シリーズ「係」

世の中にある、と思われる様々なお仕事や係についての#twnovel。
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七歩 @naholograph

かしが欲しい。扉を開けてそれだけ言えばおかし屋はかしを準備する。あれこれ親切を要求し、僕から借りを作るのだ。ありがとよ。笑顔と労いが嬉しくてついつい色々貸してしまう僕に、いつか返すよとおかし屋。そのいつかはきっと僕に困難が訪れる時だというのに、少しばかり楽しみだ。#twnovel

2014-01-22 20:35:14
七歩 @naholograph

僕の心に青い鳥が住み着いた、らしい。羽音も囀りも聞こえないがある日一枚の手紙が届き「貴方の胸に青い鳥が住み着きました」と報せてくれた。ふと見渡せば周りはとても幸せそう。青い鳥の僕のお陰か。今まで憎んできた他人の幸せもなんだか悪くない。温まる胸。青い鳥はここにいる。#twnovel

2014-02-01 08:43:07
七歩 @naholograph

僕の心に農夫が住みついた。荒れ果てた心から雑草や石を取り除き柔らかくして種を蒔く。けれど芽が出ない。僕のせいだと思うといたたまれず、ムリだったんだと喚けば時間が必要だって。待つだけだと言いながらいつも土だらけの農夫の手。せめて心に栄養をと僕は慣れない読書に勤しむ。#twnovel

2014-03-11 18:37:09
七歩 @naholograph

心の汚れが落ちない。既存の洗剤ではもう無理ですと洗濯屋に言われた。もっと強い希望や愛が必要です。#twnovel 強力な洗剤を手に入れるため、僕ははじめて人を愛した。未来についての希望も持った。そして数年後、再び洗濯屋へ。「すっかり汚れが落ちてますね」洗濯屋は笑って僕に手を振る。

2014-04-07 00:47:04
七歩 @naholograph

夢をみなかった? 失礼な奴だ。毎日きちっと上映してるよ。#twnovel 映夢館のおっさんは職人気質。見てないなんて言ったものならヘソを曲げてしまうから。そういう時はこう言うといい。獏に喰われたみたいです。そうか獏なら仕方ねえな。ところでそこで納得するってどうしていつも悪夢なの?

2014-04-07 10:05:06
七歩 @naholograph

人ゴミが辛すぎて粗大ゴミ回収に転属した。捨てられた人々の縋るような目。罵詈雑言を浴びせられることも少なくはなかった。粗大ゴミは僕をみない。粗大ゴミは喋らない。快適なはずの日々、なのにどうしてだろう。ありがとう。覚悟を決めた人ゴミの最期の言葉を表情を、懐かしく思う。#twnovel

2014-04-13 11:41:08
七歩 @naholograph

運命の人の仕事をしている。繋がる先のない赤い糸を束ね、時々引っぱったり揺らしたり。つまらない人生から人々が逃げ出さないよう、まやかしの希望を与える。沢山の糸。もはやどれが私自身のものであるかも解らなくなってしまったから等しく全てを愛する。繋がる先があると信じて。#twnovel

2014-04-26 10:44:17
七歩 @naholograph

貴方らしい器、作ります。うたい文句に惹かれ陶器屋の扉を開けた。作成のためにと質問を受ける。私を知るためとはいえ失礼な内容にイライラし始めた頃、三ヶ月後にお届けします。主人は小さく礼をした。#twnovel 届いた器はまるで豆粒のよう。お客様にお似合いの小さな器でございます。

2014-05-04 12:15:34
七歩 @naholograph

僕の心に船長が住み着いた。失恋の後悔なんてもう沢山だとわめく僕に、俺様はいつでもコウカイしてるぜってダジャレか。コウカイがそんなに嫌か。やだね。そのコウカイでバッドエンド一つ潰せるのに?#twnovel いいコウカイしようなとおどけるから、うるせーとしか返せなかった。いい後悔を。

2014-06-07 11:43:20
七歩 @naholograph

おかたづけ隊がやってきた。貴方の心を綺麗にしたいと荒んだ心を片づける。パタパタはたきササッと箒。ピカピカ磨かれ僕の心は随分明るく美しく。あれも捨ててよ。大きな塊を指させば、あれがゴミとはその目の方がゴミですねと蔑まれる。綺麗に磨かれたあの思い出と久しぶりのご対面。#twnovel

2014-09-26 12:17:43
七歩 @naholograph

世界を塗りかえたい!彼はペンキ屋に弟子入りした。季節で変わる桜や紅葉を希望したが常緑樹に配属され不満だ。自分らしさを表現したい。ペンキの色を変えてみたなら、塗り替えがバレるじゃねえかと親方に笑われた。やむを得ず同じように塗、れない。前任者の美しい塗りに夢中で挑む。#twnovel

2014-07-29 08:31:52
七歩 @naholograph

心の庭師は季節ごとに現われ、僕が育てた木々の枝葉を切り落とす。育てた全てが無駄みたいだ。そう言う僕を庭師は鼻で笑うけれど、すっきりした庭は僕を不安にさせた。大きくなったな。二人で見上げる丸坊主の木。枝を集めて燃やした焚火で暖をとり、ほくほくの焼き芋を頬張る。甘い。#twnovel

