべきか分らずとりあえず蜜柑を食べる僕。

2012-12-08 12:14:52
七歩 @naholograph

ペンキ屋が言う。今ならお試しで記憶をひとつ上塗りします。失恋したばかりの僕は、彼女との記憶を依頼した。#twnovel 消えましたよ。ペンキ屋が誇らしげに指した場所には、くっきりと白い人型。細かいことは覚えていない。けれど、名前さえ知らぬ彼女の存在は、僕の中でますます強くなった。

2013-01-10 00:13:55
七歩 @naholograph

僕の心に代筆屋が住み着いた。その文才を見込んで僕は、告白メールをお願いする。美しい恋文。凄いなと告げると、君の中にあった言葉を繋ぎ合わせただけと言う。僕も書いてみようかな。そう言うと彼は、歪な方が伝わることもあるだろうさと大事な単語に赤線を引いて、頑張れと笑った。#twnovel

2013-01-17 07:59:14
七歩 @naholograph

引き出しの少ない男は嫌われる。そう聞いた僕は箪笥屋を呼んだ。「お前は阿呆か」笑われた。「お前の小さい箪笥に引き出しばかりあってもどうなる」どうなるの?「ロクなもんが入らない」そんなカラっぽの男、モテるのか?#twnovel 心が広くなったら呼んでくれ。何も売らず、箪笥屋は帰った。

2013-01-24 14:27:49
七歩 @naholograph

僕の評論家は口が悪い。人生とすら言えない人生だと手厳しく僕の人生を批評する。僕は嫌だった。評論家同伴面接なんて、そんなの落ちるに決まっている。#twnovel 僕の隣で嘘をつかずに彼は上手に僕を褒めた。有難うと言うと、「俺の仕事は評論であって、お前を貶めることではない」と笑う。

2013-01-26 10:36:54
七歩 @naholograph

僕の心にシェフが住みこんだ。材料は僕の気持ち。なんでも上手に調理するお陰でどんな気持ちも飲みこめる。恋に敗れたあの日の料理は未だに忘れられない。また食べたくて適当に付き合って別れた。けれど。「バカ野郎こっちは真剣なんだ」どんなにシェフが頑張っても煮え切らない一皿。#twnovel

2013-03-25 13:18:54
七歩 @naholograph

僕の心に保険のお姉さんがやってきた。ぐらついちゃった時のじしん保険いかがですか?備えあれば憂いなしです!って。素敵な笑顔に押し切られ、僕は印を捺す。#twnovel その日が来た。仕事で失敗してぐらつく僕にお姉さんは、「明日があるわ」とほっぺにちゅうをくれた。備えあれば嬉しいな。

2013-04-03 06:44:48
七歩 @naholograph

がけっぷちさんは崖っぷちに住んでいる。あらあら今日もお客様。靴を揃えたお客に彼女は声をかけた。素敵な靴ね。客は戸惑い、差し上げますよと答える。それならお礼にお茶でもいかが?#twnovel 案内された彼女の住まいは靴で溢れていた。貴方も新しい靴を買わなくちゃね。歩き出すために。

2013-04-06 20:59:31
七歩 @naholograph

僕の心に引きこもりがいる。心の扉が開かずに困っていたら、中から小さく歌が聞こえた。一緒に歌うと歌声は止まる。繰り返す、繰り返す。やがて僕は共に歌うことを許された。繰り返す、繰り返す。僕の歌にも合わせてくれる。今度は誰かに伴奏なんて頼もうか。君はもう、世界にいる。#twnovel

2013-04-19 11:28:35
七歩 @naholograph

僕の心にスパイが潜む。誰のスパイか知らないけれど恋愛事情を探ってる。探れるもんなら探ってみろよ、秘密を隠して鍵をした。追いかける君。奥へ奥へ。誰より僕に詳しくなって、いつしか秘密にたどり着く。最後の鍵は誰かの名前。僕が好きな、努力家の、そう君が誰より知る名前。#twnovel

2013-05-09 07:32:16
七歩 @naholograph

僕の心に栄養士が住み着いた。じっくりと心を調べあげて必要な栄養を考える。全然足りない。これとこれとこれを読んで。本は心の栄養だから。好みじゃなければ面白みもない本ばかり。嫌々読んだところで何の糧にもならないと思うけれど。けれど一生懸命次から次に本を選ぶ彼女に僕は。#twnovel

