「キョート・ヘル・オン・アース」破「ライジング・タイド」#8
「ボス、電算機室ヴィジランス=サンからの新たな戦闘オッファーです」「何だと!?」モーティマーは曇りかけた瞳を再び輝かせた。「キョート城周囲を飛行する共和国防衛軍航空戦力を排除して欲しいとのこと」「それだ!いいぞいいぞ!お前には空中機動戦闘のほうが向いている!」「イエスボス」 23
2012-08-12 01:30:15モーターツヨシはアーム部に備わったバルカンで共和国戦闘機を撃墜し始めた。「こちらベース!何をやっている!?敵はたったの一機だぞ!?ドーゾ!」「こちらも頑張っているんです!ドーゾ!」「敵は何者だ!?ドーゾ!」「あれは……雷神!オムラのエンブレ……ウワーッ!」KABOOOOM! 24
2012-08-12 01:36:04「背後より追尾ミサイルの接近を複数確認。電磁バリア展開」機体周辺の大気が、ボンボリ状に歪む。BLAMBLAMBLAM!キョート上空に爆炎の花が連鎖的に咲く。「どうした!?」モーティマーが問う。高速旋回を終えたネブカドネザルが答える「距離2000。武装マグロツェッペリン編隊」 25
2012-08-12 01:49:42「武装ツェッペリンだと!?まるで戦争じゃないか!」「イエスボス、防衛軍が武装蜂起したとのこと」「何だと!?」「地上は暴徒であふれています。そこかしこで火の手があっています。キョート城が空を飛んでいます。ボス、命令を」 26
2012-08-12 02:10:04「ついにこの時が来た!ずっと待ち望んでいたんだ!」モーティマーは涙を流していた。「侵略軍を叩き潰せ!正面から行け!オムラとモーター理念の威光を全世界に知らしめろ!行け!」モーティマーが叫ぶ。彼の暴走を止める忠臣は、もう誰一人としてオムラ上層部には残っていない。「イエスボス」 27
2012-08-12 02:11:38忠実なるネブカドネザルとモーターツヨシは、電磁バリアを展開したまま武装マグロツェッペリン編隊へと突撃飛行を敢行した。「目標に接近中。距離1000、500……ミサイル飛来」ネブカドネザルが報告する。BLAMBLAMBLAMBLAM!ガイオン上空に爆発と光球の回廊が作られた! 28
2012-08-12 02:14:36「やれ!お前は強い!ツーヨーシ!ツーヨーシ!」モーティマーはネブカドネザルからの音声報告をもとに輝かしい戦場の光景を夢想しながら、熱っぽく呼びかけた。その声は大ホールにも響き渡り、職人や残業社員らは全員席について、涙ぐみながら手拍子とともに叫ぶ!「ツーヨーシ!ツーヨーシ!」 29
2012-08-12 02:17:32モーターツヨシはミサイルを強引に電磁バリア突破しながら、武装ツェッペリンの横腹に密着する。「距離ゼロ。直接攻撃開始」「ツーヨーシ!ツーヨーシ!」「右」KBAM!ニトロ爆発によって巨大アームがピストン駆動!「左」KBAM!「ツーヨーシ!ツーヨーシ!ツーヨーシ!ツーヨーシ!」 30
2012-08-12 02:20:23「こちらベース!ツェッペリン部隊、何をやっている!?ドーゾ!」「謎のオムラの機動兵器が!おお、信じられない!殴っています!ブッダ!ブッダ!そんな!」KADOOOM!「装甲貫通。機関部大破。ツェッペリンを一機撃墜」「モーターヤッター!」社長が叫ぶ!社員も全員起立で泣きむせぶ! 31
2012-08-12 02:24:32タララッ、タララッ、タララッ……オレンジ色のネイルが武装UNIXバンの屋根をリズミカルに、かつ苛立たしげに叩く。「なあ、もういいだろ?サッサと行こうぜ!?」武装バンの屋根に座るイグナイトは、不機嫌そうに呟いた。檻の中に閉じ込められた欲求不満の小動物のように落ち着きが無い。 33
2012-08-12 22:47:46銃弾の雨を受けて変形したドアが、キイイ、と悲痛な金属の叫びを上げつつ内側から開かれる。UNIXバンの外見は、戦場のど真ん中に何年間も放置された民間車両のような有様だ。中から出てくるのは、ブラックヘイズとフェイタル。イグナイトはナンシーと同じ空間にいることを拒み、車外にいた。 34
