〔AR〕その8

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その7(http://togetter.com/li/341457) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

これが、こいしの無意識の力の無意識たる所以といえる。こいしの何でもない無自覚な言動が、相手の回避したいと思う事柄への意識を、意図せず揺さぶるのだ。

2012-07-20 23:43:21
BIONET @BIONET_

ちなみに、寝不足妖怪の寝不足とは、こいしがさとりを比喩表現するときに好んで用いるもので、さとりの細い双眸に由来する。本人にはそのつもりはないのだが、さとりの双眸はどうにも寝ぼけ眼のように腫れぼったい開き方をしているのだ。

2012-07-20 23:43:37
BIONET @BIONET_

「ば、馬鹿なこというんじゃないの――私は、心理を言語化することで、その仕組みや働きを研究し、より深く心を読めるようになろうとしているだけであって、小説の執筆はそのための訓練なのよ、そう、訓練! それを、いちいち他の人に読んでもらおうなんて思わないわよ」

2012-07-20 23:51:01
BIONET @BIONET_

「えぇー、でもせっかく書いたのが、読まれることもなく埋もれちゃうなんて、つまんないと思うなー」 「私は別にいいのよ」 (早く話題逸らして!)

2012-07-20 23:51:12
BIONET @BIONET_

なんとかポーカーフェイスを保ちつつも、さとりは内心滝のように冷や汗が溢れていた。そしてこいしの無意識に、別のことに興味を持つよう祈る。

2012-07-20 23:52:40
BIONET @BIONET_

「あ、お姉ちゃん! 『lava=ers(ラヴァーズ)チョコレート』全部食べてないでしょうね!」 「へ? あ、ああ、あれね。まだ沢山有るわよ。この間お燐に買い足して貰ったから、好きなだけ食べなさい。うちでチョコレート食べるのは私と貴方とおくうくらいだし」

2012-07-20 23:53:11
BIONET @BIONET_

「やた! おくうに取られる前に全部食べちゃう!」 (やた! これで解放される!) こいしは正面の姉に目もくれないどころか、談話室のオブジェクトの一切に実体がないかのように、するりと戸棚に移動する。そして一番上の菓子棚を全開にして、犬のように中身を漁りだした。

2012-07-20 23:54:51
BIONET @BIONET_

こうなると、無意識の心変わりが起こるのもしばらく先延ばしになるだろう。こいしの大好物である地底ブランド銘菓『lava=ersチョコレート』は、冷え固まった溶岩と見紛うような外見と、その外見を裏切らない異様な頑丈さ故、一個食べるのにもそれなりの時間を要する。

2012-07-21 00:01:00
BIONET @BIONET_

こいしはそれを一度に最低五個は食べないと気が済まないため、当分談話室から動くことはないだろう。さとりは、こいしから見えない角度で、ほっと安堵の息を漏らした。そして、まだある程度熱いポットで、こいしの分の紅茶を淹れて、すぐに談話室を後にした。

2012-07-21 00:01:34
BIONET @BIONET_

自室に戻ったさとりは、机上のバイオネット端末の画面が点灯している様子にすぐ気付いた。

2012-07-21 21:34:13
BIONET @BIONET_

部屋の鍵を閉め、机に向かって椅子に座り、端末のディスプレイを眺める。端末を私有化しているさとりは、自身の匿名アカウントの管理ページに画面を止めていた。操作を習熟していくにつれ、この管理ページを起点にしても、バイオネットの利用にはなんの支障はないことがわかったからだ。

2012-07-21 21:37:15
BIONET @BIONET_

ちなみに、命蓮寺との手紙の遣り取りを行う『古明地さとり』側のアカウントは、一日一回だけポストを確認するか、手紙を送る時しか使っていない。利用時間でいえば、『Surplus R』側のアカウントの方が圧倒的に長いのだ。

2012-07-21 21:37:29
BIONET @BIONET_

さて、点灯の原因は、手紙が来たというシステム側からの通知だった。 「ああ、命蓮寺から返信が来たのね――って、え?」

2012-07-21 21:42:47
BIONET @BIONET_

手紙を確認しようか、と一瞬思ったさとりは、その一瞬後に自分の間違いに気付いた。今開いているページは、『古明地さとり』の管理ページではない。 「ちょっと……待って!」

2012-07-21 21:42:56
BIONET @BIONET_

椅子の背もたれに持たれようとして、その慣性をキャンセルし、バイオネット端末へ食いつくさとり。  >Surplus R   >一件の手紙が届いています  間違いなく、さとりの匿名アカウント宛に、手紙が届いていたことがわかった。

2012-07-21 21:43:31
BIONET @BIONET_

わかった途端、さとりは、寝不足妖怪などと決して言われそうもないくらい、ギョッと目を見開いた。

2012-07-21 21:45:36
BIONET @BIONET_

「ほんと……ほんとに?」 声は震えていた。いつかくるだろうか、と淡い期待を抱いていたものの、いざ実際にその時がくると、さとりは自分でも笑えるくらい動揺していた。妖怪は、人間よりも精神的な揺さぶりに弱い。それがたとえ、他者の精神をのぞき込める覚であってもだ。

2012-07-21 21:45:53
BIONET @BIONET_

バイオネットは、匿名利用であってもペンネームの類を用いた場合、そのペンネーム宛に手紙を送ることができる。つまり、素性を明かさなくても手紙の遣り取りは可能であるということだ。

2012-07-21 21:47:30
BIONET @BIONET_

さとりは、今まで『Surplus R』の名前では小説の公開しか行っていなかった。ということは、『Surplus R』宛に手紙が来たということは、すなわち、さとりが吊り橋めいた心境で待ち望んでいた、小説へのリアクションではないのか。

2012-07-21 21:47:45
BIONET @BIONET_

しかし、さとりはその手紙の内容を確認することを即断できなかった。十中八九、『Surplus R』の正体が古明地さとりであるということは本人以外にわかりようのない事のはずだが、ばれていないという確証がないのもまた事実である。

2012-07-21 21:49:17
BIONET @BIONET_

もし、送られてきた手紙が、自分の正体を告発するようなものであったのなら……さとりは、どうにも得も言われぬ不安を拭えずにいた。 「ふぅ……ふぅ……」

2012-07-21 21:49:31
BIONET @BIONET_

荒い呼吸をなんとか整える。一度落ち着かなければ話にならない。動揺したままの頭では、悪い考えの連鎖しか起こらないものだ。

2012-07-21 21:50:05
BIONET @BIONET_

さとりは恐る恐る、端末を操作して通知の詳細を表示する。端末から手紙を参照する時は、新着の通知から、手紙の送り主などの基本情報の表示を経由して、最後に本文を閲覧できるようになる。形は違えど、それは通常の手紙と同様、受け取り、宛名の確認、そして開封のち拝読という手順を踏襲していた。

2012-07-21 21:50:56