ジオイドってどうやって測るん?

GPS高度と海抜高度の差分である重力ポテンシャル0面のジオイド。 でもそのジオイドってどうやって測るん? プロのお2人に聞いてみました。
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このやり取りを受けて、@geo80kさんがジオイドについて知っておくべき知識をまとめてくださいました。
ありがとうございます!
元はFaceBookの
http://www.facebook.com/kozo.kamada/posts/218178854981632
こちらで公開(ただしログイン要)されているものですが、許可を得てここに転載いたします。

ジオイド高とその周辺の話(改良版)

 先週一度掲載した本件であるが、私の知人である黒石裕樹氏から監修頂いて、多少変更がでたので、全文修正して再掲載する。なお、黒石氏からは「測地学的に基づく、より正確な表現」をご教示頂いているが、読みやすさの観点から表現を一部鎌田が再修正している(従って、全ての文責は鎌田にある)。なお、もちろん、黒石氏の監修レベルから文意を変えた箇所はない。

参考まで、ジオイド高及び標高の重力補正については、黒石裕樹氏のこの解説記事が明快である: http://www.gsi.go.jp/common/000024778.pdf
以下は、上記解説記事の要点を分かりやすく述べたものである。

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★ジオイドは等ポテンシャル面
 ジオイドが等ポテンシャル面であることは、改めて解説しなくても了解しておられる方も多いと思う。
 本来、ジオイド面と回転楕円体面とが完全に一致していれば、GPS で測られる高さ(楕円体高)はジオイド面からの高さ(標高)と一致するので、GPS で測った場合でも十分な精度で標高が得られ便利なのである。しかし、残念ながら地球を構成している物質は水平方向にも均質ではなく、また、地形の起伏も考慮しなくてはならないため、各地点の重力の大きさは(たとえ平坦地であっても)必ずしも一様ではない。このため、ジオイド面はいびつな形となる。
(重力分布が不均一であることにも利点はある。火山周辺で重力の時間変動が検出される場合は、地下のマグマが移動していることを表すため、火山噴火予測は地震発生予測よりもある程度信頼度を高くできる)

★重力異常と標高
 重力分布が均質でないことに起因するさらに困った影響は、等ポテンシャル面が局所的に平行ではないことである。
 たとえば、水準測量により標高を求める際に、2つの経路 A, B を考えてみよう。経路 A では経路 B に比べて重力値が相対的に小さいものとする。すると、経路 A では経路 B に比べて上り坂区間における等ポテンシャル面の間隔が広いことになる。水準測量単独では、重力値に関係なく標尺の目盛りを読むので、経路 A を選んだ場合は2点の比高(標高差)が経路 B の比高よりも大きな値となってしまう。このため、高さを決定する場合には、重力異常をどのように取り扱うのかが鍵になる。

★何種類かの高さ:0.楕円体高
 重力の影響が関与しない、準拠楕円体まで下ろした垂線の長さを楕円体高という。これは純粋に幾何学的な量である。

★何種類かの高さ:1.力学高
 重力ポテンシャルが等しい点は同一の力学高である。これが(重力)ポテンシャルに最も忠実な高さである。
 力学高は、ジオイド面を高さゼロの基準として採用し、求める点との重力ポテンシャルの差を求め、これを標準として用いる(特定の)重力値で割ることで、高さの次元を持つ量に変換して得られる。
 ただ、異なる重力値を持つような地点の間では、2枚の等ポテンシャル面同士の距離が異なるため、結局のところ力学高は現実に存在する特定区間の長さを表現するものにはなっていない。
 そこで、2以下に示すように、少しずつモデルを簡略化して近似値を求めている。

★何種類かの高さ:2.正標高
 求める点を通る鉛直線(厳密に言えば、等ポテンシャル面が均一ではないので、鉛直線方向<つまり等ポテンシャル面の法線方向>も一様ではなく、鉛直線はその名に反して直線にならないのだが)に沿ったジオイド面までの距離を正標高という。
 等ポテンシャル面の正確な形状が分かっていないので(ジオイド面よりももっと分からないので)、等ポテンシャル面の位置(形状)の揺らぎ(見積もり誤差)が正標高を求める場合の誤差になる。正標高を求めるには、高さを知りたい点におけるジオイド面とのポテンシャル値の差を計測し、その点をジオイド面までの地下の重力値で割り算してやる必要が生じる。しかしながら、地下の重力値は(一般的には)計測不能であるから、正標高は正確に求めることはできない。実際には、地下における重力値(と高さに応じた重力値の変化)について、適当な力学的仮定(地下の岩盤を適当な形状で近似するなど)を置くことにより、そこそこの近似値が得られる。そのような近似の一つをヘルメルト高と言う。

