「死の淵を見た男(吉田昌郎と福島第一原発の500日)」読書録

震災直後の夏に個人的に東電職員のご家族の方と話す機会があり、原子力保安院は全員逃げたが、吉田所長以下の東電職員は現場に残って懸命の復旧作業をしていた事を聞いていました。そして今年に入って偶然この本を見かけたため、当時の現場の状況を知りたくて購入しました。 吉田所長へのインタビューをもとに書かれた書籍ですが、内容が膨大すぎるので原子炉への注水と冷却に話を絞ってまとめました。マニュアルが全く役に立たない極限状態の中で、現場職員のとっさの機転や判断に東日本全体が救われた事がよく分かります。チェルノブイリ×10になるのか、チェルノブイリ×1/10になるのかは、まさに紙一重だったようです。
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スカルライド @skull_ride

(69)「とにかく消防車の流量計と、水が流れる感覚の両方で確認してくれって指示したんですよ。しばらくしたら流量計がちゃんと立ってますというのと、流れている感覚がありますという二つが報告されました。ホッとしましたよ。何しろホッとした・・・」

2013-03-18 12:44:14
スカルライド @skull_ride

(70)ぎりぎりの場面だっただけに、緊対室に拍手が沸き起こったことを吉田は記憶している。しかし無情にも、その安堵は長くはつづかなかった。原子炉建屋からおよそ九百メートル離れた正門付近で「毎時500μSv」の放射線量が計測されるのは午後九時三十五分のことだった。

2013-03-18 12:44:24
スカルライド @skull_ride

(71)一度は下がり始めたはずの二号機の格納容器圧力が、ふたたび上昇に転じていた。それは気まぐれな原子炉があたかも人間を弄んでいるかのようだった。午後十一時四十六分、ついに二号機の格納容器圧力は、設計圧力の二倍近い750キロパスカルまで上昇していた。

2013-03-18 12:44:36
スカルライド @skull_ride

(72)実は二号機のベント操作は前日の十三日朝から行われ、この段階ではまだ一号機のような高線量ではなかったためにMO弁は手動で開けられ、AO弁も外部からのエア注入によっていったんは開いていた。しかし電気回路の不調で弁が閉じ、ふたたび開くことはなかったのである。

2013-03-18 12:44:48
スカルライド @skull_ride

(73)三月十五日午前六時過ぎ、直前に大きな衝撃音が緊対室を包み込んでいた。明らかに「何か」が爆発した音だった。「二号機、サプチャンの圧力ゼロ!」ただちに平野から伊沢に電話連絡が来た。ついにこの時が来た。発電班の面々は誰もが「もうダメかもしれない」と思った。

2013-03-18 12:44:57
スカルライド @skull_ride

(74)サプチャンとはサプレッション・チェンバーの略で、格納容器の圧力を調節する圧力抑制室のことだ。炉心の蒸気はこのサプチャンの水の中に吹き込まれて液化される。ここの気密性が揺るがなければ高濃度の放射線放出は避けられる。

2013-03-18 12:45:06
スカルライド @skull_ride

(75)だがその圧力がゼロになったということは、頼みのサプチャンに「穴があいた」可能性を示している。のちの検証によれば、ベントが成功しなかった二号機はこの時なんらかの損傷により、全号機の中で最も多くの放射性物質を「放出」したのである。

2013-03-18 12:45:16

決死の自衛隊

スカルライド @skull_ride

(76)ひたすら水を入れ続ける作業は「根比べ」の様相を呈している。暴走しようとするプラントをぎりぎりのところで止めても、それが数時間後にはふたたび悪化するという状態が繰り返されていた。

2013-03-18 12:45:25
スカルライド @skull_ride

(77)現場には原子炉以外にも重大な懸念材料があった。各原子炉には隣接して使用済み核燃料を保管しておくプールが設置されている。爆発した三号機や四号機では爆発のショックや落ちてきた瓦礫などの影響でプールが損傷している可能性があった。

2013-03-18 12:45:35
スカルライド @skull_ride

(78)プールの水が失われればここでも核燃料はメルトダウンを起こす。屋根が吹っ飛び、剥き出しの状態であることから、仮にそうなってしまった場合の放射線放出量は桁違いで、その影響は測り知れない。ここにも水を補給する、すなわち「放水」の必要があったのである。