2012-08-12 22:53:27イグナイトは何時間にも感じたかもしれないが、彼らのブリーフィングは実際短かった。クローン軍団を掃討した後、まずは敵の増援に備え最低限のトラップが仕掛けられた。次いで、頭を打って気絶していたキンギョ屋が正気づけられ、バンに積まれていた応急キットでナンシーの指が治療された。 35
2012-08-12 23:03:25バンに乗り込んだ面々は、互いの持つカードを交換し合った。主導するのはナンシー・リーとブラックヘイズ。無論、全ての手札は見せない。「おたくはハードなディーラーだ」傭兵は煙を吐きながら豪胆なレディ・ハッカーに敬意を払った。ディプロマットは言葉を発さず、その様子をじっと見ていた。 36
2012-08-12 23:08:01琥珀ニンジャの間や地上での顛末は、車内のUNIXモニタ群が断片的な情報を淡々と吐き出し続けていた。「核シェルターに篭ってた気分だわ」ナンシーは冗談めかして言った。だがその瞳の奥には、ジャーナリスト精神からか、あるいは一人の人間としてか、ザイバツへの確固たる怒りが燃えていた。 37
2012-08-12 23:12:34「我々の目的は、メンタリスト=サンの首だ。あとは適当に、違約金の埋め合わせを失敬して帰る」スピーディーな腹の探りあいの後、ブラックヘイズはぶっきらぼうに言った。フェイタルは少し落ち着かない様子で、彼の言動を見守っていた。 38
2012-08-12 23:25:24「こちらから提供するのは、城内のマップと、現在までに解っているパスコード」ナンシーはブラックヘイズのハンドヘルドUNIXに直結してデータを転送する。「ほう、流石だねえ」「そして、これね」黒塗りの違法IRC端末をクレープ鉄板に置いた。「メンタリストの位置が解ったら、伝えるわ」 39
2012-08-12 23:33:14…かくして傭兵と美女はUNIXバンから降り、イグナイトを伴って城内へと向かった。彼らが視界から消えると、ナンシーは額の汗を拭いながらエルゴノミクスUNIX椅子に身を預けた。ニンジャとの交渉は心臓に悪い。少しでも妙な動きをすれば、ブラックヘイズは躊躇無く彼女を始末しただろう。 40
2012-08-12 23:47:25ナンシーはサイバーサングラスを掛け直しながら、再ダイブのために呼吸を整える。「……若い兄さんは、大丈夫かい?」キンギョ屋は、車内の隅にうっそりと立つディプロマットに声を掛けた。セルフ応急手当を行っていたディプロマットは、バイオ包帯を巻きかけた状態で動きが止まっていたからだ。 41
2012-08-13 00:01:43「え、ああ」彼は白昼夢から目覚めたようにバイオ包帯を巻き直した。満身創痍ではあるが、ぎこちない動作はない。双子との重度テレパス通信から醒めるとき、彼はしばしばトランス状態に陥る。「……大丈夫だ。外の見張りに戻る」「彼らが道中に掃除してくから、暫くは敵も来ないわ」とナンシー。 42
2012-08-13 00:13:39「それでも外の方が集中できそうだ」ディプロマットは頭痛を堪えるように顔をしかめ、外へ出た。「ちょっと、本当に大丈夫?」ナンシーはサイバーサングラスを特殊モードに切り替えた。体温や拍動に問題なし。敵は彼が死んだと誤認したのだろう。ナンシーは胸を撫で下ろし、ダイヴを開始する。 43
2012-08-13 00:25:47「気をつけなよ、UNIXが3割ほどイカれてる」キンギョ屋の声がナンシーの物理肉体に届く。「いいわ、ハンデキャップ・マッチね」ナンシーはUNIX画面に不敵なコメントを返した。彼女は圧倒的不利を承知していたが、ダメージ覚悟でアタックを仕掛けなければ、仲間との通信もできないのだ。 44
2012-08-13 00:32:17