角川twitter小説投稿作品「すてきなみらいのおはなし」第二話『BABY'S GROWING UP』

日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber（HUB） @hyuugahikage

提供会には自己負担比率４割の健康で有望な赤ん坊、３割、１～２割の赤ん坊、給付金や税の減免がある多くは障碍を持った赤ん坊を、適切なバランス（一般的には４：３：２：１と言われる）で並べるのがよい。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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しかし、有性生殖はランダムなのでどんなに工夫しても適切な確率のとおりには行かない。そこであまりに確率が偏っている場合には、 遺伝情報を偽装するのだ。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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さすがに片腕がないとか、目が見えないとかは偽装など出来ないが、たとえば病気になりやすい因子、異常に心肺機能が弱い、多少ＩＱが低くなる可能性がある、あるいは精神障害になりやすい遺伝的リスクは見た目からはわからない。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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しかし、遺伝子を目視できる人間なんているわけないので、赤ん坊の横にあるデータを信じるしかない。そこで、障害になる遺伝的リスクをちょっと低く見積もることで、本来なら給付金が出てもいい赤ん坊を給付金なしにしたり、 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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恒常的な給付金が出るはずの赤ん坊を一時給付しか出ないように変えたりするのだ。もちろんそんなことしても遺伝リスクが変わるわけではないが、所詮は確率だ。バレはしない。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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先輩が誰が何人ぐらいと人数を指示すると、みんな各々作業に戻る。そして病気因子の多かったり障害リスクのある遺伝子が出てきたら、その遺伝子パターンを書類上少しいじるのだ。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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先輩たちはどれくらいいじればいいか感覚でわかっているが、新人の俺にはさっぱりわからないので先輩に聞くことになる。先輩もマニュアルにないことだからとちゃんと教えてくれるが、最近「いい加減覚えろ」感を出してきている。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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午後４時ごろ、「残業だな」と同僚の一人が呟く時、突然 「どうかね」 と、聞き覚えのある声が聞こえた。社長だ。明らかに愛人であろう秘書を連れてきている。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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「私たちの社は信用が一番だからね。違法行為はいかんよ」 社長はそう念を押すと出て行った。もちろん彼はデータの偽装を知っている。ばれてしまった時に「社員が勝手にやったこと」と言うためのアリバイが欲しいのだ。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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愛人の秘書が腕時計をいじっているが、あれは録音機能がついているのだろう。「私はちゃんと注意をしていました」と証明するためだ。社長は最近新しい大富豪として雑誌の取材を受けている。稼ぎは上に、リスクは下に、か。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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そんな感じで素敵過ぎて泣きたくなる職場ではあるが、ここを辞めても他に仕事があるわけではないし、官僚への色々な根回しができているから労働監督的なところに訴えても無駄ともっぱらのうわさなのでそのまま働いていた。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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帰るのは毎日夜遅く。台所に溜まる割り箸をそろそろ捨てなきゃなと思いながらベッドに横になる。タブレットを開くと、ふと 「成長」 というあの社長の言葉と愛人を連れながらにやつく表情が頭をよぎった。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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そして、入社半年に自分がいかに社内・社外で成長したかを社長の前で発表しなければならないことを思い出す。全く、セイチョウセイチョウうるさいことだ。俺は弁当の温めてしまった漬物を口に入れると、割り箸を台所に投げた。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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俺はタブレットを取り出すと、電子図書館のサイトへアクセスした。就職する時に買い換えたこのタブレットでは電子図書館を使ったことはなかったので、まず登録の為に指紋と虹彩で認証をする。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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俺は学生時代には就職活動の際に２０秒ぐらいアクセスしただけの「ビジネス書」の欄をタップし、ランキングの上位にあった社員向けの本を数冊選び、ダウンロードした。部屋の無線は早いので、あっという間にダウンロードされる。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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そういえば、紙の本をいつから読んでいないだろう。祖母の実家にはあった気がするから、15年は読んでいない。昔は「紙じゃないと読んだ気がしない」という人も多かったらしいが今なら紙のほうが読んだ気がしないかもしれない。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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ダウンロードされた本の一冊を選択し読もうとするが、頭に入らない。紙の本の読み心地はわからないが、紙でも巻物でもタブレットでも石版でも、読む気のしない本を強引に読もうとしても目がついていかないのは変わらないだろう。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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目覚まし時計がなる。どうやら目が文字の羅列を追っているうちに寝てしまっていたようだ。ビジネス書の内容は全く覚えていない。タブレットに充電ケーブルを刺していたことにほっとしながら、あわてて準備して会社へ向かう。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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よほど急いで準備したらしく、思ったよりも早く駅に着いた。この路線はビジネス街への路線だから、どこもかしこもスーツ姿の男と女。高校時代に教科書で見た2000年代初頭の駅の風景も全く変わっていなかったことを思い出す。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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俺は、ふう、と一息ついてから空いていたベンチに腰掛けると、隣の男に見覚えがある気がした。男はこっちを見ると、うつろな表情で「ああ、お前」と一言言う。その瞬間に思い出した。入社式の時に俺の隣にいた同僚だ。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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気づかなかったのも仕方がないかもしれない。入社式の時に一回会ったきりだが、あの時はうるさいぐらいに元気だったのを覚えている。仕事はもちろん大変だが、明らかにそれだけではない変調であった。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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「元気にしてるか？」俺の呼びかけに一瞬こっちを向くが、何も答えずぼんやりと前を見る。これは重症だ。一応同僚だし放っておくのもアレかと思い話を進める。 「おまえ、どの課にいるんだっけ。」 「…管理課」 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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管理課。提供会の環境設定の監督をしたり、児童の健康管理をしたりする、比較的赤ん坊の近くにいる課だ。花形ではあるが、同時に汚れ仕事とも言える。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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俺は課の志望を出すとき、管理課はやめてほしいと書いた。激務だと聞いていたし、何より大量の赤ん坊に囲まれて過ごすのは勘弁してほしかったからだ。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説

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そしてその管理課に行った同僚の姿を見て、心配する気持ちと同じぐらい、自分の選択は正しかったのだなとほっとしてしまう自分がいた。 http://t.co/YrJFcZ5LEU #角川小説