ヒフウ・イン・ナイトメア・フロム・リューグー#3

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@nezumi_a

ヒフウ・イン・ナイトメア・フロム・リューグ #3

2014-03-22 15:56:36
@nezumi_a

時は数時間後へ。 「花火大会が中止!?」缶ビールを飲みながら地元ローカルニュースをチェックしていた蓮子が仰天の声をあげた。メリーは言った。「雨で電車が止まったのと、会場付近が増水したのが原因だそうよ」メリーはマッサージチェアに身を沈め蛍光炭酸トマト飲料をちびちびと口に運ぶ。1

2014-03-22 15:58:18
@nezumi_a

クマノイセの花火大会はこの一帯の古くからある祭で、ガイオンから見物にくる客もいるほどの有名な催し物だ。いまは火を使わず電気信号で発破するエコロジーかつハイテク花火が使われていて、爆発した時の火薬の匂いも職人の技によって、江戸時代の花火のそれを忠実に再現している。2

2014-03-22 16:01:16
@nezumi_a

テック時代の花火職人は、最高のタイミングで炸裂させる事に技術を磨く。ゆえに花火の打ち上げ自体は雨の影響を受けないが、破裂した火の花はそうもいかない。また、観客がいなければ祭は開催できない。花火玉は有限かつ高価だからだ。「延期であって中止ではないから」「明日は晴れるかしら……」2

2014-03-22 16:03:52
@nezumi_a

メリーは音の方を向く。カチグミホテルの方角からは花火の音が聞こえる。ホテル側が用意した催し物だろう。一方二人が泊まる宿には他に娯楽設備が無い。手持ちに読み掛けの小説はあるが、蓮子が居るのに読書に耽るのは悪い。そんな事を気兼ねする間柄ではないが、この場合読書はNGだ。3

2014-03-22 16:07:33
@nezumi_a

メリーは嘆息、「この雨じゃ、出かけられないしね」 相方のグチに苦笑する蓮子。チャブの上には数枚のプリントアウトが置かれている。新聞の切り抜きと写真だ。見出しは『続発する海難事故!漁業組合の緊急対策会議か』とあり、上空から沈没した漁船の破片が波間に散らばっている写真。4

2014-03-22 16:12:56
@nezumi_a

他にも日付の違う似たような漁船事故の記事が数枚ある。写真は回収された船の残骸や、沈没した船の水中撮影。砕かれ、荒波に無残に引き裂かれた船体は、ただの事故とは到底思えない。蓮子はその中の一枚を手に取る。画像面は暗く、夜の撮影であると判る。人工物もない空と海だけの写真。5

2014-03-22 16:16:27
@nezumi_a

空と海?それだけではない。黒い海は明け方らしく、僅かだが紺色の陰影を見せる。その中に浮かぶ人影らしき何か。「さてさて、明日こそは人魚伝説とご対面出来るのかしら?」夜に活動しないとなれば寝るだけだ。二人はそう割り切ると部屋の電気を消した。6

2014-03-22 16:18:30
@nezumi_a

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2014-03-22 16:19:06
@nezumi_a

メリーは気がつくと夜の海岸に居た。「蓮子?」応答はない。一人だ。周囲を見回すと砂浜と暗い海。天頂からは金色の光が冷たく、柔らかく降り注いでいる。メリーは自分が寝ている間に宿から出た可能性を否定しない。現実、夢幻、そのどちらにも夢遊の癖がある事を自覚しているのだ。8

2014-03-22 16:21:23
@nezumi_a

砂浜はどこまでも続き果てが見えない。昼間の海岸は人工的に作られた砂浜、これほどの広がりは無かった。現実味のない光景。メリーは少し歩いてから雨が降っていない事に気がついた。空を見上げる。有害な太陽光線を遮るシェードがない。その意味をゆっくりと咀嚼、そして顔を顰めた。9

2014-03-22 16:25:21
@nezumi_a

「月、いいえ、あれは何?」見上げる遥か上空には、月ではなく金の光を放つ何かが浮かんでいる。点のように小さく金色に輝く星にしか見えないが、意識の焦点を合わせるとズームアップして見える。それは黄金の立方体。月は無く「それ」が闇の世界を照らしている。10

2014-03-22 16:27:25
@nezumi_a

几帳面で、金属質の冷たい輝き。馴染みのある禍々しい夜の気配。「つまりこれは夢」気付いてしまえばどうという事はない。マエリベリー・ハーンは、その目にこの世の物とは異なるモノを映す。意識と肉体の剥離を感じ、それを受け入れば、夢の間に異世界を旅する程度の能力が授けられているのだ。11

