飛翔
勝手に住み着いてしまった彼らだけど、 剣の腕はみんな確かで、 打ち合う時の楽しさや、抑制しなくてもいい解放感が、たまらなく心地よくて、僕は毎日誰かを誘って、自分を試した。
2014-02-21 19:06:08剣の才を伸ばして身を立てれば、一人の男としてやっていけるんだという気持ちは、 僕が沖田家__姉さんであったり、近藤さんに依存している現われでもあった。
2014-02-21 19:06:31根っこにある薄暗い気持ちを晴らすことができないまま、 勝っていいのか、手加減せねばならないのか、 先生や近藤さんの目を窺いながら剣を振るうことに、 こころが疲れ始めていた頃、 試衛館にまた一人、道場破りがやって来た。
2014-02-21 19:07:34❀˚˟.‧*✿˚˟.‧*❀˚˟.‧*✿˚˟.‧*❀˚˟.‧*✿˚˟.‧*❀˚˟.‧*
木刀の試合なのに、まるで真剣勝負のような一本だった。 一くんが居合いの構えを見せた時、道場が少しどよめいた。 「左利きの剣客だと……?」
2014-02-22 18:10:36初めて出会った異端の剣客。 でも僕は、一くんから立ち上る怒りにも似た雰囲気が気になった。 それが何なのかを、木刀を合わせてみるとすぐに感じることになる。
2014-02-22 18:10:52僕に初太刀をかわされて、一くんは不適な笑みを浮かべた。 不気味ささえ感じる口元、でもその中には、僕への期待が見てとれた。
2014-02-22 18:12:34一撃で仕留めようとする一くんの剣は、隙を生む大技を繰り出してくる。 腕を伸ばしきったあとも、踏み込んだ左足も、 そうと見届けた瞬間には別の場所にある。 平助より俊敏かもしれない。
2014-02-22 18:13:09互いに、大技をやめて小手先の勝負に切り替わると、 練習の打ち合いを実戦にしたような、激しいぶつけ合いになった。 こんな回数を、全力で打ち合ったことなんてない。
2014-02-22 18:13:30僕はとても昂揚していた。 普段は周りが見えなくなることなんてないのに、僕は一くんしか見てなくて、 すごく楽しく、また殺意さえ覚えながら打ち合っていたのに、
2014-02-22 18:13:51一くんは左利きの剣客であることに、負い目を感じていたらしい。 でもそれは道場のしきたりに則ったことであって、 土方さんみたいに型を無視してとにかく勝つことに拘って喧嘩をしてきた人には、 「実戦では面白い」とか「左も右も関係ねえ」になってしまう。
2014-02-22 18:15:39すっごく無口で、無表情で、何を考えているかわからないんだけど、 木刀をあわせる時の一くんは表情豊かだし、 何より手加減は無用、と本気で打ち合う相手ができたことが嬉しかった。
2014-02-22 18:16:27僕は山南さんと打ち合うのを好んでいた。 山南さんの剣は、強さの中に美しい動線があって、流れがつながっている。 流れを乱す斬り込み方を体得したくて、僕は何度も山南さんに挑んだ。
2014-02-22 18:16:42負けた相手にはいつか勝たなければならない。 僕は強い人に打ち負かされるのを恥だとは思わない。 むしろわくわくする。 そういうところは、近藤さんを見習っているんだ。
2014-02-22 18:17:27