★何種類かの高さ:3.正規高
 場所場所において変化する重力値をもう少し荒く近似して、正規重力(ジオイド面を準拠楕円体面と見なして、それに対応した形状の等ポテンシャル面を仮定して得られる重力)で補正した標高を、正規高という。
 ジオイド面を正規楕円体面に近似すると、正標高に対応する高さも変わる(当然)。求める地点の重力値を正規重力と見なした場合、正規重力自体は経緯度と楕円体高から計算で求めることができるので(そのための物理量が予め定められている)、求める地点の正規楕円体面からの高さも分かる。現実の重力値を正規重力に基づく等ポテンシャル面に置き換えている点が、正標高との最大の違いである。

★何種類かの高さ:4.正規正標高
 1から3までの高さは、基準となる点を定めて、そこから求める点までの重力ポテンシャル値の差を求める必要があるため、水準測量を行うだけではなく途中経路の重力値も把握しなければ正確には求められない。一方、現実的には、重力値を知らずに高さを求められないか、という欲が生じる。
 そこで、もっと荒い近似として、局所的な重力異常を仮定せず、すべて正規重力(繰り返すが、経緯度と楕円体高だけで計算で求まる重力値)で補正した高さが正規正標高である。この場合、重力を実測する必要がなく、また、ジオイド面の局所的な凹凸を気にする必要もない。
 これは、正標高の近似とも正規高の近似とも考えられる。

★ジオイド高
 正確なジオイド面が分かったとして、ジオイド面上の各点における楕円体高を、その点におけるジオイド高という。

★鉛直線偏差
 正確なジオイド面は、等ポテンシャル面である。ジオイド面の法線が鉛直線であるが、ジオイド面に凹凸がある場合、準拠楕円体面の法線(垂直線と呼ぶ)と鉛直線とが一致しなくなる。準拠楕円体の法線方向は経緯度が正しく分かれば機械的に計算できる。他方、鉛直線の方向は、地上点において水平面(等ポテンシャル面)を基準として(天球上での位置が正しく分かっている)天体の方向を測る天文観測で求められる。従って、楕円体法線方向と実際の鉛直線方向との差分は天体観測により求めることができる。
 この、準拠楕円体面の法線と鉛直線との方向の差を鉛直線偏差という。
 鉛直線偏差はその場所での等ポテンシャル面の傾きであるから、これを用いて、相対的な等ポテンシャル面(ジオイド面)の起伏が分かる。1980年頃のジオイド面は、こうして天文測量に基づいて決定していた筈である。
 この方法でジオイド面の起伏を決定するためには、等ポテンシャル面とジオイド面が厳密には並行ではないことから、標高0の地点を繋いで天文観測を行い鉛直線偏差を計測する必要があるが、現実にはそれは無理である。従って、こうして求められた形状は、計測を行った個々の地点(標高が0でない地点)での等ポテンシャル面の傾きをつないだものになっており、ジオイド面の形状とは異なっている。すなわち、ジオイド面の傾きは天文測量からは正確には分からない(誤差が混入する)ことになる。

★重力測量とジオイド
 それに対して、ジオイドは重力場で作られているので、詳細な重力測定と地形情報とを組み合わせれば(詳細は省略するが)より高い精度でジオイド面を決定することができる。さらに、重力測量及び水準測量による標高決定並びにGPS による楕円体高決定を同一の地点で行うことにより、その地点でのジオイド高を求めることができるので、その結果を用いて重力によるジオイドのモデルを改良することもできる。
 現在の日本のジオイド形状は、黒石氏が(膨大な観測結果をもとに)計算して求めたものがベースになっている(筈である)。

★水準測量における重力補正の変化
 いろいろな機関による重力測定の結果が公表され、全国の重力値の分布が細かく分かるようになったので、水準測量における重力補正も、別途重力測定をすることなく実行可能となった。
 すなわち、従来の正規正標高(重力観測を要しない)から、正標高(正確にはヘルメルト高)へと変更したのである。

★楕円体高と標高(正標高)
 ジオイド高の定義がジオイド面の楕円体高であったから、純粋幾何学的量である楕円体高を用いれば、地表にある地点の標高はその地点とジオイド面との楕円体高の差として求まる。
 しかし、ジオイド面は局所的に凹凸があるから、垂直線(楕円体の法線)と鉛直線の経路とは一般に一致しておらず、楕円体高のみが分かっている求点からジオイド面に重力方向に沿って下ろした線(既に述べたように、厳密には曲線)の長さと、上記「楕円体高の差」とは、厳密には一致しないことになる。
 幸い、これらの経路の差は極めて小さい。また、一般的なGPS測位においては、そもそも楕円体高自体も誤差を含む(電離層補正も、水蒸気補正も、単独測位では無理である)。従って、経緯度と楕円体高が判り、その経緯度におけるジオイド高が分かった場合、両者の差を取ってそれを標高であると考える(近似する)ことで、十分実用的な標高が得られる。

★まとめ
 『楕円体高が判っている地点のジオイド高が分かった場合、楕円体高とジオイド高の差を取れば標高になる』というのは、ここに書いたような近似を暗黙の了解とした上で正しい表現になるのであった。
 この「言わなかったけど近似しているのよ」は、測量技術者でなければ無視して良いと考える。