さよならアーティチョーク

夏と先輩と僕と虚構の世界
1
前へ 1 ・・ 13 14 ・・ 17 次へ
橘 颯 @so__w

労役:人に蹂躙された土は硬い。粗末な道具を振るった所で、耕せる範囲は微々たる物だ。研究職故の非力さもあるかも知れない。然し、男は血膿に塗れた手で淡々と土を鋤く。最初の種は芽吹かなかった。土壌汚染や気候の変化等、原因を挙げれば限りが無い。限られた時の中、彼は足掻く。 #twbngk

2013-06-09 23:21:02
橘 颯 @so__w

憑依:未だ遅くない。彼は訴える。今、二人の先に待つ物は死では無い。唯の消滅。1が0になるだけと云えば其れ迄だろう。灰は灰に。電子は電子に。だが、彼は成就を猜疑っていなかった。未だ。断片と化した今でも。人形にとて、命が宿ると云う。ならば、睡れる人に宿るは道理だろう。 #twbngk

2013-06-11 23:01:44
橘 颯 @so__w

夢現:転寝の浅き夢中。揺々と僕は世界を巡る。何時もと同じ水中。碧瑠璃に背を向け、歩き出すのも又。生物は海から生まれたと云う。其の記憶だろうか。蒼はジェリィの手応えで生暖かい。喉を塞ぐ何かが息苦しく感じる頃、意識は還る。――胎児の御戻りだ。先輩の聲が余韻で蒼く滲む。 #twbngk

2013-06-11 23:12:40
橘 颯 @so__w

更生:学園のみならず、此の街ではダストシュートの小扉が壁の其処此処に存在する。大抵の物が自然分解しても、捨てる物は無くならないのだ。種類を問わず飲み込む為か、開口部は広い。人一人なら捨てられる程に。――分別されるだけだよ。虚を覗く僕へ先輩は詰まらなげに聲を投げる。 #twbngk

2013-06-13 23:10:25
橘 颯 @so__w

記号:腕中の箱は厭に軽い。其れの意味する所を彼女は承知していた。大方掏り替えたのだろう。思い詰めた独白を確かに聞いている。だが無意味だ。箱は飽く迄も象徴に過ぎない。神様は元から中に居ない。彼女は知らぬ風で独り旅立つ。僕は先輩が気付いていた事を知らない儘、罪を抱く。 #twbngk

2013-06-13 23:20:29
橘 颯 @so__w

許容:恐らく。人は此の心持をして、こう云うのだ。嗜虐趣味。彼女は僕が出来る範囲を熟知している。そして出来無い事も又。だからこそ、なのだけれど。――私は君に期待しないよ。隠した心算の傷付いた顔を見る都度、彼女は小暗い喜びと共に口を噤む。期待しなければ失望も無いのだ。 #twbngk

2013-06-15 23:43:51
橘 颯 @so__w

茨野:小枝二本と紐を少々。当初は手間取っていたとて、数作れば熟れもする。無数に中庭へと突き立てられた其れは墓であった。簡素な、名も無き墓。曾ての生命の証。莫迦にされる覚悟で『食材』に手向けた其れを、先輩は笑わなかった。寧ろ褒められ、故に尚も増える。奇形の茨が如く。 #twbngk

2013-06-15 23:49:45
橘 颯 @so__w

失楽:一度飛び立った物は、何れ必ず落ちる。風船然り。飛行船しかり。鳥ですら。飛び続ける事など出来はしない。軈ては皆、大地へと還る。摂理として。呪いの様に。――結局の所、何も彼も空には在れない。先輩が言葉に込めた深意を其の時解せなかった事を、僕は後に寂寞と共に想う。 #twbngk

2013-06-18 23:41:21
橘 颯 @so__w

伝言:かろんと氷が鳴った。其れを契機に僕は視線を手元に遣る。一見逃げたとは思わせない仕草も、男は明白地だ。曹達水を選ぶ若さを少年は羞じ。珈琲を選ぶ無難を壮年は嗤う。然し所詮は来た路と往く路。繋ぐは先輩と云う一点。託された遺言を苦く飲み干し、少年は曹達水を卒業する。 #twbngk

2013-06-18 23:49:32
橘 颯 @so__w

作製:学園に入る少し前だったと思う。僕が人工湖を航る遊覧船に両親と乗ったのは。管理局が提唱する健全な家族行事の一環としてである。造り物の瀦には生物は一切存在せず、嘘の様な碧を湛えていたのを良く覚えている。――生物は管理が面倒だから。管理局の怠惰を先輩は曖昧に濁す。 #twbngk

2013-06-19 23:40:58
橘 颯 @so__w

釣魚:外出の申請を提出し、電車に乗る。目指すは海。小江に揺れる一艘の小舟を横目に、僕は手作りの竿を振る。天蚕糸が光を散す。バケツの中は金色の陽溜りだ。待てども浮標は沈まず、魚は一匹たりとも掛からない。解り切っていた結果に、彼は落胆もせず微笑む。先輩は何時も正しい。 #twbngk

2013-06-19 23:46:01
橘 颯 @so__w

不貞:切掛は何時でも些細だ。聲の大きさで正義と成る事も間々ある事。二つが組み合わされば、最早何如ともし難い。況や、事実無根と言い切れぬならば尚更に。貞淑を求めるならば、確かに不実だろう。最低だと詰られ、頬に咲く紅花一つ。熱を孕む其れに触れつつ、僕は尚も先輩を想う。 #twbngk

