「キョート・ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#1
「嗚呼!」運動家達が悲鳴をあげた。「諸君!怖れるな!」テツオが叫んだ。「決して屈する事は無い。私は決して死なぬ。諸君の声が革命細胞を構成し、私は決断的に何度でも立ち上がる!何度でもだ!諸君が私なのだ。そして見よ!今まさに堕落資本家の象徴存在が卑屈な豚めいて逃走するぞ!」46
2012-08-17 23:13:23スリケンを受け止めたニンジャはそれを素早く握り込み、後ろ手に隠した。オメガはもはや構わず、モーティマーを脇に抱えて全速で走り出した。BRATATATATATATATAT!銃撃が追い来る。ドラグーン二体が脚部ローラーを駆動し、滑るように前を塞ぐ!「イヤーッ!」オメガは跳んだ。 47
2012-08-17 23:17:41BRATATATATATATAT!「イヤーッ!」オメガはモーティマーを抱えたままドラグーンの胸部を蹴った。跳ね返るように再度跳躍、もう一体を後ろ足で蹴り、モーティマーを前方へ投げ、自らは前転着地で衝撃をゼロにし、走りながらモーティマーを再び受け止め、全速を維持して駆け続ける。48
2012-08-17 23:22:06ゴボッ!走り抜ける彼の背後、ドラグーン二体は関節部の隙間から不可思議な漆色の毒液を漏出し、崩れ落ちた。BRATATATAT……銃撃が引き続き浴びせかけられる。「やめよ!もはや豚にこだわる事は無い」投げかけられるバスター・テツオの声。「我らの眼差しは建設的未来に向けられている」49
2012-08-17 23:26:14「イヤーッ!」公園へ駆け込み、ブッシュを抜け、その先へ。「オメガ!オメガ!こうなったらキョート支社に……」「当然、抵当です。貴方は無一文です」走りながら彼は答えた。「安全な場所までは、お連れします」「その後は……」「ご自分でお考えなされ。貴方に私を雇うカネは無い」 50
2012-08-17 23:32:03「アバーッ!」KABOOM!最後の装甲ケビーシ・ビークルが逆さまに落下、中のケビーシを圧殺しながら、他のビークル・スクラップに積み重なった。黒ヘドロが車両群に浸食し、鉄と汚濁のピラミッドを作り上げる。ザクザクと音を立ててその頂上まで登ったのは、これを作り上げた当の本人である。52
2012-08-17 23:50:40己のアンコクトン・ジツで即席の黒い玉座を作り上げると、デスドレインはどっかと腰を下ろし、下を見下ろした。方々で火の手が上がり、ヨタモノが、労働者が、アッパー民が破壊を繰り返すジゴクめいた光景を。「ヘヘヘヘヘ、だいぶ自由になって来たじゃねえか!自由によ!」 53
2012-08-17 23:56:37彼の少し下の車両にアズールが腰を下ろし、サブマシンガンをかき抱いて、同様に眼下のジゴクを見下ろしている。「アイエエエ!」スクラップのすぐ下に、モヒカン二名が初老の男を引き摺って来た。もとは上等だったとおぼしきキモノ姿であるが、泥濘と暴力でズタズタだ。「助けてください!」 54
2012-08-18 00:01:07「助けてクダサイ!」デスドレインは口を尖らせ、復唱して嘲った。山の周囲でドラム缶や瓦礫に火を灯すヨタモノたちがゲラゲラと笑った。「おめェら、こいつどうすンの?」下のモヒカンに問う。モヒカンは首を傾げた「だってよォ、なんか偉いンだろォー」もう一人が頷いた。「アッパー住まいだし」55
2012-08-18 00:06:14「こんな事をして、何がしたいんですか!」初老の男は嗚咽しながら訴えた。「私はもう、何もかも盗られてしまった……なにもかも!一文無しです!貴方は何なんですか……!」「俺か?」デスドレインは歯を剥き出して笑った。「俺って善悪の区別がつかねえんだよォー!純粋なンだよォ!美徳だろ?」56
2012-08-18 00:11:58「スッゾー!」モヒカンの一人が初老の男の髪を掴んだ。「今までカネモチしやがって許せねェ」「アイエエ」「ヘヘハハ!お前その理由よォー、今思いついたンじゃねェの?」デスドレインは舌を出して笑った。キャバァーン!遠くキョート城から照射された虹色の光線がそのモヒカンをソクシさせた。 57
2012-08-18 00:18:16「あッぶね!」デスドレインは身をすくめた。「こんなところまで届くかよ、怖えェなァー」「アイエエエ!」「アイエエエー!」たちまちヨタモノ達にパニックが伝染し、戦利品やドラッグを抱えて方々へ走り出す。キャバァーン!キャバァーン!光線がヨタモノの何人かに注ぎ、連続でソクシ!58
