#8 「ライトニング・マイ・パワー・トゥー・ビー・ボールド」(完)

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「「お考えになって下さい。私が来なくとも勝負は決していましたし、人が集まってきたらお兄様のロボットが起こしてくれたでしょうから何の問題も無かった筈ですわ。差し出がましいとは仰られないのでしょうけど、ともかくお兄が自力で勝利条件を達成されたのは間違いありません」

2013-07-16 03:32:07
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「それはまあ分かっ「私が来たのはサービス、と言ったところです。このまま今の続きをして下さっても構いませんが、『お迎え』とお仕事の続きの前にすることがありますでしょう?」 「するこ「栄養補給と、それから…シャワーです」 「シャ「今、お迎えに行かれては血の匂いが残ってますよ?」

2013-07-16 03:32:49
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緋華理がミニテーブルの上のバスケットを開ける。カツサンドやレバー炒めサンドなど血肉の補給に向いた軽食が入っている。 「「ゆっくり移動させてますので、取り敢えずさっと浴びて来て下さい。出た頃にお茶をお出しします…あ、どうぞ」 「……いい加減喋らせろよこらぁ!こっちゃ来い!」

2013-07-16 03:33:19
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先を読み過ぎる、というより勇矢のことを知り尽くし過ぎている緋華理。 親の過保護に苛立つ子供の如き勇矢は彼女を車内のシャワールームに引き摺りこんで色々した。 が、それすらも予想の範囲内だったらしく、着替えは彼女の分も用意してあった。茶も淹れたものが適温で保温されていた。

2013-07-16 03:33:29
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2013-07-27 23:12:43
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2013年4月21(日)21:43。茨城県日館市新渡町 住宅街。 「遠いのにわざわざありがとうね」 「いえ、娘さんを遅くまでお借りしてすみません」 七橋裕岐が梢の家族と言葉を交わす。 暫くして、梢は先に家族を奥に行かせた。

2013-07-27 23:13:00
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「こっちまで送って来て貰って、本当にすみ…ありがとうございます」 「気にするなよ。こっちにも友達もういるし泊めてもらうさ」 「はい」 「じゃあ、明日また…学校で」 「はい。また…明日」

2013-07-27 23:15:40
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…梢と別れ、駅へ歩く。 こちらに友人がいるのは本当だ。 部活仲間に加え、他に十人以上はいる。何人かは頼めば泊めてくれるだろう。 ただ大半は知り合ってまだ二週間程。 その上、今からでは殆ど寝に行くだけになる。 それは流石に厚かましいと感じた。

2013-07-27 23:21:40
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何より今日遊んだ分、明日の勇矢・星護との作戦会議には力を入れたい。 寝る前に自宅で資料を読み返すくらいはしておきたかった。 デート中にふと思いついた改良案のメモ書きも、ある程度清書しておきたい。 来栖見までは二時間かかるが、帰らねばならない。

2013-07-27 23:25:39
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新渡町と来栖見は、もし間に直線の路線があったなら一時間程の距離である。 だが実際の路線は、両町を上部・県南の名隠を下に見て『V』字を描く、遠回りのルートになる。 高速バスなら大分短縮できるが、今の時間では途中駅からの乗り換えが殆ど無い。

2013-07-27 23:28:40
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車なら1時間弱だが、まさか親に車を出して貰う訳にもいかない。 本来なら名隠で梢と別れるべきだったろうが、彼女を一人で帰すのは論外として、早めに切り上げる選択肢も彼には無かった。 出来るだけ楽しませて送り届け、少しでも幸せな気分で眠って欲しかった。

2013-07-27 23:31:40
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帰り道の電車では次のデートの話や部活・夏からの大会の話などをした。 梢も楽しげに笑っていた。 笑っててはいたが…。 彼女は今、幸せだろうか? 「………」 口で本人がどう言おうとも、その本心は分からない。 なら他人が考えたところで、分かる訳も無い。

