かおるさとーさんの『氷菓』#10 解説

6
かおるさとー @kaoru_sato

『氷菓』10話について気づいたことをいくつか。

2012-06-30 22:36:15
かおるさとー @kaoru_sato

原作『愚者のエンドロール』の3話目です。前回までに提示された情報を元に、ここから謎を推理していきます。もちろん推理を担当するのは我らが主人公、折木奉太郎。しかしこれまでとは違い、思わぬ展開が彼を待ち受けていました。

2012-06-30 22:37:20
かおるさとー @kaoru_sato

奉太郎は、もちろん視聴者から見れば探偵役です。少なくとも古典部の他の3人より推理に長けています。そして作中でもその能力は、限られた世界ではありますが、一目置かれてきました。特に千反田さんにとってはそれが顕著です。長年抱いていた謎を解き明かしてくれたのですから、当然と言えば当然。

2012-06-30 22:38:13
かおるさとー @kaoru_sato

彼自身は、それを運だと言ってはばかりません。8話の冒頭でも自分のことを凡人だと評しています。しかし作中で、他者にはできないことをやってのけているのもまた事実。折木奉太郎は特別なのか。その問題に絡めて、今回は考えていきます。

2012-06-30 22:43:03
かおるさとー @kaoru_sato

あ、一応決定的なネタバレはしないように配慮していきます。ただ、前回までより、もっと謎に踏み込んでいくので、厳密にネタバレを避けたい方はお気をつけください。

2012-06-30 22:45:45
かおるさとー @kaoru_sato

まず冒頭。入須冬実に誘われて、奉太郎はちょっと高級そうな茶屋に入ります。お店の名前は「一二三」。高校生が入るにはちょっと身構えてしまいそうな場所ですね。奉太郎も雰囲気に呑まれたのか、らしくもなく正座です。これは入須先輩の策略でしょうか。地の利は彼女にあり。

2012-06-30 22:46:19
かおるさとー @kaoru_sato

ボックス席でろくに話をしたこともない異性の先輩と二人っきりって、これはとても緊張することと思います。相手が美人ならなおさらです。そのせいか奉太郎もいつもとは少し様子が違いますね。具体的には、片手で湯飲み茶碗を持っています。これまでは両手持ちだったのに。

2012-06-30 22:47:40
かおるさとー @kaoru_sato

前回、2年F組の有志3人の意見を退けた奉太郎は、そのことを入須先輩に話します。入須先輩はそれを「最初からわかっていた」と言いました。冷徹で非情だと奉太郎は評しましたが、非情になれることと非情な人間であることは必ずしも一致しないので、先輩が非情な人間とは限りませんよね。

2012-06-30 22:48:20
かおるさとー @kaoru_sato

彼女はまとめ役として、解決策を出さなければなりません。一番の目的はあのビデオ映画をきちんと完成させることなのですから、正しい評価を下すことはとても大事です。むしろチャンスを与えている分、寛容だと言えるかもしれません。まあ、奉太郎を釣るための餌にはしましたけど。

2012-06-30 22:48:43
かおるさとー @kaoru_sato

入須先輩は最初から、奉太郎が目当てだったと告白します。千反田える、学外の人間、そして壁新聞部部長・遠垣内将司、3人から奉太郎のことは聞いており、彼女は奉太郎を高く評価しているようです。美人の先輩から「君は特別よ」と讃えられた奉太郎の胸中やいかに。

2012-06-30 22:49:32
かおるさとー @kaoru_sato

いかに、っていうか、見ればわかりますけどね。奉太郎の世界が一瞬で薔薇色に包まれます。こんなにもストレートに特別だと言われたら、さすがの省エネ主義者も浮き足立ってしまう模様。美人の先輩が相手ですし、無理もないかもしれません。舞い上がってはいないようですけど、紙一重。

2012-06-30 22:50:08
かおるさとー @kaoru_sato

居住まいを正してから、入須先輩の態度が少し変わります。身を入れた様子で、改めて奉太郎に依頼します。奉太郎は気圧されながらも「運がよかっただけです」といつもの言葉で断ります。目を逸らす時点で劣勢ですけど。

2012-06-30 22:51:00
かおるさとー @kaoru_sato

頼られるというのは、光栄なことであると同時に受ける負担が大きなことでもあります。選択肢としては大抵、応えるか、断るかの2つになるわけですが、どちらを選んでも負担は大きいです。肉体的に、あるいは精神的に、負担を強いられます。省エネ主義者としては頼られたくないでしょう。