2014-03-22 16:35:38
@nezumi_a

時には紅い館。時には黄泉の桜。またある時は永遠の潜む竹林。今が月の無い海辺でも、そういうものなのだと受け入れられる素養がメリーにはあった。視界の端に緑のノイズが弾けた。海水ではない何かが海を満たしているのだ。しかしメリーは慌てない。不敵な視線を周囲に巡らせ、そのまま歩き出す。12

2014-03-22 16:37:40
@nezumi_a

「前よりもこういうのが見えるようになったけど、これは初めて見るケースね」蓮子は異世界のビジョンを夢の中で見る光景だと思っているが、メリーにとっては紛れもない現実だ。恐らくこの空間で怪我をすれば、目を覚ました後でも傷が残っている事だろう。13

2014-03-22 16:40:31
@nezumi_a

肉体が目覚めれば夢が覚め、この世界と切り離されるおそれがある、初見の世界なので出来るだけ見て回りたい。メリーは警戒しつつ進んだ。砂浜はどれだけ進んでも景色が変わらず、時間の感覚もおかしかった。遥か彼方にキョート山脈のように巨大な招き猫が置いてあり、その麓には朱色の鳥居。14

2014-03-22 16:42:46
@nezumi_a

チリチリと目の奥が瞬く。脳と神経に負荷がかかっているのを感じる。 しかし慣れた風でメリーは歩き続ける。数時間は歩いている感覚だが、空腹や疲労もない。これも不思議な感覚だ。やがて波打ち際に何か落ちているのを発見した。今は相談する相手もいない。メリーは一層の警戒をしつつ近付く。15

2014-03-22 16:47:16
@nezumi_a

「……これは?」砂浜に人の形をしたグリーンのノイズが蟠っている。メリーはオカルト仲間の間に語り継がれる『ピンク色の世界渡航者』を思い浮かべたが、その予想をすぐに打ち消した。倒れている塊は確かに人の形をしているが、0と1の不思議なノイズの向こうに見える姿はピンク色ではない。16

2014-03-22 16:49:46
@nezumi_a

周囲には誰もおらず、天には黄金立方体の冷たい輝き。足下には故障したUNIXモニターの様にぱちぱちと爆ぜている影。意を決し声をかける。「もしもし」危険存在であれば次の瞬間にも命が危ない可能性もある。だが、一人であろうとも秘封倶楽部は境界暴きに挑むのだ。17

2014-03-22 16:51:42
@nezumi_a

「……ッ」声に反応したのか、影が身じろぎする。起きあがろうとするが、苦しそうに身体を震わせ、「あっ」波に落ちる。01の飛沫が跳ねた。「あの、ムリはしない方が」自分が声を掛けたことで苦しませている気がしたメリーは相手を制止する。「……モ」俯せのまま、相手が何事かを発した。18

2014-03-22 16:55:33
@nezumi_a

「なんです?大丈夫ですか?」「……ーモ、……、……です」苦しげに言葉を紡ぐ人影が起きあがった。グリーンの蛍光ノイズを纏わりつかせたそれは、確かに人の形をしている。ノイズの向こうに暗緑色の姿が見える。顔は判別できないが、その瞳はまるで雷雲の様に金色の光が瞬いている 19

2014-03-22 16:57:50
@nezumi_a

直視したメリーは意識で息を呑んだ。平静を保ち、対話を試みる。「私はマエリベリー、貴方はどうして倒れていたの?」不用意な名乗りは危険である事をもちろん理解している。しかし異世界では常識に囚われる事の方が危険である場合がある。メリーは己の経験からそれを知っている。20

2014-03-22 17:00:58
@nezumi_a

『杖を持っていれば実際転ばない』という先人の言葉があるが、蛮勇を奮うべき時はある。「……戻せ」「え?」「戻せ……」「何か、無くしたんですか……?」マズイ。メリーのニューロンを危険信号が掛け。会話の成立しない相手は危険だ。「戻せ!」突如相手が掴みかかってきた!「アイエエエエ!」21

2014-03-22 17:03:52
@nezumi_a

「戻せ、戻せ、戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せ戻せもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもどせもど」 メリーの両肩を掴み、呪詛めいた言葉を繰り返す!01のノイズが相手の腕からメリーの肩へと伝播してくる!「ンアーッ!」22

2014-03-22 17:06:04
@nezumi_a

「001010001010111010101010101010!」23

2014-03-22 17:07:04