ジャック・ウォマック『ローラの日記(4月分その2)』(山本ニュー訳)
「私立って楽しいか?」とイズが言って、 「私立だからってのはないかな。学校は学校だし」と答えたら、みんながうなずいた。 「みんなは学校楽しい?」とあたしが聞いたら笑われた。あたしのこと笑ってるのかと思ったけど、ジュードが「たいくつ」と言って、 #RASV 0717
2013-09-16 08:06:12ウィージィも「男はホールでチャカとか見せびらかしてるしな。クソばっか」と言った。イズはだまってたから、ほんとは学校好きなのかなと思った。 「学校でうたれたりもするの?」 「ないとは言わんけどさ」 「ウィーズ、見せてやんなよ」とジュードが言った。 #RASV 0718
2013-09-16 08:19:49ウィージィはヒザたけのピカピカのブーツをはいてつま先にぜつえんテープをはってた。そのブーツに手を入れて中からヒザまである長いランボーナイフを取り出した。それからあたしのうでをつかんで、あごにナイフを当てて、ニヤッと笑った。前歯が金歯だった。 #RASV 0719
2013-09-16 23:56:44おびえてよかったんだろうけど、なぜかこわいとは思わなかった。イズもジュードも平気な顔してたからかもしれない。ウィージィは笑ってうでをはなして、それからまたみんなで歩いた。あたしたちの方をじろじろ見る人はほとんどいなかった。だいたいは見て見ぬふりしてた。 #RASV 0720
2013-09-16 23:59:56「こんなもんドミニカならつまようじみたいなもん」と言ってウィージィはナイフを上に放って、パシッとつかんでからブーツに入れた。 「ウィージィ、あんたいつかだれかグサッとやっちゃうんじゃね?」とイズ。 「チャカ向けられたらしかたないじゃん。でなきゃささねえって」 #RASV 0721
2013-09-17 00:05:07「でもこないだ自分でさしたじゃん。だから足ひきずってんだろ」とジュード。 「自分で?」と聞いたらウィージィがいっしゅんイラっとしたのが分かったけど、イズが説明してくれた。 「ウィージィがサイコ・キラーのチャーミンとブラッドTといっしょにこないだの夜いたんよ。 #RASV 0722
2013-09-17 00:12:40レネゲーズのヤツらうろついてたからだっけ?んでナイフ投げてたら、先っぽ下にして落ちてきて、んでつま先にグサッと。だからテープでふさいでんの」 「病院へは?」 ほんとはキズ見せてって言いたかったけど、ウィージィにあんまり好かれてないみたいだし言わなかった。 #RASV 0723
2013-09-17 00:17:54「あ?病院?あいつらドクでもクスリでもてきとーにわたして、はいタイレノールですってなもんじゃん」 「行かなかったってこと」とジュード。 「行ったってナースがナイフぬいて血ふいて、お大事にーだろ?クソが」と言ってウィージィは笑った。 #RASV 0724
2013-09-17 00:24:36「んじゃあたしらはちょっと銀行行ってくるわ。ダウンタウンに会いたいやつもいるし」 と言ってジュードとウィージィは110番で地下鉄に下りていった。 「明日はどう?」とイズに聞かれたからうなずいた。 「それじゃお昼にブロードウェイわたったチャイニーズんとこね」 #RASV 0725
2013-09-17 00:30:26「うん」 それからイズはジュードとウィージィの方へ走っていった。あたしはダウンタウンまでわざわざ歩いてリバーサイドぞいにもどった。ミーコたちがまたブロードウェイにたまってるかもしれないし、映画とか美術館行きたいけどお金ないからさんぽしかやることなかったし。 #RASV 0726
2013-09-17 00:48:07リバーサイドパークはセントラルパークとぜんぜんちがってヤバい場所って感じがする。116番まで来たらパトカーがいっぱい停まって、警官がいっぱいいた。何があったか知らないけど、自分に関係なくてよかったと思った。 #RASV 0727
2013-09-17 22:17:12家に帰ってきたら、ママが「おかえり、どう?楽しかった?」と聞いてきたから、「近所の女の子とブラブラしてた」と答えた。 「近所の子?」 「うん、みんなこの辺の子」 「さっそくお友だちできたのね、よかったじゃない」 「あたしたち、もうずっとここに住むんだよね?」 #RASV 0728
