がんばれまるゆちゃん

タイトル詐欺。
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高峯みやび @sukamelancholy

まるゆ。 「はい、何でしょうか隊長」 お前は、躊躇う事無く殺しが出来るか? 俺の問いにまるゆの表情は固まり、眉はハの字になる。 「その、まるゆ、これでも、軍人……ですから。どうしてもしなきゃいけない時は」 甘い。どうしてもという限定的な状況のみで殺しをすると? 甘すぎる、まるゆ。

2014-01-03 02:28:52
高峯みやび @sukamelancholy

艦娘と深海棲艦との戦争。そしてまるゆもその中に身を投じるというのなら、お前は殺しを躊躇ってはいけない。 「で、でも……無意味に、き、傷つける、なんて」 ……何処までも、お前は甘い。それを美点と呼ぶかもしれないが、敵はお前を躊躇いなく殺すぞ。 「……」 まるゆは黙ってうつむいた。

2014-01-03 02:31:01
高峯みやび @sukamelancholy

……今のうちに、覚悟を決めさせなければ。 この戦争は殺し殺され、そして生きなければならない事を。 「……っ、い、いや、いやです隊長っ、まるゆには、う、撃てませんっ!」 まるゆの目の前には、大破され捕獲された重巡リ級。俺はまるゆの持つリベレーターを渡し命じた。 リ級を殺せと。

2014-01-03 02:33:54
高峯みやび @sukamelancholy

今一度問う。何故まるゆは海へ出ようと決意した? 「そ、それは」 一般人ではなく、軍人として何故海へ出ようとした? 「……それ、は」 答えろ。三式潜航輸送艇。 「……まるゆ、は」 ……。 「まるゆは、他の艦娘さんよりも、弱いです。けど、一人でも、救いたい。救いたいんです」

2014-01-03 02:36:55
高峯みやび @sukamelancholy

救うには、どうすればいい? 「……敵、深海棲艦を……」 敵を? 「……たお、し……」 言い直せ。深海棲艦を、殺すと。 「こ、こ……こ……ころ……う、ううっ」 まるゆの目に、涙が浮かんだ。本来彼女は戦闘ではなく輸送の為に開発された。 だが、現在の海に安全は保障されていない。

2014-01-03 02:39:34
高峯みやび @sukamelancholy

輸送中、深海棲艦と遭遇し、攻撃してきたらどうする? 反撃せず、物資を捨て、おめおめと逃げるか? 「……う、ううっ」 それこそ、本当に存在意義を失くす。戦闘も出来ず輸送も出来ず、ただ、潜るだけか? 何度も何度も、まるゆから涙が零れる。銃を持つ手も、震えていた。

2014-01-03 02:41:28
高峯みやび @sukamelancholy

魚雷を撃つのも、その銃で撃つのも変わりはない。任務の為、果ては国の為に。まるゆの出来る事を、成し遂げるべきではないか? 「……」 撃て。撃つんだ、まるゆ。撃つ事を、殺す事を躊躇うな。躊躇えば、沈むのはまるゆだ。 「う、うう、うわああああああっ!!」 パン。 一度きりの銃声が響く。

2014-01-03 02:43:56
高峯みやび @sukamelancholy

固く目を閉じていたまるゆが、恐る恐る目を開ければ、縛られているリ級は生きていた。震える手で撃った銃弾は外れていた。 「す、すみませ――っ」 心の底からの恐怖で謝るまるゆを制した俺は、そっとまるゆの頭に手を乗せた。 そして、俺は懐から銃を抜きリ級の頭を撃ち抜いた。

2014-01-03 02:46:38
高峯みやび @sukamelancholy

「あ、あ……あっ」 目の前で失われた命。そのあっけなさにまるゆは絶句する。 ……よくやった、まるゆ。この経験はきっとまるゆを生かす。これが戦争だ。これが殺しだ。 大粒の涙がまるゆの頬を濡らす。 俺はまるゆを私室へ送り、艦娘にリ級の処理を命じる。 …………、やれやれ、だ。

2014-01-03 02:49:41
高峯みやび @sukamelancholy

その後、心配していた木曾が言うにはまるゆの私室からは大きな泣き声が聞こえていたという。 ……ああ、わかってるさ。俺がやった事の残酷さぐらい。何も知らない無垢な子供に殺しを強要した事と同じだ。 だが、まるゆは違う。志願し、軍人になった。 必ず通らねばならない道だ。そう信じなければ。

2014-01-03 02:52:47
高峯みやび @sukamelancholy

もしかすると、明日まるゆは軍人を辞めると言うかもしれない。だがそれも、仕方のない事だ。敵に銃を撃てない軍人など、敵にとってはいい的だ。 誰一人として沈ませない。それは、俺が決意した事だ。まるゆも例外ではない。 必ず生還させる。それが俺に出来る事。

2014-01-03 02:55:21
高峯みやび @sukamelancholy

――翌日。 まるゆはいつもと変わらずに集合時間にやってきた。……泣き腫らした目だけを除いて。 俺はまるゆに一度だけ、深く頷いた。 よく決心した。よく耐えた。 そんな思いを込めた頷きに、まるゆも笑顔で頷いた。 ……これで、きっと大丈夫。 まるゆも強く、生きていける筈だと信じて――。

2014-01-03 02:58:43