#8 「ライトニング・マイ・パワー・トゥー・ビー・ボールド」(完)

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2013-07-15 23:26:35
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ミストルティン編第四話「護るべき笑顔は~ノー・ティアー!ノー・アゲイン!」#8 「ライトニング・マイ・パワー・トゥー・ビー・ボールド」(完)

2013-07-15 23:26:39
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―20:22。エバーランド最寄・名隠駅。 「裕岐さん…ありがとうございました」 「いや…全然だよ…」 ホームのベンチに座る二人。 会話は少ない。 アナウンスが新渡町方面行の電車の接近を告げる。

2013-07-15 23:26:51
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「なあ梢…あのな」 「はい」 「正直どう言って良いか難しい所なんだが…気にするなって言っても無理だろうし」 「はい」 「俺も実感が沸かない」 「はい」 「…沸く訳も無いんだけどな」 「はい」 「でも俺は…の…達も……な」 「はい」

2013-07-15 23:28:25
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「梢には、絶対に幸せになってもらいたいと思う筈だ」 「……」 「少なくとも、この俺はそう思ってる……それはユウもな」 「……」 電車の接近音。

2013-07-15 23:30:59
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「今はまだそういう事を考えられないと思う。それは仕方ない」 「……」 「俺の幸せが、梢の幸せと思ってくれてるとしてもな…お互い、無理しても仕方がないだろ」 「……」 「だから暫くは…全部終わるまでは…」 「はい」 電車がホームに入ってくる。

2013-07-15 23:33:57
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「「友達で」」」 「いよう」「いましょう」 期せずして、或いは意図してか声が重なる。 それが何だか面白く、自然と笑みが零れる。 …目の前を先頭車両が通り過ぎ、駅の端で止まる。 隣り合う席に座った二人を乗せ、電車は発進した。 談笑する裕岐と、梢の表情は笑顔だった。

2013-07-15 23:36:57
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今日、彼女が殆どずっと見せていたような笑顔では無かった。 泣き出しそうな、申し訳なさげな作り物の笑顔などでは無く。 紛れもない、年相応の少女が普通に見せるような笑顔だった。

2013-07-15 23:40:58
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―新渡町。 引き絞られた白繭。 魔術師ビッグネストが凝縮させた蜘蛛の巣結界の成れの果てだ。 倉庫街を不可視の状態で覆っていたそれは密度が高まり、今はもう常人の目にも見える。 全長12m、全高4m程と言ったところだろうか。 その塊から白いモノが剥がれ落ちる。

2013-07-15 23:43:57
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繭の一部では無い。 魔術戦士ホワイトナイトである。 両手を襤褸切れに突き刺したまま、落ちる。 『ちっ』 虫の死骸でも払う様にして、ソレを放り捨てる。 廃人と化した魔術師スターチェインバーである。 繭の内側で圧縮される瞬間、咄嗟に利用したのだ。

2013-07-15 23:46:57
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装備を封じられていた状態で、生き残る手段は限られていた。 防御や回復力を強化しても良かったが、前者は効力は強いが出が遅く、後者は既に多用しており負荷が多かった。 そこで彼を利用した。 魔眼で洗脳し、手加減無しの全身全霊で防御させた。その結果がコレだ。

2013-07-15 23:50:57
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ホワイトは『神との仮契約』により、戦闘下において主に4つの恩恵を授かっている。 体力の無限供給。 緊急時の魔力供給。 キスよる他者への魔術的効果付与。 そして魅了の魔眼である。 ただし、これは本来常人相手ですら好感度を多少弄るのが精々で、魔術師に効くようなものでは無い。

2013-07-15 23:53:57
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これをアクセルハートの発現系の一つ、魔術攻撃力強化のタリスマンアクセルの最大出力で大幅に強化した。 常人を余裕で惚れさせ、格下の魔術師に自殺を強要出来うるレベルである。 ほぼ同格相手ではあったが、消耗と本人の生存欲求に付け込むことで操作は容易だった。