2013-09-17 22:21:24もう今さら知らんぷりしたってしょうがないじゃない、とあたしは思った。 でもそう言ったらママの顔が暗くなった。あたし、ママのことキライとか、悪いことがあったとか言ったわけじゃないのに。 「そんなこと言わないで、いつかきっと帰れるわ、だからもうちょっと待って」 #RASV 0729
2013-09-17 22:25:40「帰れないなら帰れないであきらめるけど、どっちかはっきり知りたい」 そうは言ったけど、どうせママは同じことしか言わないかなとは思った。 「落ち着いて聞いて。いい?私たちは帰るの。パパもキチガイの下で働かなくていいし、電車のそう音でねぶそくにならなくなるの」 #RASV 0730
2013-09-17 22:32:21「もうなれた。夜中に起こされることもあんまりないし」 「でも帰れたら、夜中に起きるなんて絶対にないのよ?」 ママはあたしをギュッとしてキスしてから原稿の仕事にもどった。ふと見たらママの給与明細があった。すぐに片付くって言ってたやつ。たったの100ドルだった。 #RASV 0731
2013-09-17 22:38:20明日会える?ってイズが言ってくれたのすごくうれしい。イズは一番さいしょに声かけてくれたからってのもあるけどすごくいい子。ウィージィもいい子だとは思うけどちょっとあぶない感じ。ジュードはいつもどっか遠く見てるみたいな目をしてた。 #RASV 0732
2013-09-17 22:50:46だれかと友だちになるときって、あとから考えると結局自分とどこか似てる子と友だちになってたりするよね?でも、あたしがイズのこと好きだなあって思うのは、もしかしたらイズがあたしとぜんぜんちがうタイプだからかもしれない。うん、あの子はすごくとくべつな感じがする。 #RASV 0733
2013-09-17 23:00:45ロリが帰ってくるまであと4日。早く会いたい。ロリだったらイズと仲良くできるんじゃないかな?あ、でもムリかも。あの子自分はレイシストじゃないって言うくせにニガーって言ったことあるし。 じゃあね、ぐないアン。 #RASV 0734
2013-09-17 23:07:494月12日(日) あたしとブーブの部屋のエアコンがこわれて昨日の夜は死ぬかと思った。でも新しいの(フューズが飛ばないちゃんとしたやつ)買うお金ないしがまんするしかない。 お昼になって待ち合わせの場所に行ったらイズが先に来てた。今日もすごく暑かった。 #RASV 0735
2013-09-18 20:51:28イズは下着みたいなシャツとぴちぴちのジーンズはいててたせいで、ちょっと太って見えた。 「ジュードとウィージィは来ないの?」 「二人とも昨日の夜は大さわぎだったからまだグーグーねてる。待ってたら日がくれるし、もう行く?おなかへってる?」 あたしは首をふった。 #RASV 0736
2013-09-24 22:15:57「んじゃ中華やめよっか。ネコ食わされたらたまんないし」と言ってイズがジーンズのポケットから10ドルぬきだそうとして、ぴちぴちすぎてけっこう苦労してた。 それから二人で125番のスパニッシュ・レストランまで歩いた。 #RASV 0737
2013-09-18 21:33:12カウンターでイズがライス&ビーンズたのんで、それからコーク2つくんでくれて、外からじろじろ見られなるのイヤだし窓からはなれた席にすわった。テーブルにゴキブリがいて、イズが指でブチュッとつぶしてジーンズでふいた。 「ここに来たのってほんとにお金がないから?」 #RASV 0738
2013-09-18 21:41:10イズがそういった時にちょうどライス&ビーンズがとどいた。 「うん。パパはきゃく本家だけど、でもパパのきゃく本使ってくれる映画がなくなって、それでどうしようもなくなったの」 「映画かんとくだったの?」 「ううん、シナリオ書くほう」 「どんな?」 「なんでも」 #RASV 0739
2013-09-18 21:45:23「んじゃ今は何やってんの?」 「ミッドタウンのエクシルシオ書店で働いてる」 「英語の教科書ひとりで買いに行ったことあるけど店員がハエみたいに後ついてきてムカついたなあ」 「オーナーがヤバいんよ」 と言ってエレベーターに頭ぶつけながらクソクソ言ってた話をした。 #RASV 0740
2013-09-18 21:51:09「なにそれマジでキチガイじゃん!そんなとこで働いてるヤツの気がしれんわ」 「そんなとこで働いてるヤツだからイズの後つけてきたのかもね」 「ちがうって、わたしが黒人だからよ。ムカつく」 食べ終わってからハーレムの方まで歩いたけど中には入らなかった。 #RASV 0741
2013-09-18 21:57:04