2013-05-21 16:26:34
七歩 @naholograph

水底に人を引きずり込む仕事をしている。熱心な私の湖は有名となり、今では誰も近寄らない。閑古鳥と歌うある日やってきたのが彼だった。久方ぶりのお客に喜び遺言なんかを聞いてあげたら私、私。#twnvday 水温を一気に下げ水底へと逃げこむ。凍てつく水面で世界を閉ざし、私は一人恋に泣く。

2013-07-14 23:39:42
七歩 @naholograph

僕の心に修復師がやってきた。壊れてないよと言うと汚れてはいるだろうって失礼なヤツ。心に小さな綿棒を当てられ拭われるのはなんだか少しくすぐったい。できたよ。そうは言うけど少し汚れが残ってる。ここはだけはこのままがいいだろう?#twnovel そうだね。あの人への汚れたこの気持ちは。

2013-07-25 21:26:00
七歩 @naholograph

ある日伝説の料理人が、煮ても焼いても食えない僕のところへやってきた。どんな素材も料理する彼が僕をじっくり吟味する。やがて彼はさらり。僕に140字の物語をくれた。 #twnovel 続きは世界のどこかに。なんて言うからやむを得ず僕は旅立つ。辛い別れに甘い恋。味わい深い僕の人生。

2013-08-01 22:57:43
七歩 @naholograph

メイドさんがお辞儀する。僕の心に住みこんだ彼女は、心ここにあらずの僕のお世話を毎日欠かさない。恋に震える心。恋に乱れる心。彼女が言うには屋敷、つまり僕の心の中は散らかり過ぎて、整理整頓が追いつかないらしい。「早く落ち着かれてください」とため息をつく「原因」の彼女。#twnovel

2013-08-09 10:44:01
七歩 @naholograph

失恋したので失せ物屋に頼んだ。僕の失くした恋を取り戻してください。#twnovel 久しぶりに顔を出した失せ物屋。見つけましたと言うけれど手ぶらだ。恋はそこに。僕の胸を指をさす。失われてなどいません。だけど彼女好きな人がいるって。失われてないって言ってんだろ行けよ。僕は駆け出す。

2013-08-17 00:50:37
七歩 @naholograph

修復師が恋心を修復してくれた。けれど以前と似ても似つかぬ恋心。どうやらサービスらしい。ただしイケメンに限るような領域へもやすやす入り込め、僕を振ったあの子ですらもメロメロだ。初めての笑顔、初めての温もり、初めての。#twnovel ね、修復師。サービスいいや。僕は僕の恋がしたい。

2013-08-18 15:08:51
七歩 @naholograph

カメラで魂を吸い取る仕事をしている。世界の全てを写しておくれ。依頼主はそう僕に言う。さあさ笑って、はいチーズ。死ぬ時くらいは笑顔がいいって最後の台詞は内緒だけどね。カメラの中のその魂は、次の世界へ解き放たれる。これは方舟。再生の種。だから笑って、はいチーズ。#twnovel

2013-09-14 00:14:43
七歩 @naholograph

僕の心にぽっかりと開いた穴に親方が挑む。どうするの?埋めるのさ。素材は?お前が余してるあの子との想い出。そんなの辛くなるだけだ。辛くなってりゃいいだろう。#twnovel 埋めた箇所にヒビが入るたび親方は何度も直してくれた。どこより頑丈になったその場所に、僕は君と新しい絵を描く。

2013-09-20 13:23:44
七歩 @naholograph

交通整理係は悩んでいた。整理しきれず鳴らされるクラクション。きっと自分は根本的なところを間違っている。だってそうだろ。こんな風にいつまでも整理がつかないなんて。#twnovel 整理で一番大切なのは捨てること。いわゆる断捨離。一台ずつ、車を、黒いトンネルへ誘導、出口なんて、ない。

2013-10-18 22:44:55
七歩 @naholograph

ボタン屋は混雑していた。ぼんやり並んでいると前の男に声をかけられる。「どんなボタン買うんです?」「リセットボタン」ここは釦じゃない方のボタン屋だ。「人生やり直したくて」お先真っ暗だった。「リセットならまだ大丈夫ですよ」#twnovel 切ボタンを買った彼は今も元気でいるだろうか。

2013-11-06 16:05:01
七歩 @naholograph

「ケンカうります」って凄い店だな。入ってみたなら、いらっしゃいクソが。突然の売り。クソ呼ばわりされる筋合いねーよ。返すと、それもそうですねって。僕は二代目なんですがどうも勝手が掴めなくて。喧嘩を正しく続けるためにはそれなりの理由が必要なのだと二人並んでお茶を飲む。#twnovel

2013-12-01 09:17:25