#完全ノープラン艦これ与太話 【ライク・スティルバース、ライヴ・ティル・リヴァース】 #1~#2
夕張と熊野は仲が悪い。特段反りの合わない性格というわけでもないが、いやむしろ、本質的な部分で反りが合い過ぎているのが原因なのである。口論の切欠は毎回些細なことであり、今回もまたそのたぐいだろう。たとえば夕飯の献立、飛行甲板がぶつかった、ラッコやイルカの生態系とかだ。 02
2014-02-05 20:31:28「もー!ラッコとかイルカをまもるのはシーライフをまもる人の仕事だし!」「まーっ!こういうお下品な考えの艦がいるから!ラッコとかイルカのなんかがあぶないのですわ!」「キーッ八方美人!そんなんだから藤本艦はトップヘビーであぶないのよ!」「なんですってーェ!ゆるさんですわよ!」 03
2014-02-05 20:39:20二隻の口論の原因は多岐にわたれど、たいがいは同じ論点に着地する。ここがそもそも彼女らの不仲の原因でもあるのだ。夕張と熊野は重度の艦艇愛好者であり、信奉する艦艇設計士に対して熱狂的、狂信的ともいえる感情を抱いている。夕張は平賀譲氏を、熊野は藤本喜久雄氏をそれぞれ信奉していた。 04
2014-02-05 20:45:23おなじ趣味をもつ艦同士となれば仲がよいと思われるかもしれないが、度を越えた過剰愛好者にとって同一と認識できる趣味の範囲は極めて狭く、下手に近過ぎる趣味範囲は摩擦のもとになる。ライバル同士であった両氏の信奉者ともなれば尚更であり、彼女らにとって日々の諍いは代理戦争なのだ。 05
2014-02-05 20:48:36「だいたい発想がとっぴすぎるのよ貴女は!ラッコとかイルカとか、もっとこう、伝統を重んじるべきじゃない!ワビサビとか、富士山……そういったものを!」「まあ保守的!頭が固い!これからはグローバルの時代ですのよ!世界のことをもっと考えて……」「そんなのよりまず日本の国防でしょ!」 06
2014-02-05 20:52:36そんな二隻の喧騒を、「すっげーくだらねー」とでも言いたげな目で見つめながら、隣のテーブル席に腰掛けた羽黒がお菓子をばりばりと口に放り込んでいる。「よくやるなあ、あのふたり」「とっても仲がよさそうですね!」相席の阿賀野はいつもどおり楽しそうだ。まあ、確かに仲良いとおもう。 07
2014-02-05 20:58:00「でもそう言いますけどねーっ!わたくし知ってるんですのよ!貴女が引き出しの一番底に、後生大事に仕舞い込んでいるでしょう!?高雄型の写真集!」ALAS!高雄型といえば藤本氏の代表的艦艇だ!「アーッ!ナゼそれを!!」「某匿名艦娘さんからのリークですわ!」「青葉かァーッ!殺す!」 08
2014-02-05 21:08:06「ウッフフ、口ではなんやかんや理屈を言っても……その小さな単装高角砲さんは随分とお正直ですのね。あの悠々たる艦橋……ウフフ、わかりますわ。思い描いただけで三式弾が……!」「ち、ちがうーッ!やめろ!」夕張の12.7cm単装高角砲が天を仰ぐ!信奉も単装砲には勝てないのか!? 09
2014-02-05 21:15:36「まあカワイイ!仰角があがってますわよ?」「ち、ちがう!こ、これは!これは羽黒さんの声聞いて上向いただけだし!」「は?」ナムサン!理不尽な流れ弾が羽黒を襲う!妙高型は平賀氏の設計艦だ!「羽黒さーん!好き!ケッコンして!」夕張が羽黒に飛び掛る!「おいやめろ!くるな!しね!」 10
2014-02-05 21:18:54「あーっ!ずるいメロンさん!羽黒センパイは私とラブラブするんだからーっ!」夕張の凶行を目にした阿賀野が決断的に立ち上がる!「ダメーッ!ダメ!」二隻の間に割って入る!夕張の顔が阿賀野の胸にぶつかる!とてもやわらかいおっぱいだ!「アーッ!こちらも至福!阿賀野型は日本の宝!」 11
2014-02-05 21:21:57「メロンさんキモイ!しね!」夕張を放り投げる!排水量3000tの小柄な船体とはいえ、5500t級に匹敵する大火力兵装を満載した夕張を、軽々と!なんたる日本の巡洋艦設計の究極到達点たる高性能新鋭艦馬力か!夕張の首が720度回転!だが夕張は不死身サイボーグ艦娘なので大丈夫だ! 12
2014-02-05 21:28:12「羽黒センパイは私のものーっ!えーいっ!」「ひゃっ!」阿賀野は大仰なしぐさで羽黒を抱き抱えると、ロマンス映画のクライマックスめいたポーズで顔を抱き寄せ、劇的なキス! 13
2014-02-05 21:36:00ぞくり、と、羽黒の竜骨を恐ろしい感覚が駆け抜けた。ねっとりと挿し込まれた阿賀野の舌が自分の舌に絡まり、彼女の唾液が咽を下る。唾液に混じった強烈な麻酔成分が粘膜から吸収され、羽黒の全身を薬物的興奮が包み込む。阿賀野は艦霊の拒絶反応を抑える為、常時劇薬に全身を浸しているのだ。 14
2014-02-05 21:40:30全身が凍り付くような感覚。悪魔に真綿で首を絞められるような恐怖。羽黒は咄嗟に阿賀野を突き飛ばした。周囲の時間が凍る。静寂が広がる。激しい動悸が動力部を焼く。瞳孔が収束する。全身から汗が噴き出す。足が震え、椅子に尻餅をついた。 15
2014-02-05 21:44:58「あーっ!ふーらーれーたー!!」「よっしゃー!次は私がーっ!」「まーっ!首ヒン曲がってもお元気ですのねーっ!」臀部の衝撃と同時に、羽黒に現実の喧騒が戻ってくる。凍っていたのは自分の時間だけだ。突き飛ばされた阿賀野はおどけて騒ぎ、皆が笑い合う日常風景。平衡感覚はまだ戻らない。 16
2014-02-05 21:48:34今の感覚を、恐怖を理解しているのは自分だけなのだ。否。自分と、少し離れた席で休憩している飛龍だけなのだ。霧島は知ってこそいるが、理解していないだろう。他に知る艦はいない。当の阿賀野さえも。 17
2014-02-05 21:52:37◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
通常、日本の建築物において「4」「9」のつくフロアは建造されない。伝統を重んじる大日本帝国において死や苦しみを暗喩する49は悪魔の数字とされ、忌み嫌われているのだ。それゆえ政府関係者が秘密裏に活動する場合、これら数字を冠した秘密フロアを建造し利用する事がある。なんたる冒涜! 02
2014-02-06 07:06:29即ちこの横須賀鎮守府海軍工廠地下49階もまた、政府が秘密裏に準備したトップシークレットエリアである!否、「だった」のだ。旧大日本帝国海軍が遺したこの超巨大フロア――おそらくは、なんらかの霊的兵器を研究する為に――は現在、工廠長霧島の指揮の下、大型艦建造の要所となっていた。 03
2014-02-06 07:12:06