2013-07-15 23:56:57
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代償としてスターチェインバーは一時的に廃人化した。咄嗟の上に敵相手の手加減無しの洗脳を受けたところに、消耗状態で限界以上に魔術行使をした為だ。数日治療すれば治るだろうが、生憎それ程長く生かしてやる理由は無い。UAR15人のリーダーという情報源を自らの手で潰してしまった事になる。

2013-07-15 23:59:57
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―苦々しい。 既にUAR本部への潜入で多くの情報を得てはいる。今更現場司令官一人拷問しても大した新情報は得られないであろうから、正直拷問には報復と腹いせ以上の意図は薄い。 それはいい。 問題は「『活かして』捕らえる」のに失敗したという事実自体だった。

2013-07-16 00:05:57
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(こんなことで本当の敵に勝てるのか!?この雑魚が!クズがカスが!) (師匠の弟子の中でも実力は最低最弱弟子を名乗るのも恥ずかしく師匠に指も触れずに殺される雑魚!) 得意の毒舌を活用し己を罵倒する。 その勢い余って無意識に腕を振る。 その勢いのままに、片膝をついた。

2013-07-16 00:08:58
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倒れるのは避けたが、脳が揺れた。 「うぐっ、う…オェッ」 血八割の吐瀉物を吐きかけて飲み込む。 魔術師でも数十回は死んでいるダメージである。 スタミナこそ無限供給され、魔力にも余裕はあるが削られた生命力までは戻らない。 「はっあ…ハァッハァッ…オフッ!」

2013-07-16 00:11:57
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過呼吸状態で吐き気にも耐えながら、真上の繭を見上げる。 まだ、倒れる訳にはいかない。 まだビッグネストが中にいる。 半死半生にして、拷問せねば。 ホワイトは右掌を眼前に翳す。 …指が二十本くらいに見える。 ダメージは深刻である。

2013-07-16 00:14:57
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先程までは余裕があったが、その時点でも過剰再生力で強引に治していた。 その為、左右の腕の長さなどが微妙に普段と違う上に、血肉の濃度も薄くなっていた。 そこに今の脱出劇である。 辛うじて保っていた均衡が大きく崩れた。

2013-07-16 00:17:57
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生まれたての小鹿以上に震えの止まらぬ脚、まっすぐ伸ばせない右腕、腹まで上げると激甚痛の走る左腕、呼吸の度に焼ける喉。一頭足ごとに襲う割れるような頭痛……ホワイトは…いや、浅空勇矢はもう帰って絢女の胸に埋もれて眠りたかった。 …そう、浅空勇矢こそがホワイトの正体である!

2013-07-16 00:20:57
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…などと、ふざける余裕も最早ない。 躱せる攻撃を敢えて受け続けたのがここにきて仇となった。 誰も望まず何の修行の足しにもなりはしない、自己満足にも不足な手前勝手の制約。 それのせいで敵を逃がしては、それこそ何にもならない。 次の一撃が勝負だ。 ―地面が揺れる。

2013-07-16 00:23:57
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同時に眼前の巣も大きく揺れ動く。 いよいよダメージが脳幹にでも達したか、と錯覚したが…違った。 巣の中心部から上方に向け、放射状に延びていた糸束…既に固く凝縮していたそれが、一斉に直角に曲り地面に突き刺さる。 数は八本。蜘蛛の脚と同じ本数。 「っ!?させるか、あ…」

2013-07-16 00:26:57
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意図を察した勇矢が拳を握るが、揺れに刺激された眩暈で前のめりに倒れる。 咄嗟に土下座じみた姿勢を取り地面への直撃は避けた。 ―だが今倒れたら起き上がれる自信は無かった。 その隙に顔無し巨大蜘蛛が形成を終え、動き始めた。

2013-07-16 00:29:57
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―「早く早く早く!動けぇっ!」 中のビッグネストは狂乱していた。ホワイトの得体の知れない怒りと狂気、殺意。恐れを成し、逃げに徹していた。未だ制御しきれぬ切り札を必死の思いで強引に成功させた。先のことは考えていない。あのバケモノから最短で離れることしか頭に無い。

2013-07-16 00:32:58
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