さよならアーティチョーク

夏と先輩と僕と虚構の世界
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橘 颯 @so__w

群衆:陽に炙られて痛む足を、更に鋸状の葉が引き裂く。其の痛痒を『僕』は殆ど知覚しない。一面に広がる花園の中程、覚束ぬ足取りで蠢く人々に近付いて行く。彼等が取り巻くのは、地面に突き立てられた船の残骸と思しき鉄塊。一つと、やや離れてもう一つ。其れは簡素な墓にも見えた。 #twbngk

2013-08-22 23:21:28
橘 颯 @so__w

僕達:男は作業の手を止めるとふと顔を上げ、『鳥』を見る。今又現れた小柄な影。新しい『住人』は頬を伝う涙を拭いもせず、真直に『墓』へと歩んで来る。『彼女達』を此の少年も識っているのだろう。時折記憶に過る、知らない筈の挿話。「よう、新しい『僕』」男は同胞に手を伸べた。 #twbngk

2013-08-22 23:31:58
橘 颯 @so__w

同一:「貴方『も』ですか」擦れた少年の聲には猜疑と確証が等分に混じっている。「恐らくな。此処に居る奴等は皆そうだろ」其れを軽く去なし、男は目深に被った布地の奥で何処か面映そうな笑みを浮かべた。誰も彼もいかれている。だが、御誂え向きの理由ではあった。『僕』の物語は。 #twbngk

2013-08-24 23:18:33
橘 颯 @so__w

象徴:物事には切掛が必要だ。生存する限り、途方も無く無数の選択肢が待ち受けている。始点を定めなければ辿る道すら見得ない。何かをしなければ。『僕』達は細分化された物語を繋ぎ合わせる。其れ等が浮かび上がらせるのは。「御前も知っての通りさ」示された墓標に少年は名を見る。 #twbngk

2013-08-24 23:29:14
橘 颯 @so__w

陰刻:弔鐘が平原を航る。否、其れは拙い鎚の音。少年は差し出された有り合わせの道具を鉄板に向け振るう。痩せ衰えた腕では一文字すら満足に刻めぬ。痺れた手を振り乍ら背後を見遣ると、誰もが良いのだと云う様に頷いた。此れからも目覚めるであろう『僕』達も又、刻むであろうから。 #twbngk

2013-08-26 23:25:15
橘 颯 @so__w

薊野:墓前に供えられた花は無い。墓を取り巻く花園こそが、手向けに相応しいからだ。不自然な迄に一区画のみ群生する花に、少女の『僕』が首を傾げる。「まるで誰かが育てた様」荒れ野に花を根付かせる。其処にはどんな祈りがあったのだろう。『僕』に知る術は無いが、感謝を捧げた。 #twbngk

2013-08-26 23:30:23
橘 颯 @so__w

生残:「此れから如何すれば良い」二人の少女を弔うと、誰とも無く漏れた呟き。「生きるんだろ」応じた聲に、迷いは無かった。人々は一人、又一人と歩み出す。不器用に手を取り合い。未だ目覚めぬ者にも伝えようと。生きねばならぬ。彼女達を語り継ぐ為に。引いては己等の物語の為に。 #twbngk

2013-08-26 23:35:30
橘 颯 @so__w

終始:今やガイダンスも聞こえず、安全を司っていた中央局も無い。平穏は失われ、人々は広大な世界へと怯え乍ら流離う。だが、其の足が止まる事は無い。「さよなら、アーティチョーク」今、歩み出した『僕』の誰かが最後に、『先輩』の名を呟く。其の背後で、見送る様に花々が揺れた。 #twbngk

2013-08-26 23:40:35
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