さよならアーティチョーク

夏と先輩と僕と虚構の世界
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橘 颯 @so__w

贈物:ギフト。彼女はそう簡潔に告げた。何時か僕に必ず贈り物を届けると。端末の中、深紅のリボンが揺れる。手招く様に。実際、誘っているのだろう。開封するか否かは当人次第。選択肢は提示されている様で、其の実無い。彼女が与えた物を彼が拒む筈も無く。リボンは音も無く解けた。 #twbngk

2013-07-03 23:13:17
橘 颯 @so__w

伝達:伝言は告白から始まっていた。其れが異性に向ける物ならば、どんなに良かっただろうか。彼女も映像の中、同様の台詞を口にする。だが、願えども唯の記録は変化しない。青褪めた唇は抑揚無く懺悔を綴る。瞼を閉じれども。耳を塞げども。消える事無き先輩の姿に、僕は真理を聞く。 #twbngk

2013-07-03 23:28:50
橘 颯 @so__w

手引:――夢は必ず醒める物さ。曾て先輩はそう云った。『君達が行き着く先が、ノーマンズラドか如何かは判らない。けれども、図書館に保管されている過去の殆どは其処の物だ。逆に云えば、街の外には何も存在しない。君達は終わらない過去に居る』今、聲は斯く僕の耳元で囁き続ける。 #twbngk

2013-07-04 23:03:51
橘 颯 @so__w

唯我:『私は伏して御願いする。私にもギフトを呉れまいか。私だけの名。私が私である為の名。私が私だった証としての名。叶うなら其れを墓に刻んで欲しい。私が寄せ集めのガラクタでも、唯の代用品でも無かったと云って呉れまいか。其れだけが私の望みだ』僕の脳内、繰り返されるI。 #twbngk

2013-07-04 23:14:00
橘 颯 @so__w

心魂:一足す一は二。二から一を引けば残りも又、一。所が二から一を引いても零となる事もあるのだろう。零。其れは始まりであり終わり。無垢なる物。閉ざされた街の中で、同じ様に自らを閉ざす事によって出来上がった彼女。さて、其処に魂は在ったか無しや。定義は何時でも人に有る。 #twbngk

2013-07-06 22:57:05
橘 颯 @so__w

現身:今では、生徒達が中庭に夏の幻を見る事は無い。屋上に続く扉は錆び付き、堅固に封鎖されている。そして。空の掌を握り、僕は途切れた廊下の先を見る。行き着けない第二図書館。だが、彼女の死を持ってしても終わらない物語。生憎僕等、私達は依然生きて居る。完結には未だ遠い。 #twbngk

2013-07-06 23:04:42
橘 颯 @so__w

唯一:そして、さよならと彼女は云った。其の酷くぎこちない笑顔に、僕は初めて暴言を吐く。――莫迦ですね。今迄、散々見せてきた『先輩』の顔とは異なる、恐らくは彼女自身の表情。其れでも、彼にとっての先輩は彼女だけだ。唯、確かに呼べる名前が無いのは不便だと、朦朧と思った。 #twbngk

2013-07-08 23:00:11
橘 颯 @so__w

種子:手元に残ったのは空の箱が二つ。先輩を閉じ込め損ねた物と、曾て夏が宿っていたとさえていた物と。唯のオブジェクトに過ぎない其れ等。ならば。あれもフェイクだろうかと、僕は冷凍されていた種達を懐う。若しあれが現実の物なら、探しても良いかも知れない。彼女の庭師として。 #twbngk

2013-07-08 23:10:22
橘 颯 @so__w

混在:ガイダンスは僕だけにしか聞こえない。例え耳元で囁かれている様に感じていても。彼女は第三者に知覚されない。彼女は今や全てとなり、同時に何処にも居ない筈だ。然し、ガイダンスは否定を告げる。――此の階層は君の領域上に存在している。其れの意味する所。彼は顳を押えた。 #twbngk

2013-07-10 23:06:49
橘 颯 @so__w

寄宿:空間構築を生体脳に依存している以上、各々のレンダリングには差異が生じる。無意識下の断片化情報が生み出すのは、街の可視領域外における迷彩区域。意識のノイズで構成された其処へは、管理局も手を出す事は出来無い。――他に無かった。影として巣食う彼女を、僕は容認する。 #twbngk

2013-07-10 23:17:33
橘 颯 @so__w

生死:街中の廃屋は依然、廃屋として佇む。朽ち続ける儘。朽ち切りもせず。当たり前の顔をした不自然に、遅蒔き乍ら気付く。彼岸と此岸。生と死。廃屋は其の境界上に在り続けている。唯そう云う物として。生き続ける事無く。死に絶える事無く。僕は如何なのだ。疑念に答える聲は無い。 #twbngk

2013-07-14 23:12:09
橘 颯 @so__w

混淆:双子は最後迄、街のメモリィを管理する。長い航路の記憶。後世に残す物を取捨選択して。仮に無意味だとしても、与えられた指示に背かず。記録。削除。記録。削除。過程で如何しても生じる消し切れない断片は個々人に残留し、次代へと伝達されて行く。其処に混じった彼女も、又。 #twbngk

2013-07-14 23:22:30
橘 颯 @so__w

霊性:ガイダンスと化した彼女には既に自我は存在していない。対話が成り立っていると錯覚するのは、偏に僕の記憶から抽出されているからだ。――今の私は正しくゴーストと成り果せたのだよ。記憶が再構成した先輩は、笑いを含んだ声音で語る。細胞の内、二つの記憶が融け合って行く。 #twbngk

