ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/01

塩中 吉里 @shionaka_kiri

#twnovel 秋頃から悪寒が止まらない。原因は知ってる。炎天下のあの日、僕が砂浜で飲んだすいかの種だ。見舞いに来た友人たちは、がりがりの手足に絡んだしなびたつる草をさすってくれた。「また夏が来たら」励ましの声は優しいけど、眼鏡のあの子が開いた電子百科はイチネンソウと囁いてる。

a @ajpwagj57934

「暑い」そう言って夕貴はだらりと縁側に仰向けになった。冬生まれの彼女は酷く暑さに弱い。「西瓜ぐらいじゃ冷えへんわ」上を向いた白い喉元に、甘い汁が垂れる。「ねえ、暑いんやけど」熱の篭った瞳を見つめて喉を撫でると目を細めて、「コウちゃんの手ぇは冷たいね」夕貴が笑った。#twnovel

あまたす @amatasu

僕の目は前からちょっと変で、モノが二重に見える。といっても月が二つに見えるとかじゃなく、多重露光の写真みたいに全く別のものが見えるんだ。コップとマッチ棒とか、ビルと蝶々とか。だけど、きみを見るときだけなぜかきみが二人に見える。もう一人のきみは、いつも泣いている。 #twnovel

@kissmint_xxx

魔法の世界から写真が届いた。たくさんの動物が写っていたが、絶えず動き回り、鳴き声もするので落ち着かない。写真の中から出てくる動物もいる。象がこちらへ来ようとした時、まずいと思い新聞紙で包んだ。しばらくすると鳴き声が聞こえなくなり、怖くなって引き出しにしまった。 #twnovel

falsewhere @nowherenotime

#twnovel レールの輝きをじっと見つめていたら、警報器が鳴りはじめて、慌てて踏切を渡りきった。人間達に混じって暮らす夏休み。巣穴に潜り込んで宿題を片付けたり、ガラスの破片を踏んづけて足を切ってしまったり、色々あるけど、秋になるまでにはたぶん、羽根も生えそろうと思うんだよね。

雨音 @candypeal

作り話なんてくだらない。リアルな出来事が一番面白くて恐ろしくて、小説なんかつまらないってやっと気付いたの。私はもう事実しか書かないわ。にっこり笑った売れっ子小説家の彼女は、何かで赤く染まった大きな灰皿を僕に差し出し、次回作の殺人トリックを嬉しそうに語り始めた。 #twnovel

birdboiled @birdboiled

#twnovel 氷の色があるんだ、うだる暑さの中、ぼそりと洋介がいう。うちのなかにあがんな、氷なら出してくるから、とおれは笑ったが、洋介はそれきり黙って、庭の東に植えられた古い桜におれをみちびいた。指さす先、羽化したばかりの蝉の羽が、氷河の裂け目のような淡い浅葱色に透けていた。

ガラクタ★ぽんこつ丸 @shun_kitashiro

アパートの隣室の夫婦に赤ん坊が生まれたようだ。四六時中泣き声がうるさい。俺は我慢の限界を感じていたが、その夫婦が急に引っ越して出て行った。噂好きの住人から、奥さんが死産してノイローゼになり入院するのだと聞いた。部屋に戻ると、また聞こえてきた「おぎゃーおぎゃー」　#twnovel

いでゆのまち @ideimachi

#twnovel 孫に会いたい、と頼まれた。昔、本屋で買ったおばあちゃんの霊本。料理のコツ、掃除の裏技…彼を射止められたのは、丁寧に教えてくれた知恵のおかげ。お孫さんも故人で、お墓を訪ねてみる。（有難う）笑顔で墓碑に消えるおばあちゃん。本は文字だけになったけど、いまも私の虎の巻。

wacpre @wacpre

夏期講習ではいつも同じ席に座る。ホワイトボードもよく見えるが、彼の姿もよく見える場所。今はまだ後姿で我慢できるけど、いつか横に座っている彼女の代わりに座ってみたい。短い恋では終わらせたくない。授業そっちのけで作戦を練る。 #twnovel 長い夏はこれからが本番。

onai shigeo @onaishigeo

#twnovel かくれんぼうのたびにいつも見つけてもらえないで私は泣いた。どうしてパパはママが居ない日に決まってかくれんぼうをしようと言い出すのだろ。ずっと不思議だったが三回忌とき姉から真実を聞かされた。「ママは知らないの？」「これからよ。長い長いかくれんぼうをママと始めるの」

雪月 @setugetufuka

夜市で『お好みの金魚作ります』という看板を見つけた。「紫のを」と言うと、店主は水を張ったタライに紫の絵の具を注ぎ始めた。絵の具は水に落ちると金魚を形作っていく。最後に注ぎ口からまっすぐ伸びた絵の具を糸の様に掴むと、金魚が風船みたいに浮かんでひらりと尾鰭を振った。 #twnovel

永坂暖日 @nagasaka_danpi

「夏を捕まえよう」熱帯夜に懐かしい声が聞こえた。それは梅雨入りの頃に交わして初夏の朝に消えた約束。海にプール、夜には花火と指切りしたナツの白い顔や細い指を忘れられない。「今からやろう」無邪気な声だけが届く。「ほら、鬼さんこちら」 誘われるまま、夜に彷徨い出る。 #twnovel