牧眞司の文学あれこれ2

牧眞司の文学あれこれ http://togetter.com/li/290388 あまりに前のまとめが長くなりすぎたので、続きを作りました。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

サルトルは「飢えた子どもの前で文学は有効か?」とシャレたことを言った。ふつうに答えると、文学には直接的な有効性はない。文学は食べられないし、文学を読んだひとが子どもを助けたりしない。しかし『青い脂』の世界では、文学は直接に作用する。 (続く

2012-08-29 21:12:18
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

しかし、それは穏やかな有効性ではなく、とてつもない威力だ。核爆弾のような、情報テロのような。 (続く

2012-08-29 21:12:44
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『青い脂』が開幕する2068年では、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号などの文学クローンが作品を執筆し、その副作用(?)で体内に「青脂」を蓄積させる。「青脂」は世界の存亡を左右するほどの究極物質らしいが、詳細はあきらかにされない。 (続く

2012-08-29 21:13:14
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「青脂」は時間を遡って20世紀のソ連に送られる。スターリンをはじめとする要人たちは「青脂」の正体も使用法もわからないのだが、すでにこの世界はグロテスクに変貌している。人々は何かと言えば文学について語り、文学を譬喩として思考し、モンスターじみた文学者まで登場する。 (続く

2012-08-29 21:13:39
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

いわば文学に陵辱された世界だが、そのなかにいる人々はそれを奇異と感じない。実体的な世界(登場人物たちが暮らす社会)だけではなく、それをいま表象している文章(テキスト)そのものも犯されている。これがソローキンのソローキンたるところだ。

2012-08-29 21:14:12
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ホルヘ・フランコ『パライソ・トラベル』(河出書房新社)読了。以前に翻訳された『ロサリオの鋏』はぐらぐらと滾る傑作だったが、本書もだいぶ面白い。閉塞したコロンビアの生活から抜けだそうと、アメリカへ不法入国したカップルの運命。シビアにして情けなくて、どうしようもない。 (続く

2012-08-30 18:02:02
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

(1)コロンビアの鬱々した暮らしとインチキな代理店パライソ・トラベルを頼っての必死の旅程、(2)希望が瞬時に絶望へと転じたニューヨーク底辺の生活、(3)姿を消した彼女を追ってマイアミへのバス紀行――この3つの時間層が一体として語られる。 (続く

2012-08-30 18:03:14
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

この技巧が素晴らしい。技巧がそれとして目立たず、主人公の想起としてひとつらなりになっているのが凄い。内容的には、ぼくが大好きなダメ男・ワガママ女の小説なのだけど、まったく露悪的ではなく、当人たちもそれを持てあましているふうなのがよけいに面白い。

2012-08-30 18:03:50
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

伊藤計劃&円城塔『屍者の帝国』(河出書房新社)読了。ほとんど一気に読みました。物語中にいっぱいフックがあって、どんどん引きずられるかんじ。 (続く

2012-08-30 21:33:37
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

なによりまず、ワトスンとかヴァン・ヘルシングとかカラマーゾフとかフランケンシュタインとかダーウィンとかハダリーとかバロウズとかリットンとか、弟がいるMとか、虚実とりまぜた歴史的人物が主役・脇役でてんこ盛り。 (続く

2012-08-30 21:34:03
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ただの豪華スター共演ではなく、それぞれが本筋の展開やテーマ性としっかり関わっているので、知っていれば知っているほど、あるいは気づけば気づくほど、作品世界に深くふかくのめりこむはめになる。 (続く

2012-08-30 21:34:28
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

また、その仕掛けかたがじつに巧みで、読者はけっきょく作者の掌で踊っているのだけど、さも自分が解いたつもりで「この人物はこういうひとで、だからこういう場面でこんなことを言う、こんな行動をする」と浮かれることができる。とっても危険です。とっても楽しいです。 (続く

2012-08-30 21:34:51
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

その反面、物語の終盤で驚くべきロジック(人間性を根底から覆す仮説)が登場人物の口から明かされるところが、小説作法としてはやや説明的すぎる。これはまあ仕方ない。だって、そうでもしないと、とうてい読者が汲みとれないヴィジョンだから。そこがとってもSF。すごくセンス・オヴ・ワンダー。

2012-08-30 21:35:43
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『屍者の帝国』は大きなテーマにおいて、『虐殺器官』『ハーモニー』から一直線につながっている。すなわち、意識や思考の自明性をラディカルに問う。 (続く

2012-08-30 23:24:00
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

このテーマ展開にあたって、本作で梃子となるのがタイトルに掲げられた屍者だ。作中で提起されるこんな疑問――〔人間もあらかじめ、屍者なのではないかと思う。蘇りは、ただ屍者としての本性を、もう一度取り戻すだけなのではと。〕 (続く

2012-08-30 23:25:35
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

屍者が本性だとする。ならば、生きているとはどういうことか。いったんこの視座を得れば、魂(=意識や思考)が観念ではなく、形而下の問題になる。まさに伊藤計劃の方法論だ。

2012-08-30 23:30:45
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