ジャック・ウォマック『ローラの日記(4月分その1)』(山本ニュー訳)
でもそこには何千冊何万冊も本があったし、あたしがどの本か分からないよりもっとパパは分からなかったんだと思う。だって持って来いと言われたとたんにパパがまごまごしだしたから。でもそれを見てモスバッハーさんが完全にキレた。もし銃を持ってたら全員殺されてたと思う。 #RASV 0658
2013-09-12 23:52:07モスバッハーさんは積んであった本を思いっきりけって、くずれたとこから一冊拾って投げすてたから客に当たりそうになった。 なんだこのクソがお前はこのクソのうなしがクソが!と金切り声でさけんで、それから急にだまって、なんでこいつらは自分を見てるんだという顔をした。 #RASV 0659
2013-09-12 23:58:43それからエレベーターのとこにあるべつの山から本をつかんで題名順に並べだして、パパを完全にムシした。客がモスバッハーさんに探してる本があると言ったら、お前はインフォメーションという字も読めないのかこのクソが字も読めないアホが本屋に何しに来たんだ?と言った。 #RASV 0660
2013-09-13 00:11:26客はびくっとして、どこかに行ってしまった。 パパがあたしたちの方に来てママが「あの人クスリやってるの?」と聞いたけど、パパは首をふった。はなれる時ブーブとあたしはモスバッハーさんがまたキチガイみたいになるかもと思って見たけど、ふつうに本のチェクをしてた。 #RASV 0661
2013-09-13 00:16:37レジのところで、あっちにさけびながら本を投げつけてるキチガイがいるぞと言ってる客がいたけど、「あれは当店のオーナーでございます」と言われて、なんなんだこの本屋はとおこってスタスタ出ていこうとして、ガードマンに万引とまちがわれて床に押さえこまれた。 #RASV 0662
2013-09-13 00:24:40帰りは地下鉄乗ったんだけど、今度は最悪だったしめちゃこわかった。ちょうどラッシュアワーで息できないくらいこんでた。でもあたしはすわれて、ブーブがあたしのひざにすわって、ママはつり皮のぼうにつかまって立ってた。 #RASV 0663
2013-09-13 23:01:24そしたら66番と72番の間のトンネルで電車が止まった。車内がまっ暗になってエアコンも止まった。運転手がこしょうですと言ったけど放送のスピーカーがこわれてて土管の中でしゃべってるみたいに聞こえた。電車が止まるときはいつもそうなんだけど、みんなシーンとしてた。 #RASV 0664
2013-09-13 23:05:08でも急に女の人が「ちょっと足どけてよ」と言って、男の人がてめえがどけろと言った。 「あんたがどきなさいよ」 こっちのせいかよてめえのベビーカーがじゃまなんだろが。 「赤ちゃんなんだから仕方ないじゃない」 ああ?なんだそりゃ? #RASV 0665
2013-09-13 23:10:23そうやって言いあらそってる内にだんだん声が大きくなっていって、ちがう女の人が「しずかにしてくれませんか」と言ったら、男の人がてめえはすっこんでろと言って、それで「えらそうな口きくんじゃないわよバカのくせに」と言い返した。 #RASV 0666
2013-09-13 23:13:41そしたらまわりの人たちがやめろやめろとさけびながらこっちに押しよせてきて、ママがあたしとブーブの方にたおれそうになった。でもすごくこんでて何が起こってるか見えなかった。 「だいたいあんたが悪いんでしょ」と女の人の声がして、まわりの人がやめろ落ち着けと言った。 #RASV 0667
2013-09-13 23:19:43そしたら押してこなくなって、しばらく話し声もしてたけどしずかになった。でもさっきの女の人が「死ねよバカ」と言ったらみんながさっきよりも大きい声でさけびながらまた押しよせてきて、まどガラスがわれるかと思った。やめろとかよせとかさけびながら押しまくってた。 #RASV 0668
2013-09-13 23:29:16その時電気とエアコンがついて、2、3分して電車が動き出した。72番で半分くらいの人が下りていってしずかになったから、さっきけんかしてた人も下りたのかなと思った。ママは顔がまっ青でぐったりしてて、ブーブもだまりこんでたから、きっとこわかったんだと思う。 #RASV 0669
