飛翔

🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

でも近藤さんと違って、教えを請うことはしない。 頭の中で相手のことを考えて、打ち負かす。 そして実際にその人に勝つまでそれを続ける。

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＿＿僕には、それしかなかったんだ。 そうすることで、自分の存在に意味を持たせようとしていた。

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生きる理由が、なかったから。

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「総司は試衛館になくてはならない男になったなあ」 って、近藤さんがにこにこしながら言ってくれるのは、 本当に嬉しいことだけど、

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僕は試衛館のためじゃなくて、 あの日僕の代わりに泣いてくれた近藤さんを、 僕を認めてくれた人を、誰かが傷つけようとする時に、 一番最初の盾になって守ることが、 僕の生きる道なんだと、決めていた。

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上洛する時も、 初めて人を斬った日も、 迷いなんてなかった。

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ただ近藤さんを守りたい。 僕にはそこにしか、生きる意味を見出せない。

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ある日、 僕は真剣な表情で木刀を振るっている土方さんを、金剛寺の境内裏手の高幡山で見かけた。

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僕は声もかけず、遠目からじっと様子を見ていた。

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商売道具の薬箱をそっちのけで、一心不乱に素振りを続けている。

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天然理心流の木刀は、長さ四尺。柄の長さは一尺ニ寸五分。 持ち応えのある重量も、馴染めばそれが良くなってきて、他では物足りなくなるものだ。

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僕は天然理心流しか知らないし、これ以外極めるつもりもないけど、 他流派を修めて来た人達には、この木刀に慣れることが最初の試練かな。

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新八さんなんかは喜んで、 「腕にくるーっ」って叫びながら素振りをする。

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平助には重いみたいで、 でも根が真面目だから、一から学び直そうっていう姿勢が見て取れる。

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左之さんは大坂で槍をやっていたそうで、 剣術が苦手なのかというとそうでもなく、 相手との距離を測るのにとても長けていて、剣さばきも悪くない。

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山南さんと一くんは黙々と練習を積み重ねる。 山南さんは顔色一つ変えずに、 一くんはたまに眉間に皺を寄せながら、更によく見るとにやにやしていることがある。

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源さんは教えにとても忠実で、教え方も上手で、 僕も入門したての頃、丁寧に教えてもらった。

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土方さんは……、この人は正式な入門は遅かったけど、 近藤さんとはつきあいが古くて、試衛館によく来ていた。

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僕は土方さんの剣術の腕前云々よりも、 人を惹きつける天性の才が、嫌いだった。

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初めて会った人にも、愛想よく話すし、話を合わせるのが上手で、話題に尽きなくて。 調子が良いのではなく、真っ直ぐな物言いをする。

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露骨に嫌な顔をしたりしても、それもまた演出の一部みたいで。 ちょっとした問題が起こると、小賢しい知恵を発揮して、いつの間にか解決させてしまったりしている。

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そんな土方さんを見る近藤さんの目が、いつも楽しそうだから、 僕は余計に、二人が一緒にいるところを見たくなかった。

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木刀を振る腕が振り下ろされてぴたりと止まる。 ぶれることなく制止させるのは、積み重ねの成果だ。

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＿＿土方さんは、剣術が好きなんだな。