2012-08-18 00:23:26「アイエエエ!」初老の男がよろめきながら走り出した。誰かがその背に火炎瓶を投げた。「アイエエー!」男は地面を転がって必死に火を消し、走って逃げてゆく。「ヘヘヘハハッハハハハハァ!」デスドレインは手を叩いて爆笑した。アズールは彼を凝視した。「……あン?何だよ、見てンじゃねぇよ」59
2012-08-18 00:27:46アズールは目を逸らさなかった。彼女は言った。「これから、何するの?」「アァ?」デスドレインの目が細まった。アズールは震えた。額を汗が流れ落ちた。だが彼女は震えながら口の端を歪めて笑った。「いっぱい殺すの?これが貴方の城?」足をぶらつかせ、踵で車体を蹴った。「しょうもないね」60
2012-08-18 00:39:04「……」デスドレインは立ち上がった。アズールはびくりとして銃を向けた。スクラップ・ピラミッドに浸食したアンコクトンがざわめき、瓦礫の山が揺れた。「……」彼はアズールを殺さなかった。ひょいひょいとビークルを辿り、山を下りて行った。逃げずにいたモヒカン達が不安げに彼を見た。 61
2012-08-18 00:46:15猫背気味に歩き進む彼の足元から伸びる影は影ではなく、アンコクトンである。「アバッ!」「アバーッ!?」モヒカン達が続けざまに捻り殺された。デスドレインはそちらを見てもいない。そのすぐ横、透明の獣に横座りになったアズールが追いつく。彼を見る。ドォン!再び近くで建物が炎上する。 62
2012-08-18 00:54:48暴動は瞬く間に拡散し、今では遠くに聴こえる。空にはキョート城。禍々しいカンジを輝かせ、汚い虹色の光を地上へ注ぎ続ける。キャバァーン!キャバァーン!鳴り止まぬジングル。アンコクトンがデスドレインの脚を伝い、目、口、指先に吸い込まれてゆく。彼はアズールの透明の獣の背に飛び乗った。63
2012-08-18 01:00:04第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#1 (64)
2012-08-18 01:02:49「Wasshoi!」琥珀ニンジャ像の間に回転ジャンプで突入したニンジャスレイヤーに対し、その場に列席したザイバツ・ニンジャが一斉に向き直る。殺到するニンジャ。一人殺し、二人殺し、三人、四人……(ダメだ)ニンジャスレイヤーは脳内イマジナリーカラテを取りやめ、行動を却下した。 65
2012-08-18 01:10:09彼は壁に背をつけ、しめやかに通路の端から広間の中を覗き込む。百人以上のニンジャが。更に多くの、オカメ・オメーンを被った親衛クローンヤクザが、円形の台座を向いている。場の空気が奇妙だ。ニンジャスレイヤーのニンジャ洞察力は、何らかのイレギュラー・インシデントの残り香を感じ取った。66
2012-08-18 01:15:29屋根つきの円形台には……ユカノがいた。台の両端のシャチホコガーゴイルに鎖で両手を結ばれ、腰に薄布一枚。豊満な乳房はあらわだ。ニンジャスレイヤーは心を痛め、焦燥した。他に三人。ジェスター。小柄な側近のニンジャ。琥珀の玉座に座る白金のキツネオメーンの男……ロード・オブ・ザイバツ。67
2012-08-18 01:20:48どうやって、あの場まで辿り着くか?彼のニューロンは熱を帯びた。この場にいる敵全てを同時に相手をする事はできぬ。セレモニー会場の注意は台上に向けられている。何らかの方法でステルスを行い、あの台上まで辿り着き、最小限の敵と戦う。ガンドーやナンシーの応答は無い。それしかない……。 68
2012-08-18 01:25:18その時だ。ロードが片手を上げ、小柄なニンジャ(パラゴンだ。ニンジャスレイヤーは見当をつけた)に合図した。パラゴンは頷き、大仰に両手を開き、吠えた。「時は至れり!地上を這う卑しき非ニンジャの虫は新世界秩序の糧たるモータルソウルに転生昇華され、この城を!ロードの御美体を満たす!」69
2012-08-18 01:33:29ズグン!地面が揺れた。そして、ゴウランガ!ニンジャ達がどよめく。円形の台はゴリゴリと石臼めいた音を(その轟音たるや、鼓膜を脅かす程だ)たてながら、真上に向かって伸びてゆく。どこまでも!天井には円形の穴が開き、上昇してゆく台座を迎える。ロードは玉座を立ち、満足げに見下ろした。 70
2012-08-18 01:38:14