「キョート・ヘル・オン・アース」破「ライジング・タイド」#2
ディプロマットの視線はスローハンドに釘付けとなっていた。「バカな……貴方……自ら……」「当然、私自らだ」スローハンドは低く言った。「私は困惑し、怖れ、最善を尽くさねばならぬと感じている」彼はディプロマットのアイサツを待った。 50
2012-07-31 20:59:54「ドーモ。スローハンド=サン。ジャバウォック=サン。ブルーオーブ=サン」ディプロマットは絶望的にオジギした。「……ディプロマットです」彼の若い目には悲壮な決意があった。(((命にかえても背後のものを守ると?……見上げた勇気。そして無知だ)))スローハンドは哀れんだ。 51
2012-07-31 21:03:52このトンネルの情報が、果たしてどこから漏れたものか。杜撰な施設の一つ二つでもあったろうか。非ニンジャ主体の企業とは、そうしたものか。彼はヨロシサンをそこまで信頼してはいないが……。「ドーモ。スローハンドです」「ジャバウォックです」「ブルーオーブです」ディプロマットは上の空だ。52
2012-07-31 21:15:02スローハンドのニューロンが加速する。聴覚情報に極度のイコライジングがかかり、ディプロマットが緩慢にその手をかざそうとする動作が見える。遅い世界を、スローハンドだけが平常に動く。彼は己のヘイスト・ジツに、このジツを与えたイダテン・ニンジャに、愛憎半ばする感情を抱いている。53
2012-07-31 21:23:01ヘイスト・ジツは彼の両肩に時間の重みを集中させる。このジツは、おいそれと用いてよいジツではない。それは死を意味する。使えば使うほどに彼は老いるのだ。重い代償であった。 54
2012-07-31 21:32:59ニンジャ憑依者は成人以降の老化速度が遅くなる。憑依時点から若返る事はなく、程度の個人差も大きいが、なべて共通する肉体変化だ……スローハンドただ一人を除き。彼は、老いる。非ニンジャよりもずっと速く。 55
2012-07-31 21:41:04このままでは、彼は長くない。ヨロシサン製薬のバイオ延命技術への投資は遠からず彼の命綱となろう。ここに利害の一致がある。彼はヨロシサン製薬と自分以外のグランドマスター勢力全てを引き換えにしても構わないと考えていた。 56
2012-07-31 22:00:30精神的支柱であるロード。摂政スローハンド。彼の指揮下、サブジュゲイターのヨロシ・ジツによって管理されるバイオニンジャとクローンヤクザ。派閥争いと無縁の、昆虫めいた社会。それが革命後のザイバツ・シャドーギルドであり、ヴィジランス以前から根を張るシステム・バックドアの目的だ。57
2012-07-31 22:14:57ゆえに、このシステム・バックドアの秘密は守られねばならない。特に、彼自身の関与の証は。……スローハンドはディプロマットに近づく。この若いニンジャは苦し紛れの攻性ポータルを開くつもりだろう。いじましい抵抗だ。何が彼をそうさせる?スローハンドは懐へ潜り込み、二度、拳を叩き込んだ。58
2012-07-31 22:26:35「グワーッ」ディプロマットはゆっくりと宙を飛び、奥のバン車両に激突した。バンからは様々なケーブル類が地を這う。彼は沈思する。この愚者をこの後どうしたものか。城外はどうだ。連なる者はいるか。インタビューの必要があるか。スローハンドは加速を解く。 59
2012-07-31 22:45:25その時、彼のIRC通信機が鳴る。『ドーモ。パラゴンです。どこにおられるか?スローハンド=サン』「如何なされた」『セレモニーだ。間もなく準備は整う。全て揃うがゆえに』スローハンドは片眉を上げた。「それはチョージョー」『……どこにおられるか?スローハンド=サン』 60
2012-07-31 22:53:09「当然、城内に」『それはそうだ』パラゴンは言った。そして沈黙した。スローハンドは苛立つ。会話をしていれば加速はできぬ。『……すぐに琥珀ニンジャ像の間へ。急がれよ。急がれぬ理由は無いな?』スローハンドは眉根を寄せた。「当然だ」『……どこにおられる?』「馳せ参じる」 61
2012-07-31 23:00:48スローハンドは通信を終了した。ディプロマットを殺すなら一瞬だ。だが、加減が必要だ。どれだけ加速し、どれだけ寿命を磨り減らす事が許されよう。そして奥に他のニンジャがいる可能性はどうだ。イクサは長引くか。リスク。パラゴンの疑念。(((毒蛙めが)))彼は判断を下した。 62