2014-09-27 09:36:53
七歩 @naholograph

僕の心に学者が住みつき思春期層を掘り返す。発掘されたのは喧嘩別れした彼女の化石。懐かしさで電話したならその声は穏やかで、もしや復活かと浮かれていたなら突然、私結婚するの。#twnovel 電話を切ると何かが終わって始まった気がした。謝る学者にお礼とばかり、初恋の化石を押しつける。

2014-10-04 22:33:35
七歩 @naholograph

僕の心に住み込みのスープおばさんがいて、心を煮込んでスープを作る。最近いい切れ端がないのよと舌打ちするおばさん。心に余裕がなければ切れ端などできない。睨みつけられ僕はやむを得ず本を読む。ゆっくりとお茶を飲む。満足そうなおばさんが差し出すスープが僕の疲れを奪い去る。#twnovel

2014-10-21 20:35:42
七歩 @naholograph

渡り鳥がやってきた。僕の心に入り込みその羽を休める。こんな凍った湖で申し訳ないと謝れば、いやあたたかいよと笑う。故郷の湖はもう何年も凍ったままでもはや湖の体をなさぬのだとか。彼の温度で僕の凍った湖が溶けていく。この温もりですら溶けなかった湖を、誰かの心を思う。#twnovel

2014-12-29 08:05:30
七歩 @naholograph

ほこり高き俺様の心に大掃除隊がやってきた。まあすごい。こんなんだから彼女に振られてってクソが。蜘蛛の巣まみれの俺様のほこりをはたかせてやる。俺のちっぽけなほこりは少しずつ消えて、おや? これだけはとっときなさい。ぴかぴかに磨かれた小さな僕の誇り。有り難うまた来年。#twnovel

2014-12-31 09:57:15
七歩 @naholograph

僕の心に図書館ができた。今までの恋愛やいつか妄想した夢物語などがエッセイや小説、他にも様々な本に姿を変え並ぶ。増え続ける本の整理をあの子が手伝ってくれることになった。この本はエッセイ? 心配そうに尋ねるあの子に小説だと嘘をつく。エッセイの棚は君との恋にあけておく。#twnovel

2015-01-23 21:56:01
七歩 @naholograph

僕の心の片隅に編集さんがやってきた。いい切り口を探してくれるがあまりの薄さにどう切っても同じ切り口。いい仕事をさせたくて僕はあつく生きる。これでどうだと差しだしたなら、このままでいけます編集いらずですと。もうとっくに編集は始まっているというのにおかしなことを言う。#twnovel

2015-02-27 08:13:05
七歩 @naholograph

電源をオフにする仕事をしている。けれど世の中便利になって自動で切れるものばかり。星の光を落とす仕事も今日で最後、残された仕事はひとつきりだ。明け方、静かに扉を叩く。お茶をいただいたり世間話をしたあとで電源をオフにする。旧式ロボットの彼らに僕は死神と呼ばれている。#twnovel

2015-04-23 07:35:02
七歩 @naholograph

心の闇をすくう仕事をしている。次から次へと闇をすくって仕入れ袋いっぱいになったら夜屋に売りに行けばいい。心の闇はつなぎ合わせて夜屋のその手で夜になる。誇らしい反面、緊張で泣き出しそうな心の闇を、夜空を、慰めたくてつい星を贈ってしまうから、すくうほど寂しい僕の財布。#twnovel

2015-06-11 23:48:23
七歩 @naholograph

天気予報に傘マークが並べばそれが合図。外は真っ暗。それもそのはずふわふわクラゲのように漂う傘たちが空一面を埋め尽くす。黒や透明のよくある傘は避け、目当ての柄を見つけるとてるてる坊主を放り投げた。落ちる傘。差す光。傘を狩る仕事をしている。または太陽を取り戻す仕事を。#twnovel

2015-06-26 08:23:14
七歩 @naholograph

僕の心に勇者が住み着いた。冒険をはじめたものの狭い心の中だ、すぐに果てへと行き着いてしまう。勇者は少し考えてそうして、学んだばかりの僕の言葉で僕に語りかけた。一緒に冒険をしよう。#twnovel かくして僕ら旅に出る。世界は広がる。心が広がる。倒すべき魔王などいない、ずっと冒険。

2015-08-06 07:51:37
七歩 @naholograph

夏の終りにフラリ訪れる花火師は思い出を集めて花火を作る。いい思い出などないと戸惑う僕を無視し打ち上げられた花火は思いのほか美しかった。あの青は失恋。あの緑は。情けない思い出を見上げると胸の奥がムズとした。来年はいい素材準備しておくよ。僕の言葉に花火師はニヤリ笑う。#twnovel

2015-08-19 18:23:50
七歩 @naholograph

たんぽぽの綿毛のお世話係をしている。綿毛を育て飛べるよう整えるのだ。きちんと教育しなければ着地点を思い描くことができないしそもそも発育不全では飛ぶことすらままならない。定められた旅立ちの日、風が吹く。青い空へと飛び立つ綿毛たち。行く手にはまるで希望しかないように。#twnovel

2015-08-30 10:41:04
七歩 @naholograph

流星養殖場でアルバイトをしている。夢も希望もひっぱりだこの時代、いくら作っても生産は追いつかない。星々に「願いを叶える喜び」を教えるとキラキラ輝きだし、やがて一人前の流星へと育つ。出荷日は壮大な音楽を鳴らし華々しく見送る。星たちの悲鳴、後悔の声が聞こえないように。#twnovel

2015-08-31 15:51:27