モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring V~
- IngaSakimori
- 2175
- 0
- 0
- 1
「ん……ぐ、う……」 「起きない……本当に寝てますわね」 「おにいちゃん、寝付きすっごくいいんですよ」 「……鈍感な志智らしいですわ」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:14:39「あはは……そうかもしれませんね。 おにいちゃんがもしわたしだったら、三年生の教室にもずかずか入っていって、一緒にご飯食べちゃうんだろうなあ……」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:15:35「ええ、そうですわね。 あなたと志智の立場がもし逆だったら、肉親の膝枕は恥ずかしくないけれど、自称・運命の相手の膝枕は見られたら恥ずかしいだなんて、口が裂けても言わないでしょうね」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:15:57「もちろんですよぉ」 「……ほんとうに、仕様のない人」 午後の授業前を告げる予鈴が鳴りひびくまで、二つの微笑みが三鳥栖志智を見おろしていた。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:16:32同時刻。日原院の家━━すなわち、亞璃須の自宅。 「おや、あなたですか。久しぶりですね」 吉脇の役職はあくまで亞璃須にお付きの執事ということになっているが、現実的にはそれ以外の雑務もこなさなければならない。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:17:48古式ゆかしき明治、或いは騒がしくも華やかな大正、かくして激動の昭和も遠くなり、経理や調理などに専門の人材を置ける余裕は、日原院(にっぱらいん)の家にもなくなっている。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:18:09「ええ、結構なことです。 あの時、見ていましたね……ふふふ、声をかけなかったのはお互い様というものでしょう。 そもあなたが興味を持っていたのは、あの車体と彼だけではありませんか」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:18:28ぶ厚い冬用のカーテンもそろそろ交換しなければ。 携帯電話というものは不便である。なぜならば、固定電話の受話器ならば顎と肩で挟める分、両手が動かせるからだ。 そんなことを考えながら、吉脇の左手は帳簿らしき紙にむかって、ペンを走らせつづけている……。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:18:51「祇園田(ぎおんだ)さんのところへは顔など出されて? ああ、まだならば早くしたほうがいい……あの人はそういうところ、うるさいですからね。ええ……まあ、そういう年の頃です」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:19:15「近いうちにまた『かっとび』の皆で集まって一杯やりたいものですね。もっとも、私の体が空くかはわからないところですが……はい」 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:19:49「では、ごきげんよう。我が旧友━━谷川淳」 通話終了のボタンをおすと、彼らの時代に流れていた音は無く、ただ静寂だけが訪れた。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:20:09「ツーツーツーという音も、いまでは懐古の一葉というわけですかね……」 吉脇が目を細めて振り返るのは、遠い時。彼らの時。 モーターサイクルが、ライダーが日本中にあふれかえり、何もかもが明るく見えた時。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:20:37「あのスパーダ……時代の忘れ形見と言えるかもしれませんね」 不意に葉巻をやりたくなった。しかし、しばらくその機会はあるまい。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:20:49仕える相手が学業を終えて帰ってきたとき、紙巻きのそれとはまったく異なる強い香りをまとって出迎えるわけにはいかない。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:21:24それが可能なのはガソリンやオイルの匂いがすべてを覆い隠してくれるタイミング━━つまり、亞璃須をともなってトランスポーターのハイエースで大多磨周遊道路へ出かけた時だけなのだ。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:21:36「ふぅむ……」 懐旧の記憶に心を沈める吉脇の鼻孔をくすぐるのは、どんな時でも前を行っていた『彼』のマシンが残す、カストロールの香りだった。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:23:14【お知らせ】 本日の投稿はここまでです。次のエピソード投稿は来週を予定しています。この作品に興味をもった方、特にバイク乗りの方、@mor_cy_dar をフォローしてください。そして友人に広めてあげてください。こんな話が読みたいといったご要望もお待ちしております。
2013-05-08 12:24:13【モーターサイクルダイアリー・登場キャラクター名鑑】吉脇秀護(よしわき しゅうご)。もともと日原院の家に仕える執事だったが、亞璃須の誕生後は彼女のお付き。様々な雑務のかたわら、週末には亞璃須を大多磨まで送っている。バイクブーム全盛期峠族の生き残り。 #mor_cy_dar
2013-05-08 12:32:00