2012-07-31 23:12:20「ゆけ」スローハンドは二人の配下に命じた。「一切の痕跡を残すべからず」「「ヨロコンデー!」」ジャバウォックとブルーオーブが駆け出した。 「一匹生かして持ち帰るべし。ディプロマットの他に虫が居れば、それでも構わぬ」「「ヨロコンデー!」」 63
2012-07-31 23:19:36判断を下すや、スローハンドは無駄に躊躇わず去った。……そして、ディプロマットにとってのジゴクが始まった。 64
2012-07-31 23:31:51……「イヤーッ!」ディプロマットは攻性ポータルを己の前方に設置し、防御しながら体勢を立て直した。ジャバウォックが放った鉄針は出口の無いポータルに吸い込まれた。サイドから切り込んできたのはブルーオーブだ。「イヤーッ!」大振りのフックが襲いかかる! 65
2012-07-31 23:35:31「イヤーッ!」ディプロマットはバック転を繰り出し、これを回避!飛びながらジャバウォックめがけスリケンを投擲!ジャバウォックはスリケンを側転で躱し、鉄針を放射状に放つ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」再びポータルを張って相殺!ブルーオーブが迫る! 66
2012-07-31 23:40:03「イヤーッ!」ディプロマットはブルーオーブのケリ・キックを危うく躱し、ジャバウォックの方向に再度ポータルを展開した。「ハ!そんなに俺が怖いか!」ジャバウォックは嘲り、注意深くポータルを回り込む。「イヤーッ!」ブルーオーブがチョップを繰り出す! 67
2012-07-31 23:58:49「イヤーッ!」ディプロマットは腕を翳してこれを受けた。背後にジャバウォック!「イヤーッ!」「グワーッ!」背中にミドルキックを食らい、ディプロマットがのけぞる!「イヤーッ!」ブルーオーブがみぞおちにフックを叩き込む!「グワーッ!」ディプロマットが前屈みになる! 68
2012-08-01 00:10:43「ハハーッ!」ブルーオーブが残忍に笑い、ディプロマットの顔を殴る!「イヤーッ!」「グワーッ!」「ハハーッ!」ジャバウォックがディプロマットを羽交い締めにした。「助けはおらんのか?一人で頑張るのか?」ブルーオーブが羽交い締めのディプロマットを蹴る!「イヤーッ!」「グワーッ!」69
2012-08-01 00:17:53ディプロマットはどこまで耐えられるのか?残忍な攻撃に晒されながら、彼の意識はバンの中の二人の非ニンジャに向いた。意識を失ったナンシーとキンギョ屋に。彼らを護らねば……護らねば……BRATATATATAT!「グワーッ!?」ジャバウォックが呻いた。背中に銃弾を叩き込まれたのだ! 70
2012-08-01 00:26:19「イヤーッ!?」ブルーオーブはディプロマットを嬲るような左拳を繰り出しながら目を見張った。背中からジャバウォックを撃ったのは……UNIXバンから迫り出したミニガンだというのか?何たる武装!?「グワーッ!」更に悲鳴をあげたのはブルーオーブ!ナムサン!左手首から先がケジメ!? 71
2012-08-01 00:28:18羽交い締めが解かれたディプロマットがポータルを咄嗟に開いたのだ。ブルーオーブはポータルにパンチを繰り出してしまった!「俺の腕ーッ!」ブルーオーブが仰け反った。「イヤーッ!」ディプロマットはブルーオーブにサイドキックを叩き込む!「グワーッ!」 72
2012-08-01 00:33:07ディプロマットは晴れやかな気持ちか?否……彼の顔は苦悩に歪んでいた。ミニガン攻撃はキンギョ屋だ。これにより彼のバンもまた激烈な攻撃に晒される事になる。彼の未熟が巻き込んでしまった。ミニガンを十分に撃ち込めばニンジャも死ぬ。だが、ニンジャは動かぬ的ではないのだ。どこまでやれる?73
2012-08-01 00:35:11そして実際彼のヒサツ・ワザである攻性ポータル……確かに強力なジツであるが、本来これは攻撃の為のジツでは無い。ダークドメインのムシアナ・ジツのようにアンタイ・ウェポンを取り出す事もできなければ、自身の存在次元をずらして攻撃を回避する事も当然できない。単なる穴だ。 74
2012-08-01 00:40:13