2013-09-13 23:35:16アン、ほんと最悪な日だった。あたしもぐったりだけど今日のことは全部書きたい。でもブーブがもの投げてきて「電気消してよブーズ」と言うからそろそろやめる。ママはザナックスで今ごろぐっすりだからブーブの声も聞こえてないだろうけど、どっちにしろもうねる。 #RASV 0670
2013-09-13 23:38:50そういえば帰ってきた時「パパはモスバッハーさんにあんな言い方されて平気なの?」とブーブに聞かれたから「平気じゃないけど仕事だからしかたない」と答えた。 「わたしだったらがまんできない」 「ブーブが仕事するようになったら分かるよ」 「じゃあ仕事なんかしない」 #RASV 0671
2013-09-13 23:41:45「あんなやつシャベルで頭なぐってノウミソぶちまけてやればいいのに」 「そんなマンガみたいなことできるわけないじゃん」 「わかってるよ」 もう1時間たったけどパパは帰ってこない。じゃあね、ぐないアン。 #RASV 0672
2013-09-13 23:44:334月10日(金) ごめんアン、ずっと書けなかった。書きたくなかったのもあるし、書くのムリだったのもある。水曜の夜に書こうとしたんだけど、つかれてたし、落ちこんでてそれどころじゃなかった。なんでみんな自分に関係ない他人のうわさ話するのが好きなんだろ? #RASV 0675
2013-09-14 19:01:27月曜にタニヤとスージーの様子がおかしかったこと話したよね?火曜も水曜もその調子だったから、水曜のお昼に「二人ともどっかおかしいんじゃない?」と言ってやった。 「わたしたちは別に。おかしいのはそっちじゃないの?」 「なんなの?人をバイキンあつかいみたいにして」 #RASV 0676
2013-09-14 19:01:45「わたしたちふつうだし。そっちが変になってるだけじゃん」とタニヤ。 「引っこしてから頭おかしくなったんじゃないってみんな言ってる」とスージー。 それからタニヤが「とくにあっちの方で?」と言って、二人はあたしだけ知らないジョークを言ったみたいにクスクス笑った。 #RASV 0677
2013-09-14 19:02:25「どういう意味」 「別に」 「何が言いたいのよ」とあたしがすわろうとしたら、二人が席を立った。 「すわっていいなんて言ってないじゃん」 「どっちが頭おかしいのよ?」 「行こうスージー。あの子完全におかしくなってあっちの世界行ってる」 二人は行ってしまった。 #RASV 0678
2013-09-14 19:03:02放課後キャサリンを見かけたから今度こそこないだのこと、トイレのぞいたのはキャサリンの父親だったのか聞いてやろうと思った。あたしに気づいてなかったから後ろから声かけたらキャサリンはユウレイを見たみたいな顔をした。 「何があったの?」とあたしが言ったら、 #RASV 0679
2013-09-14 19:03:22「別に」と言ってそのまま歩いていこうとした。あたしがうでをつかんだら、キャサリンは手に持った本をふり上げてなぐりかかろうとした。 「さわんないで」 「なんでそんなこと言うの?」 「わたしが言わなくてもわかるくせに。いいから手を放して」 #RASV 0680
2013-09-14 19:03:55「イヤだ。わけを言って」 「大声出すよ?そしたらみんな来るから」と言ってイーストエンドをわたって83番の方に走っていった。 「レーズ!レーズ!レズ!」と後ろから声がした。知ってる声ばかりだった。ふり向いたらスージー、イッキー・ベッツィー、みんなそこにいた。 #RASV 0681
2013-09-14 19:04:30みんながあたしをバカにして笑っていた。 「うるさい!」とあたしが言ったら笑い声はもっと大きくなった。その時ブーブが歩いてきた。 「帰ろブーブ」 「うん。いいお天気だし歩くでしょ?」 「バスで帰るの」 スージーの声が聞こえた。 「気をつけないとヤラれるよ!」 #RASV 0682
2013-09-14 19:05:09