ICRPのLNTモデルは安全側に立った仮説というのは誤解/曲解/歪曲のいずれかである。

最初反語表現でタイトルを考えたのですが… 念の為、付け加えますと、ICRPのLNTが科学的に正しいという主張をしているわけではありません。ICRPの文章を読んでおいて、それを専門家が「安全側に立った」仮説であると説明・解釈するのはおかしいと言いたいのです。 で、後段の重要な点というのもLNTモデルが正しいのであれば、という話です。 続きを読む
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Masashi Shirabe @M_shirabe

(72)両親の被ばくが子どもに追加的な遺伝疾患をもたらすという直接の証拠は引き続き得られていない。しかし、本委員会は被ばくが遺伝的影響を起こすという説得力のある証拠が実験動物にあると判断した。

2012-07-05 12:43:54
Masashi Shirabe @M_shirabe

(続き)したがって、本委員会は放射線防護の体系に遺伝的影響のリスクを含めることを慎重に (prudently)続ける。

2012-07-05 12:44:10

(74) There continues to be no direct evidence that exposure of parents to radiation leads to excess heritable disease in offspring. However, the Commission judges that there is compelling evidence that radiation causes heritable effects in experimental animals. Therefore, the Commission prudently continues to include the risk of heritable effects in its system of radiological protection.


Masashi Shirabe @M_shirabe

prudentlyは「用心して」と訳すべきかも?

2012-07-05 12:46:44
Masashi Shirabe @M_shirabe

国際機関やICRPのような組織が作る報告や勧告を精読したり、それを作成した経験があれば承知の通り、報告書内のそれぞれの単語はかなり注意深く選ばれている。

2012-07-05 12:47:21
Masashi Shirabe @M_shirabe

遺伝的影響に関するパラグラフでは、安全側に振った判断であることを明示する“prudently”が使われているのに対し、がんリスクに対するLNTモデルの採用については、そのような単語が使われていない。

2012-07-05 12:48:22
Masashi Shirabe @M_shirabe

それでころか、前提とすることが妥当(plausible)であると言って済むところをあえて科学的に妥当(scientifically plausible)とまで表現する。

2012-07-05 12:49:10
Masashi Shirabe @M_shirabe

ICRPの勧告が作成される背後では様々な意見が出たことは想像に難くない。しかし、最終的な成果物である勧告だけがICRPの合意事項であり、がんリスクに関するLNTモデルは安全側に立った見解、すなわち、ある種の過大評価であるという理解・解説は全くの誤解…というか歪曲である。

2012-07-05 12:50:29
Masashi Shirabe @M_shirabe

もちろん、LNTという前提(assumption)を採用するに至った細かな前提には、「科学的事実」もあれば、「科学的知見」に基づく推測もあり、将来、それらの前提が覆される可能性が存在する。つまり、LNTは将来的に過小・過大評価のいずれかとなる可能性もあることは言うまでもない。

2012-07-05 12:53:02
Masashi Shirabe @M_shirabe

ただ、現在、少なくとも外部被ばくに関して、LNTをひっくり返すには、相当の強い証拠をださないといけないのではないかと想像している(ここは専門家に聞きたいとこだけど…)

2012-07-05 12:54:54
Masashi Shirabe @M_shirabe

遺伝子の修復機構に関する知見はLNTモデルにとって「想定内」と言うか、比例を前提とするに至った推論の基本知識の一部でしかない。(もちろん、修復機構の詳細が明らかになれば話は変わるとは思うけど)

2012-07-05 12:57:13
Masashi Shirabe @M_shirabe

LNTモデルのベースとなる考え方は、「ヒトを攻撃したエネルギーに比例してヒトが受けるダメージが増える」といった大胆なものでは全くない。

2012-07-05 12:58:26
Masashi Shirabe @M_shirabe

単純化してしまえば、一本の放射線がDNAを損傷する確率、DNAの損傷が修復等されずに残る確率、DNAの損傷が細胞のがん化につながる確率、がん化した細胞が免疫系をくぐり抜け塊としての「がん」となる確率、それが病気としての「がん」となる確率などが

2012-07-05 12:59:03
Masashi Shirabe @M_shirabe

非常にわずかながらそれぞれ存在し、重ね合わさって、全体として「がん」を発症する確率となるという考え方。一本の放射線 ががんへと結びつく確率はとてつもなく小さく、それを心配するのはナンセンス。しかし、その僅かな確率が決してゼロとみなせるものでないというのも前提。

2012-07-05 13:00:10
Masashi Shirabe @M_shirabe

もちろん、この前提も今後書き換えられる可能性がある。

2012-07-05 13:01:26
Masashi Shirabe @M_shirabe

LNTモデル(の採用)が意味する重要なことはいくつかある。まず累積100mSv未満のがんリスクは、疫学的な手法によって直接推計ができない程度のリスクであること。これは既知のリスク因子と比べて格別に高いリスク、あるいは即座に何かを引き起こす類のリスクではないことを示唆。

2012-07-05 13:03:55
Masashi Shirabe @M_shirabe

もちろん、このことはリスクが受け入れ可能なほど小さいことを意味するわけではない。

2012-07-05 13:04:49
Masashi Shirabe @M_shirabe

。o O (でも、大きくはないとと言えなくもない…という微妙なレベルだと思う。(福島の相対的に線量が高い地域の子どもたちは別として)

2012-07-05 13:49:25
Masashi Shirabe @M_shirabe

とくに他のがん因子と比べてそのリスクが小さいことは被ばくリスクが受け入れ可能である理由にはならない。

2012-07-05 13:05:59
Masashi Shirabe @M_shirabe

検証に必要なサンプルサイズを考えれば、100mSvの被ばくのリスクとリスクが同程度以下のがん因子を検出することは難しいため、端から他の既知因子と比べれば低線量被ばくのがんリスクは同等ないしは小さくなることが宿命(例外はかなりあるけどね)。他の発がん因子より小さい>当たり前だろ!

2012-07-05 13:08:18
Masashi Shirabe @M_shirabe

第二に重要なのが、LNTモデルから判断すると、いざがんを発症した場合にも、その原因帰属が極めて難しいこと。不幸にしてがんになったとしても、それが被ばく由来である事後確率は小さい。>裁判しても勝てない可能性(T_T)。だから、発がんの前に、集団として権利を確保する必要がある。

2012-07-05 13:10:36
Masashi Shirabe @M_shirabe

第三にLNTモデルが意味する重要な点は、科学的に安全な被ばくのレベルが決定できないこと。食品の放射性物質による汚染に対する集団としての対応について考えれば問題の難しさは明らか。

2012-07-05 13:11:46
Masashi Shirabe @M_shirabe

汚染された食品を幅広い人口で消費していくことは、消費者個々のリスクを低減し、理想的には生産者を助ける対策へとつながるかもしれない。しかし、LNTに基づく限り、リスク要因を希釈しても犠牲者の数は変わらない。

2012-07-05 13:13:01
Masashi Shirabe @M_shirabe

だからといって、リスクを分かち合う態度が愚かであるというのは間違い。リスクの分かち合いには倫理的な判断が伴う。その是非をLNTモデルだけで判断する方がむしろ愚かだと思う。

2012-07-05 13:14:18