2013-07-16 23:26:30
橘 颯 @so__w

伝播:黒い髪。黒い眸。痩せぎすの手足。華奢な胴。断片的なモザイクの肖像が0と1の間で見え隠れしている。Whois。問い[クエリー]に応答[レスポンス]は無い。彼女には未だ名が無いのだ。コール。コール。コール。管理局へと押し寄せる無数の聲。其の間隙で一つ花が咲いた。 #twbngk

2013-07-16 23:36:35
橘 颯 @so__w

命名:持って行ける物は回想だけ。第二図書館が失われたと同様に。気に入りの洋墨も携えては行けず、記した紙すら手に残らない。だから僕は幾度も洋墨で刻んだ跡をなぞる。幾つもの刺[うそ]で花[じぶん]を守っていた彼女。一人、であろうとした人の名。今は無き植物図鑑に寄せて。 #twbngk

2013-07-18 23:08:11
橘 颯 @so__w

秒読:口々に数う十[とお]から零。双子が紡ぐカウントダウンは住人に届きはせぬ。目紛るしい時計の針は、見えていても知覚は出来ず。太陽の傾きを注視する者は端から居ない。悪き事は全て夜の内に。良き事は凡て陽の内に。却説、再び陽が昇れば良いけれどと、四つの瞼が下ろされた。 #twbngk

2013-07-18 23:18:15
橘 颯 @so__w

投影:GiiGiiと。間断無く何処かからか響く音。鳥だと管理局が告げた通り、街の上を巨大な鳥影が旋回する。錆びた戸の轢みに似た其れを鳴声と云うならば、何と苦しげだろうか。何時迄も飛び続けていられる道理も無く、頻繁に聞こえる聲は日々悲壮さを増す。鳥は飛ぶ。堕ちる迄。 #twbngk

2013-07-20 23:28:58
橘 颯 @so__w

送曲:其れは童歌だった。子守唄だった。唱歌だった。賛美歌だった。神楽だった。だが矢張り鎮魂歌であった。亜人達は己が耳に響く高らかな歌声に総じて頭を上げ、狂った様に四肢を振り回す。狂乱のパレェドは街の辻を埋め、なれど其処には奇妙な静けさがあった。住人は誰も目覚めぬ。 #twbngk

2013-07-20 23:39:14
橘 颯 @so__w

拡散:飴細工の如く中央塔が崩れ、巨大なキュポラが落ちて来る。皆が空と呼んでいた物が。蒼薄玻璃は乱暴に耐え切れず、端からと云わず其処此処で砕けて街へと降り注ぐ。鋭利な霤は建物を易々と切り裂き、世界は静かに瓦解する。何処も彼処も。悉皆千散りの万華鏡で、少女が狂い踊る。 #twbngk

2013-07-22 23:29:53
橘 颯 @so__w

誤算:古き良きノスタルヂアの何たるかを知らない私達が思い返す事と云ったら灰色したコンクリィトやモルタルの風景、或いは無味乾燥したディジタルの数式ばかりで、ちっとも柔らかなセピアの思い出など浮かんで来ないとばかり思っていたのですが嗚呼不可ない此れは汚染だ最期なのに。 #twbngk

2013-07-22 23:40:10
橘 颯 @so__w

口碑:其れは再編の物語。今や精緻に編み込まれていた物語は解れ。其の緩んだテクストの網目に落ちる私と彼女、そして彼。崩壊した二重螺旋の梯子は既存のテクストに絡み、縺れ、結合して行く。全ては伝わるまい。完全ではあれまい。だが、僕を媒介とした読み手の中に物語は残るのだ。 #twbngk

2013-07-23 23:02:50
橘 颯 @so__w

主役:僕は男であり女である。幼くもあり、老いてもいた。僕は独りでは無く、一人ではある。僕は僕である事を認識し、同時に無自覚。僕達は唯、細切れの物語を拾う。僕と先輩の、彼と彼女の、自分と少女の物語を。私達は傍観者と共に当事者となる。我々は死せる僕であり、生ける僕だ。 #twbngk

2013-07-23 23:13:30
橘 颯 @so__w

挿話:狂人には狂人の理論がある。其れが固定概念に縛られた者に理解出来ないのは、瑣細な違いからだ。我々は等しく自らの内にライブラリを持つ。狂人の物も常人と大差無く、違いはインデックスのみ。項目の多寡では無く、秩序だった分類が為されているか否か。故に加えるのは容易い。 #twbngk

2013-07-25 23:08:13
橘 颯 @so__w

輔祭:過去は人が作る。正確には人の記憶が。有象無象の主観から発生した客観が同一の像を描き出した時、過去は過去足り得るのだ。例え其れが如何に荒唐無稽な物であろうとも。――唯、皆が其れを認めさえすれば良い。見得ない先輩の指が指し示す方へ、僕の脳は働き掛ける。夢として。 #twbngk

2013-07-25 23:19:11
橘 颯 @so__w

理知:人は人以外のモノに知性を認めない。仮に其の片鱗を見たとて、人には劣るがとの冠詞を往々にして付ける。況や、人が生み出したモノならば尚更に。――だが、神にしてみれば人も又ケダモノと変わりはしないだろう。冗長性に乗じた予備空間内で、彼女は呟く。己とてヒトなのだと。 #twbngk

2013-07-26 23:03:45
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