ジャック・ウォマック『ローラの日記（4月分その２）』（山本ニュー訳）

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4月11日（土） 今日はまだお昼にもなってないのに３２度こえて、スポンジが水すったみたいにジトジトしてた。ニューヨークでは毎年そうなんだけど、夏になると空気が生ゴミみたいなにおいする。自分がニューヨーク住みじゃなかったら夏だって好きになれるのになあ。 #RASV 0692

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こういうむし暑い日は首の後が汗だくになるし、頭にベーコンまきつけたみたいにかみがベトベトするから１日に２回も洗う。 パパが１１時半に仕事行ったから、あたしも外出することにした。ママは新しくもらった原稿を読んでて、ブーブはマンガ見てた。 #RASV 0693

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週末だから早おきしなくていいし、起きても暑いだけだけだからみんな１０時までねてた。でもあたしは一日ムダにするのもなあと思って、サンダルはいて、タンクトップ着て、カットオフのジーンズはいた。 「どっか行くの？」とママに聞かれたから、 「ちょっとね」と答えた。 #RASV 0694

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「そんなかっこうしてたら不良の子たちにちょっかい出されるわよ？」 「えーそんな変な服じゃないよ。だって暑いもん」 「とにかく気をつけてね。不良についてっちゃダメよ」 「大じょうぶだよ」 外に出たらお祭りの日みたいにいっぱい人がいた。 #RASV 0695

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管理人さんは外にテーブル出して友だちとカードやってた。上の階に住んでるおばあさんたちはアパートの前の外灯にもたれて世間話。それにブロードウェイの角にスパニッシュの男の子がたまってて、みんなキャップかぶって、ヒザまであるフットボールＴを着てた。 #RASV 0696

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男の子たちはあたしよりちょっと年上、ということは最悪の年代だった。まだ子供のくせに自分のことをりっぱな大人の男だと思い込んでる年ごろって意味ね。あたしはブロードウェイわたってコロンビア大の辺まで歩こうと思ってたんだけど、信号につかまってしまった。 #RASV 0697

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さっそく男の子たちがヘイベイビーヘイベイビーとかアホみたいに声かけてきたから「はいはいありがとー」と答えた。ムキにならずに流しといたほうがいいってさすがに分かってきたから。そしたらそいつら笑って、今度はおいクロこっち向けよと言ってきた。 #RASV 0698

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もうアンに話したよね？これってすごくゲスいスペイン語で、英語だったらファックとかおまんこって意味。そうしてるうち、一番体が大きい子がこっちに来た。自分ではカッコよくヒゲ生やしてるつもりなんだろうけど、石炭でも食べたの？みたいに口のまわりが黒いだけだった。 #RASV 0699

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仲間もこっちに来たから、あたしはさっさと向こうにわたろうとしたけど、角のところでまたボスの子につかまった。 なあお話くらいしようや？とボスが言ったら、まわりが、こいつ話し好きの女だろとか、あっちの方も好きなんじゃね？とかはやし立てた。 #RASV 0701

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手にステッキ持ってたけど足は悪くないみたいで、ぶらぶらさせながら来るからなぐられるかと思った。その子はあたしのうでをつかんで、ヨーねーちゃんいっしょに歩道わたってオレんち行こうぜと言ってきた。あたしは顔見ないようにしながら「はなしてよ」と言ってふりほどいた。 #RASV 0700

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「あたし男の子はキライなんだってば」とつい正直に言ってしまったら、ならそんなカッコすんじゃねえよと言ってボスがおしりをさわってきた。前歯の欠けた子がＴシャツの下に手を入れてきた。通りがかった人でスペイン語でやめなさいと言ってくれた人もいたけど、ムシされてた。 #RASV 0702

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「はなしてよ」 いいからいっしょに来いよ。とだれかが言ったら、公園行こうぜ公園、とボスが言って、あたしのおしりをいたいくらいギューっとしてきた。男の子たちはあいかわらず笑ってたけど、あたしは全然笑えなかった。でもあいつらはこういうのが面白いと思うんだろう。 #RASV 0703

