猫神博士の人間豹シリーズ（ツイッター小説）

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。その夜、場末の酒場で呑んでいると、テレビを観て「をを、〇〇だニャン」と狼男が歓声を上げた。見るとそこにゆうべのアイドルが映っている。名前を言える狼男を少し見直すと同時に、本人に会ったことに優越感を感じる人間豹であった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は大人数で活躍中のアイドル・グループの一人だった。「あたしの名前をちゃんと言えたら食べられてもいいニャン」と言われて、知っている限りのアイドルの名前を挙げて行ったが、ついに正解にたどり着けない人間豹であった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物はいつかのＳＭ女王様だった。「お願い、あたしを縛って！鞭で打って！めちゃくちゃにしてほしいの」言われた通りにしてやると涙を流してよがりまくり、安らかに眠った。「客商売も大変だな」だけどこういうのも悪くないと人間豹は思った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は双子の姉妹だった。どちらから先にいただこうかと迷っているうちに、二人が四人になり四人が八人になり、八人が十六人になり……。増殖してゆく姉妹が人間豹を囲んでカラカラと笑った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は全身に見事な刺青を入れた女だった。繊細なアラベスク模様が肌を覆うその景色は、まるで総レースの豪華な下着を纏ったように、女の肌と曲線を際立たせている。この肌を傷つけてはいけないと人間豹は思った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は大きなキャンバスを抱えた美大生だった。倒れた拍子に包みがほどけて、絵の全貌が明らかになる。それはアンリ・ルソーを彷彿とさせるジャングルの絵だった。奇妙な懐かしさを感じて、人間豹はそこから眼が離せない。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は売れない女芸人だった。「よし、俺を笑わせたら見逃してやる」と言うと、彼女は必死で持ちネタを披露した。しかしちっとも可笑しくない。あまりの退屈さに、眠りこけてしまった人間豹であった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は、ゆうべ見た夢の女にそっくりだった。「違うわ」と彼女が言った。「今が夢でゆうべが現実よ」と。確かゆうべの女も、そんなことを言っていた。「そしてあなたは、わたしが見た夢なのよ」と。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。某駅前広場の少女像が、夜明け前のひととき、思い出し笑いをしているのを知っているのは、今のところ彼だけだ。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は可憐な少女人形を抱いた妖艶な女腹話術師だった。彼女の柔肌に牙をたてた人間豹は、その固い感触に愕然とした。「そっちが人形よ」と少女が言った。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物はタヌキのような顔をした女だった。「もう騙されないぞケダモノめ！」すると女は烈火の如く怒って人間豹の顔を爪で引っ掻き回した。「ケダモノはあんたじゃないの！」泣きながら行ってしまった。人間の女がいちばん怖い。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物はキツネのような顔をした女だった。「いいところへ連れてってあげるわ」案内してくれたのは、まるで桃源郷のような温泉浴場だった。化かされたことに気が付いたのは、公園の噴水で水浴びをしていることを子供に指摘された時だった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。その夜の帝都は、動物園から逃げ出した一頭の獰猛な虎に震撼し恐怖していた。しかし数人の犠牲者を出した虎は、警察の懸命な捜索にもかかわらず、首筋に鋭利な爪痕を残して、無惨な亡骸として発見された。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は厚いコートを着ていた。すれ違いざまにそこから爆薬を抜き取った人間豹は「自爆テロなんてもったいないぜ子猫ちゃん。死にたくなったらいつでも俺のところへ来な」と言った。しかしその夜、季節外れの花火が首相官邸近くで炸裂したのだった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は夜だというのに濃い色のサングラスをしていた。「眼が見えないのよ」と彼女は言った。「でもあなたの後ろに佇む女のひとの顔は見えるわ」 #twnovel

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人間豹は飢えていた。その日の帝都は終日雨で、夜になってもめぼしい獲物は見つからなかった。諦めて、目に止まった赤提灯に誘われるように小さな呑み屋に入ると、どこかで見憶えのあるサラリーマンに会釈された。ゆうべの狼男だった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵は仲秋の名月だ。ビルの谷間から月を眺めていると、傍らに気配がする。見るとそれは狼男だった。ふたりは互いに顔を見合わせると、それぞれの獲物を求めて、左右のストリートに分かれて行った。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物は彼を見るなりすっとんきょうな悲鳴をあげた。「キャーッ！月夜じゃないのにどうして？」「狼男じゃねえよ！」こういう間違いはたびたびある。そのたびに不機嫌そうに訂正する人間豹であった。 #twnovel

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人間豹は飢えていた。今宵の獲物は情熱的な女だった。「燃える、燃えるわ」と言いながら炎上し「イク、イクーッ！」と燃え尽きてしまった。あとに灰も残さずに……。アッパレ、としか言い様がない人間豹だった。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物は手首にいくつもの切り傷のある少女だった。｢一息に殺してよ」捨て鉢な台詞にカチンときた人間豹は、少女に背を向けて言った。｢簡単に死ねると思うなよ、お嬢ちゃん」 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物はどこか見億えがあった。｢もしやあなたは…」幻の映画女優の名を口にした。｢人違いです」否定して去ってゆく後ろ姿も間違いなくその人だ。その後ろ姿に｢ファンでした」人間豹は深く頭を下げていた。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物は女性詩人だった。｢闇を駆ける者、汝の名は人間豹！その爪は虚無を引き裂き、その牙は深淵を咬み、その瞳は久遠を捉える。嗚呼今宵もまた帝都の闇は深まるばかり」｢あんた何言ってんの？」 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。「あんた、嫌いじゃないぜ」捨て台詞を吐いて人間豹は闇に消えた。その闇に女豹ドクターはメスを投げつけた。このメスが多くの犠牲者を切り刻んだことを彼は知らない。彼への殺意が愛だということを、彼女は知らない。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。獲物であるはずの女豹ドクターのメスをかわして彼は言った。「いい眼をしてるぜドクター、もし俺があんたより先に死ぬことがあったら、あんたが解剖してくれよ。そして生命の神秘とやらを解き明かしてくれよ、な」 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物はまさに女豹というべき美女だった。ついに自分の求める相手が見つかった！小躍りしながら襲いかかった瞬間、香水の中にかすかな消毒液の匂いを嗅ぎとり、身を翻した。女医が懐中のメスを抜くのとほぼ同時だった。 #twnovel