2012-06-30 22:51:40
かおるさとー @kaoru_sato

「歯がゆいな」とつぶやいたときの入須先輩の表情がすばらしいですね。まるで奉太郎の台詞がわかっていたかのような笑み。奉太郎にこの笑みの奥に潜む彼女の思惑は見えているでしょうか。見えていないでしょうね。

2012-06-30 22:52:10
かおるさとー @kaoru_sato

そこで入須先輩はちょっとした話を奉太郎に聞かせます。「誰でも自分を自覚するべきだ。でないと。……見ている側が馬鹿馬鹿しい」この言葉こそ奉太郎には辛辣に響いた気がしますけど、狙って言っているんでしょうね。

2012-06-30 22:52:29
かおるさとー @kaoru_sato

奉太郎が自分のことを「たまたま」と言うのは、能力に対する自覚のなさもありますけど、それ以上に省エネ主義という考えにのっとっているからだと思います。自分のことを高く買われるのは、それだけ負担が増えることにつながりますから。できれば考えることさえしたくないでしょう。

2012-06-30 22:53:01
かおるさとー @kaoru_sato

しかし彼は省エネ主義であると同時に血の通った人間でもありますから、すべてを機械のように無駄なく済ませるというわけではありません。要は、非情になりきれない人間です。省エネ主義的に考えると精神的負担を避けているのかもしれませんが、単純に根は誠実なのだと思います。彼なりに。

2012-06-30 22:53:46
かおるさとー @kaoru_sato

だからこそ、入須先輩のたとえ話は胸に響いたでしょう。少なくとも自己評価をやり直してみようかと思うくらいには。こうして奉太郎は入須先輩の依頼を引き受けます。自分の価値を正しく見積もるために。

2012-06-30 22:54:46
かおるさとー @kaoru_sato

ただ、入須先輩の言葉に乗せられてはいますが、この時点ではまだ奉太郎は舞い上がっているわけではありません。自分の能力について半信半疑です(三信七疑くらいかもしれない)。むしろ不安の方が強いと思います。これが駄目なら映画は完成しませんし。精神的負担が大きいですね。

2012-06-30 22:56:39
かおるさとー @kaoru_sato

翌日、里志とともに登校する奉太郎。映画の謎解きに挑むことを彼に伝えると、里志は「今度もまた千反田さんが原因かい?」と訊ねてきます。これまでならそうでしたけど、今回は事情が違います。今回は「千反田さんを納得させる」ことより入須先輩の依頼に応えることが一番の目的ですから。

2012-06-30 22:58:13
かおるさとー @kaoru_sato

そのことが結果的に千反田さんを納得させることにつながるかもしれませんが、あくまで副次的な話ですね。そういう意味ではらしくない行動です。本来なら、やらなくてもいいことですから。

2012-06-30 22:58:36
かおるさとー @kaoru_sato

※千反田さんを納得させることは、奉太郎の中ではすでに「やらなければいけないこと」になっています。7話参照。

2012-06-30 22:59:35
かおるさとー @kaoru_sato

奉太郎は里志に「自分にしかできないことはあるか」と訊きます。里志は「ないね」と答えます。あまり悩まずに、あっさり答えてみせてますが、つまりこれは前々から考えにあったことなのでしょう。8話の「才能がない」話につながります。里志は自分が特別ではないとすでに自覚しています。

2012-06-30 23:01:42
かおるさとー @kaoru_sato

奉太郎も自分が特別ではないと(少なくとも前日までは)考えていますが、里志の場合は少し意味合いが違います。里志は今のところ、その自己評価を考え直すつもりはないようです。奉太郎の省エネ主義はたまにブレるのですけど、里志の姿勢や立ち位置はずっと一貫したものですね。

2012-06-30 23:02:06
かおるさとー @kaoru_sato

彼の主義や信条は、奉太郎のそれよりすでに確立されたものなのかもしれません。もしそうだとすれば、おそらく彼は誰に何を言われようとも、自己評価を改めたりすることはないでしょう。何者も、彼の主義を揺るがすことはできないと思います。……ただ一人を除いて。

2012-06-30 23:02:29
1 ・・ 4 次へ