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その時「ホモくせぇヤツがいると思ったらミーコじゃん」と女の子の声がして、男の子たちがたじろいだ。チーマン・プレイスの方からイズとジュードがもう一人の子と来るのが見えた。 「お利口なミーコちゃん、両手をはなしてご本を開いてごらん？」とイズが言った。 #RASV 0704

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あたしは男の子たちをふり切ってイズたちの方に行った。 おどかすなよオレたちお話してただけだぜ？とボス。 ミーコって名前なんだ、とあたしは思った。 「野良犬はきびしくしつける方針なんだよ？」とジュード。 うるせえよビッチ、オレらがなんかしたかよ？とミーコ。 #RASV 0705

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「あんたら最近ツケあがってるって上の子から聞いたけど？」と知らない子が言った。最初にミーコの名前をよんだ子で、スパニッシュ。イヤリングを７つもつけて、ノーズリングは鼻の両側にしてた。ピチピチのパンツはいてて、なんか強そう。 #RASV 0706

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「ミーコちゃんよぉ、そんなにヤリたきゃアップタウン行けっつーの。ギャングスタ系の女ならてめぇのクサレチンポでも喜んでマタ開いてくれるって」とジュードが言ったら、ミーコはクソが！とスペイン語で言い返したけど、ジュードはバカにしたみたいに笑った。 #RASV 0707

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「この辺りでナメたマネすんじゃねーぞ」とジュードが言ったら、ミーコはステッキでなぐりかかろうとふり上げた。でもイズが「あ？それってあたしら相手にするって意味？」と言ったら、イズにもなぐりかかりそうだったけど、イズたちがにらみ返したら手を下げた。 #RASV 0708

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「オラ来いよ」とイズ。 「来いっつってんだよカマやろう」とスパニッシュの子もスペイン語で言った。男の子たちはしばらくぶつぶつ言ってたけど、結局アップタウンの方へ歩いて行った。「いつでも来いよコシヌケども！」とイズがさけんだらふり向いたけど何も言わなかった。 #RASV 0709

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「ありがとう」とあたしが言ったら、 「んなカッコしてっからちょっかいかけられるんだろが」とスパニッシュの子が言った。 「あんたと似たようなもんだと思うけど」と言い返したらイズとジュードが笑って、その子は「あ？」とキレたみたいになったけど、すぐおさまった。 #RASV 0710

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「あんまこの子からかうんじゃないよ」とイズが言ったけど、あたしに言ったのかスパニッシュの子か分からなくてだまっていた。 「バイタみたいなカッコしてっとバカにつかまんだよ」とジュード。 「お前みたいなカッコのことな。バカはどこでもツッコみたがるから」とイズ。 #RASV 0711

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「まあいいや。あんたも来る？」とジュード。 「なにするの？」と聞いたら、 「ブラブラすんだけよ」とイズが答えた。 「行く」 もしイズたちが来なかったらどうなってただろう？たぶんだれも助けてくれなかったし、あたしは大声出してたかも。ヨソモノだから仕方ないけど。 #RASV 0712

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それからダウンタウンをブラついた。あたしたちが通ると、だれもが道をあけた。その時気づいたんだけど、スパニッシュの子は足を引きずっていた（ステッキは持ってなかったけど）。 「ところで名前なんていうの？」と聞いたら、 「ウィージィ」とこっちを見ずにいった。 #RASV 0713

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横からイズが「ホントの名前は聞かないほうがいいけど」と言った。 「あんた引っこしてきた子？」とウィージィに聞かれたからうなずいた。 「スパニッシュじゃないよな？」 「ちがうよ」 「ユダヤ人？」 「わかるの？」 「あたしは人を見る目があんだよ」 #RASV 0714

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「大したことねぇけど」とジュードが口をはさんだ。 「混血のヤツ何人も知ってっからだいたい分かる」 「あたしは？」 「あんたは混血じゃねぇな」 バーナードまで来たら本をかかえた女子高生がいっぱいいた。バーナードかスミスに行きたいけど、女子高のスミスがいいな。 #RASV 0715

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歩きながらだれも何も言わなかったけど、ジュードが「あいつらバカばっかだよ」とひとこと言って、まただまった。 「そういや私立行ってんだろ？」とウィージィに聞かれて、ウソついたってすぐバレると思ったから「うん」と言った。 #RASV 0716