2013-07-27 23:35:40
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駅への道は半分程を過ぎた。もう5分と掛からない。 次の電車までは10分以上間もある。 ゆっくりと歩く。 一服入れようと、手近な自販機に札を入れる。 釣銭と缶の出る音に紛れ、背後で軽い自転車のブレーキ音がした。 裕岐は振り向かずに130円だけもう一度入れた。

2013-07-27 23:38:40
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ガシャン。 落ちてきたエスプレッソ缶を取り出し、左手で後ろに放った。 自転車の男は右手だけで受け止め、蓋を開け口を付けた。 2秒で飲み干すと、空き缶を無言で裕岐の首横へと投げた。 裕岐は右後ろ手で受け止め、空き缶入れへと捨てた。 振り向く。

2013-07-27 23:41:40
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「…散歩か?ユウ」 「行くぞ」 浅空勇矢は、冗談には答えず後ろの席を示した。 いつもの通学用の折り畳み式では無く、二人乗り用の籠付自転車だった。 ただしこれに絢女や緋華理を載せることは(彼女らのおっぱいが背に当たらないので)少なく、 基本的に荷物運搬用としての物である。

2013-07-27 23:45:40
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裕岐は無言でその籠に乗った。 クッションがあり、それなりに座りやすい。 土産やバッグは前の籠に預けた。 暫くは常識的速度で車道を走った。 人気の少ない国道に出ると勇矢が口を開く。 「…飛ばすぞ」 と言われたので、彼の腰に手を回し、少し強めに掴んだ。 自転車が加速する。

2013-07-27 23:48:40
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少年二人と荷物を載せていながらも速い。 競輪並である。遅くとも一時間半程で来栖見に到着出来るだろう。 一応制限速度60キロは守っている。 もっとも籠付とは言え、タンデム用でも無い自転車で二人乗りである。 良くて黒に近いグレーだ。

2013-07-27 23:51:40
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何故迎えに来た? とか 何故自転車で? などとは聞かなかった。 妙にやつれた勇矢の様子も、 梢の件についても。 聞いたところで答えまいし、必要なら彼の方から言う筈だからだ。

2013-07-27 23:55:40
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日館市を出て暫くした辺りで、それでも裕岐は口を開いた。 「ユウ」 「何だ」 「俺は…梢を…幸せにしてやれるのかな」 「幸せにしてやりたい?」 「ああ」 「自分の手で?」 「……自分でも、良く分からないな」

2013-07-27 23:58:40
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行き交う車は少ない。 回転するタイヤと巻き取られるチェーンの音が無機質に響く。 「梢が俺を好きって言ってくれたのは嬉しかった」 「今日のデートも、色々有ったけど楽しかった」 「一緒にいて楽しいとも思う」 「でも本当に好きなのかって言われると…」

2013-07-28 00:05:40
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「今の俺じゃ、梢に答えてやれる自信は無い。このまま好かれていても良いのかな」 考えをまとめながら言い終えた。 数分か、数十分だったか?しばらく沈黙が続いた。 そうしてから勇矢は答えを返した。 「七橋でも無理かも知れない…のは仕方ない。仕方ないが…」

2013-07-28 00:06:25
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「…あの子を救えるのはお前だけだ」 「お前が無理なら、もう誰にもあの子は救えないと思う」 「だからって義務感だけで動かれても困るが…」 「恋人とかそういうの抜きで、あの子のことは好き?」 裕岐は頷く。 「ああ。それは間違いない。それは自信を持って言える」

2013-07-28 00:12:40
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「…側に居たい?」 「ああ」 「……なら、それで良い、それだけで良い」 「…そうなのか?」 とてもそうは思えない、という疑念を声色に出す。 「多分な。あの子の側にいること以外の全部は僕がどうにかするから」 「聞かないけどさ…その『以外の全部』って奴さ…」

2013-07-28 00:25:40