2013-06-21 23:40:23
橘 颯 @so__w

誹謗:最低と比べれば他は押並べて同等。其処は同意しよう。だが、其れは本当に最低か。視点を変えれば有象無象に紛れてしまう程度では。一体誰が君の基準を正しいとする。其の上で改めて。最低とは何だ――。長々しい先輩の詰問に、僕は如何にか渋面を保つ。彼女の信頼に微笑まぬ様。 #twbngk

2013-06-21 23:46:12
橘 颯 @so__w

電脳:空間を彩るネオングリーンは判り易い符号に過ぎない。恐らく起源を引き摺った産物。其れでも、オゥムは一面に瞬く光点を眺めるのが好きだ。刻々と位置を変え、時に星座めく。――私は蛍だと思うがね。命だからとウィーは云う。確かに。彼女は一つ失せた光にひそり哀悼を捧げた。 #twbngk

2013-06-23 23:38:04
橘 颯 @so__w

未来:どの僕も中庭で土に塗れるのを止めない。庭師にでも成る心算かと先輩が揶揄えば、返る言葉も同じ。――其れも良いですね。此の街では成れぬと識っていて尚、含羞んで云うのだ。彼等は何れ一つとして望む者に成れない。然し彼女は肯定する。消滅と引き換えに、其れ位叶えば良い。 #twbngk

2013-06-23 23:48:10
橘 颯 @so__w

予定:ガイダンス減少に従い、犯罪係数は増加している。然し大きな混乱は見受けられず、必然の範囲に過ぎない。よって、段階的に表層上のサーヴィス停止を続行。ユーザーインタフェイスSikiは予定通り、リソースをシステムに統合。――誰の予定か知ら。疑問符が一つ弾けて消えた。 #twbngk

2013-06-25 23:52:50
橘 颯 @so__w

調和:私達は此処でしか生きられない。魚が水中にしか在れない様に。人が酸素無しでは絶える様に。生物では無い身で生きるだの死ぬだのとは、何とも可笑しな事だが。双子からの通達を、私達は粛々と受け止める事しか出来ない。世界は人間の為にのみ存在する。私達の席は初めから無い。 #twbngk

2013-06-25 23:59:58
橘 颯 @so__w

装置:街は根幹のシステムを除き、演算を人の脳に委託する事で成立している。積荷が制限されている状況に於ては、ハードがソフトを兼ねるに越した事は無い。彼等は曰わば夢を現として認識するが故に、シリンダァ内での完全管理が可能だ。此れが、船に街を搭載するに至った経緯である。 #twbngk

2013-06-26 23:13:22
橘 颯 @so__w

過程:シリンダァでの管理は同時にエコシステムにも貢献している。有機物は完全にリサイクルされ、人々へ平等に分配される。彼等は住人であると同時に家畜とも成り得るが、其れを目の当たりにする事は無い。彼等は人であり、同時に世界である。世界は世界自身を外側から観測出来無い。 #twbngk

2013-06-26 23:23:33
橘 颯 @so__w

預言:人間は物語だ。遺伝子の情報コーディングは言語体系を持ち、曾てを記述する。延々と。連綿と。蓄積された情報は確率論の礎となりて、軈ては未来を書き表す。即ち、生有るモノは全て阿迦奢年代記に於ける断章録だ。――では、人工知能は。魔女の問いに、エルゴは如何に答えたか。 #twbngk

2013-06-28 23:28:24
橘 颯 @so__w

同質:管理局よりSikiの凍結が布告された。猶予期間を経て後、彼等はフォログラムから消え失せる。其の為か、端末のみならず、学園内の装置前にも生徒達が押し掛けては別れを告げる光景が見られた。――唯のプログラムだろう。何処かの小さな呟きに彼等は微笑む。無知は幸い也と。 #twbngk

2013-06-28 23:39:40
橘 颯 @so__w

雛菊:愈々迎えた此の日。常と変わらぬ風景の中、彼等は街の其処此処に姿を現した。三人が六人。六人が十二人。増殖するフォログラム。異様に人々が響動めき始めた時、歌が弾けた。其れは別れの歌。或いはレクイエム。黄昏に満ちた其の歌が止むと、光の粒子と化してSikiは消えた。 #twbngk

2013-06-29 23:24:33
橘 颯 @so__w

電影:先輩の影が薄くなったと最初に僕が気付いたのは、何時だったろう。日増しに密度が薄れ、今ではもう殆ど翳んでいる。幽霊らしいだろうと語る表情すら朧で、如何な感情を浮かべているかも良く判らない。聲にも時折ノイズが混じる。其れはまるで。云い掛けた唇に透ける指が乗った。 #twbngk

2013-06-29 23:35:01
橘 颯 @so__w

同化:先輩は何故夏を探すのを止めたのか。尤もな疑念に、夏が私と一つになったと確証を得たからだと少女が答えると、僕の顔が歪んだ。嫌悪、若しくは嫉妬。濁る眸に愉悦を覚え乍らも、身震いする程の反感を抱く。ツークツワンク後の昇格。夏は少女で少女は夏。だが今や何方でも無い。 #twbngk

2013-07-01 23:06:57
橘 颯 @so__w

寄集:ごそりと躯を抉られる不快な感覚に少女は呻く。未だ呻く事が出来た。大半を持って行かれて尚、残った躯。年月を掛け育てた共同幻想は依然、虚構に蔓る。菌糸がコロニーを描く様に。だが何れは己が細分化するのを止められはしない。其の前にギフトを。リボンが量子の風に揺れた。 #twbngk

2013-07-01 23:18:11
前へ 1 ・・ 13 14 ・・ 17 次へ