モーサイダー!~Motorcycle Diary~ 外伝 恋する少年のクリスマス~
- IngaSakimori
- 1751
- 0
- 0
- 0
「これで、第一関門はクリア、というわけね」 「うんっ。はあ~、本当にどうなるかと思ったよ~」 「……そうね。良かったわね、日原院くん」 とろけたような笑顔で頭をかいているティックを、その少女は眼光するどく見つめている。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:57:27きまじめさを象徴するような、太いフレームの眼鏡。飾り気のうすい三つ編み。それでいて、よく整った顔立ち。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:57:40その気になれば、男子生徒たちの注目をあつめるに十分な容貌をもちながら、彼女はあえて自分の存在を抑え込んでいるかのように、クラスの中で地味な一員を装っている。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:57:42「ところで、日原院くんが許可をもらった三鳥栖(みとす)さんのお兄さんですけど……風の噂ではかっこいい人らしいですね」 「あ、うん。まあ、そうだね。 背も高いし、ちょっと憧れちゃうなあ……」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:57:59「天然総受け体質の日原院くんと背の高い美形先輩の絡み。これはいけるわ」 「えっ、何か言った? 琴呂(ことろ)さん?」 「いえ、なんでもないです」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:58:15少女は━━琴呂楓(ことろ かえで)は。 ほんの一瞬だけ緩んだ目元をひきしめつつ、こぼれそうになったヨダレを咳払いのふりをしてぬぐい取る。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:58:22「それにしても、意外ですね。 日原院くんはあんなに女子から人気があるのに、恋の相談できる相手もいないなんて」 「そ、それは……その、だ、だって仕方ないじゃないかっ。彼女たちに……ち、千歳ちゃんのことを言って、何かあったらまずいし……」 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:58:31「……まあ、女子の社会はそういうものだけど」 言い訳するように首を振るティック。うっすらと微笑みながら、楓はティックの困ったような表情を好ましく思う。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:58:40(それにしても、三鳥栖さんに好意を抱いてることを他の女子に知られて、何かあったら嫌だ、なんて) 陰湿な嫉妬から来るいじめでも想定しているのだろうか。高校生の男子というものは、そんなところまで気を回せるものだろうか。 #mor_cy_dar
2013-12-21 21:59:23(海外にいた頃、同じような状況でもあったのかしら……ね。さもなくば、親しい誰かから忠告されたとか) 楓の目からみて日原院ティックという男子は、あまり察しのいいタイプには見えないが、なかなか世渡りのいいタイプだな、とは思う。。 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:00:33「まあ、とにかく。すこし整理しましょう。 日原院くんは三鳥栖さんが好き。もちろんお兄さんの方ではなく、私たちのクラスメイトで同級生の三鳥栖千歳さんが好き」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:00:49「そして、千歳さんのお兄さんはとても厳格で、日原院くんを力尽くで押さえつけられるくらいの体格をしていて、しかも美形」 「う、うん。あんまり整理になってないような気がするけど、言ってることは間違ってないね」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:02「日原院くんは三鳥栖さんに愛を伝えるため、クリスマスプレゼントをあげたい」 「あ、愛を伝えるためだなんて……ひ、日頃の感謝だよ……」 顔を真っ赤にしてうつむくティック。くすりと口元だけを笑わせて、楓は言葉をつづけた。 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:07「そのための許可はお兄さんからもらったけれど、果たして何をあげればいいのか? ゆらめく乙女心。ときめく思春期の聖夜。少年は悩む! ああ、一生に一度しかないこの時……抱いてほしい! その力強い腕でっ!!」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:19「えーと、あの、琴呂さん?」 「━━失礼。ちょっと飛んでましたね」 ティックの言葉と、周囲から向けられた非難めいた視線に、楓はここが図書室であることを思い出す。 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:26「ま、ポイントはこんなところですか。 そして日原院くんをいつも追いかけてる女子達に知られると、いろいろ面倒そうだから、中立に近い立場の私を相談相手に選んだというわけですね」 「そ、そうだね」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:34「私が思うに━━あなたが何をしたいか、だと思うわ」 「え?」 楓は手にしたボールペンの先をティックへ向けて、キツい視線で見つめる。 戸惑うように目を丸くする金髪の美少年を見ていると、妄想の中でどんな目に遭わせてやろうかと、胸が弾む。 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:45「あなたは三鳥栖さんと恋人になりたい……そして、どんなことをしたいの?」 「ど、どっ、どどどっ、どんなことって……それはその……手、手をつないで帰ったりとか……」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:01:58「小学生かっ。その先よ、その先。 いろいろあるでしょう。コピー手伝ってほしいとか、誤字を探してほしいとか、キスしたいとか、匂いくんかしたいと、それ以上とか!」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:02:08「せ、清書って……? よくわからないけど、それだったら、そうだなあ……僕、バイクに乗ってるんだよね」 「その話は聞いたわ。 三鳥栖さんのお兄さんとも、バイクが縁で知り合ったんじゃないかしら?」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:02:18「僕の姉さんが千歳ちゃんのお兄さんにぞっこんで僕は姉さんの紹介でお義兄さんにあったんだけどその時にはお兄さんの妹つまり千歳ちゃんに一目惚れで姉さんは僕が千歳ちゃんと付き合えば兄姉弟妹で包囲網が完成するとか何とか」 「ええ、そうね」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:03:02「……その説明で状況を理解できる人はごく少数だと思うけど。 おたがい兄弟姉妹同士のカップリングって『こっち』ではポピュラーなシチュだから、私にはわかるわ」 「そうなんだ……なんだかわからないけど、琴呂さんはやっぱり凄いなあ」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:03:13「………………まあ、当然よ」 眼鏡をくいっ、とあげながら、楓はこの世界の善意を凝縮したような尊敬のまなざしを、絶望に曇らせたらさぞかし美味だろうと思った。 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:03:20「で、バイクがどうしたの?」 「あ、うん。 えーっと、せっかくバイクに乗ってるし……そ、その、ありがちだけど、千歳ちゃんとタンデム。つまり二人乗りしたいなあ……って思うんだ」 #mor_cy_dar
2013-12-21 22:03:28