2013-03-18 12:45:45
スカルライド @skull_ride

(79)ただちに三機のヘリが福島第一原発周辺の放射線量をモニタリングすると同時に、大型ヘリ(CH-47)が現地に向かった。だが放射線量が限界値を突破していることがわかり、この日の活動は見送られた。

2013-03-18 12:45:56
スカルライド @skull_ride

(80)この時モニタリングのヘリによる上空からの視察によって、四号機には水があることが確認されている。一方水蒸気が発生している三号機は水位低下が進んでいる可能性が高いことが分かり、放水は三号機を優先することが決定された。

2013-03-18 12:46:07
スカルライド @skull_ride

(81)放射線量によってはホバリングによる「定点散水方式」を行う可能性もあったが、やはり前日を同じで数値が高く「移動散水方式」をとることになった。言うまでもなく定点散水方式の方が目標への投下量は多くなるのだが、現場の放射線量を考えれば致し方なかった。

2013-03-18 12:46:17
スカルライド @skull_ride

(82)自衛隊への命令は空中からの放水だけではなかった。地上からの放水に対しても各自衛隊に折木統合幕僚長から指令が飛んでいた。茨城県小美玉市百里にある航空自衛隊百里基地に命令が下ったのは三月十六日から十七日へと日付が変わる頃である。

2013-03-18 12:46:26
スカルライド @skull_ride

(83)Jビレッジに行くにあたって通常のホースによる消防活動を行う消防車ではなく、ターレット付きの消防車が選ばれた。ターレットとは強力な噴射機のことで、消防車の座席の上くらいのところについている。一分間におよそ六トンの水を噴射できる威力を持っている。

2013-03-18 12:46:35
スカルライド @skull_ride

(84)「基地を出発する前に衛生隊から渡された線量計はスティックタイプのものです。タイベックの下には陸上自衛隊でいう戦闘服のようなものを着ていますが、その胸ポケットに入れていました。それが二号炉と三号炉の手前の十字路に来た時に突然鳴り出したんです」

2013-03-18 12:46:45
スカルライド @skull_ride

(85)「隊長、線量計が鳴っています。どうしましょうか」原田一曹から声が上がった。出発する前に衛生隊から「これがなったらすぐ退避して下さい」と説明されている。原田はそのことを言ったのである。だがその時、松井の目にあるものが飛び込んできた。「人」である。

2013-03-18 12:46:56
スカルライド @skull_ride

(86)そこには灯かりがあった。その中にタイベックを着た東電の現場の人間が立っていたのである。彼は手招きして松井たちの消防車を誘導しているのだ。「その時なんというか、私、すごいと思ったんですよ」

2013-03-18 12:47:06
スカルライド @skull_ride

(87)「やっぱり現場の人はものすごい強い気持ちを持って真剣に対処してるんだな、ということを感じました。私はその瞬間アラームが鳴ったら退避してくださいという説明を忘れてしまいました。それで原田一曹に私から指示を出したんです」

2013-03-18 12:47:16
スカルライド @skull_ride

(88)「放水しろ!」「わかりました!」あらためて放水のボタンを押すとブワーンっという大きな音がした。十トンの水をわずか二分あまりで放出するのである。それは恐ろしいほどの音だった。

2013-03-18 12:47:25
スカルライド @skull_ride

(89)「外に立っている彼が手でグッと大きくマルをしてくれました。ああ、うまくいった、と思いました。その時はやっぱり期待にこたえられたというか、ちょっとホッとしました。よかったなあって感じたですよ」

2013-03-18 12:47:35
スカルライド @skull_ride

(90)松井たちの放水はこの一回だけで終わり、翌十八日には別の人間が行って放水を実施した。また二十、二十一日の二日間で陸・海・空、全部含めて三回放水し、放水回数はトータル五回となった。

2013-03-18 12:47:47
スカルライド @skull_ride

(91)「放水が終わったあと、ほんとにこれで良かったのかな、どうなのかなって、やっぱり不安はありました。その時点では私ら分からないんですからね。Jビレッジまで戻って来て、原子炉の温度が下がったことを初めて知りました」

2013-03-18 12:48:01
スカルライド @skull_ride

(92)「その時の冷却のための現場の指揮をしていた隊長の方が来られて、温度がいま下がっているということを言われました。成果があれば教えてもらえるし、もし水位が足りなければまた補給していくという話になりました。効果があったと聞いた時はやはり嬉しかったですよ」

2013-03-18 12:48:11
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