FF6二次創作【鎮魂のアリア】その1

これまで挙げたFF6二次創作(http://togetter.com/li/540034)⇒(http://togetter.com/li/704351)のうち、ピクシブにおいて文字制限のせいで数回に渡り分けねばならなくなった長編です。これはその第一回に分けてあります。続き⇒http://togetter.com/li/709810
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みなみ @minarudhia

ス……コ………ト……

2014-08-17 01:28:36
みなみ @minarudhia

「……スコット?」 「え?」 セリスの呟きにマッシュが顔を上げる。 その時。 二人は目の前の死体に些細な違和感を感じた。 そうであってはならないはずのものが、“そうである”ことに気づく。

2014-08-17 01:29:06
みなみ @minarudhia

―――荘厳に鳴り響くオペラの音楽に合わせるかのように、“それ”はぴくりと動いた。 ぴくり。 ぴくり。 び く り

2014-08-17 01:30:45
みなみ @minarudhia

やがて、その動きが大きくなるにつれ、二人の耳に半固形物が床に落ちた時のような音が響く。 それは、頭の中身がこぼれ落ちる音。 ぼろ… ぼろ……ぼどっ ぼどぼどっ…どぼっ どぼっ

2014-08-17 01:32:09
みなみ @minarudhia

男の身じろぎと共にその音も大きくなる。 その異変に他の三人も気づいた。 真っ先に気づいて振り向いたリルムが、血の気も失せ口を手で押さえる。 セッツァーがかすれた声で呟き、首を振った。 「おい……マジかよ…!」

2014-08-17 01:33:45
みなみ @minarudhia

オペラの荘厳な調べと歌声に合わせるかのように、熟したザクロのような頭から血と内臓物を溢れかえらせた男がのっそりと立ちあがった。 彼の両目は白眼を剥き、もはや焦点が合っていない。 喉に血膿でも落ちたのか色を失った唇は、発音を試みるたび血の泡を吹いた。 「ぶぶ、ぶ・・・」

2014-08-17 01:35:17
みなみ @minarudhia

その様子を見たアウザーを除く四人の脳裏に、一つの言葉が浮かび上がる。 ―――ゾンビ化。 一部のアンデッドから受ける事の多い異常状態であり、死体も同然でありながら敵味方問わず襲いかかる姿は狂気の一言。

2014-08-17 01:36:58
みなみ @minarudhia

かつて四人もニ、三年前においての戦いでゾンビ化を受けたり見たりしたことは度々あった。 ――やがて、男の唇は、先程セリスが耳にしたものと同じく、恐ろしいまでの執念深さと呪怨を込めた声を繰り返しだした。 「スコ……ス…ッ……ト…」

2014-08-17 01:38:37
みなみ @minarudhia

男は手近にいたマッシュにもセリスにも襲いかかろうとはせず、覚束ない足取りで大扉の方へと客席の間を歩き始めた。 ――頭を割られた血まみれの男が歩きだすのに、もう気付かぬ者はいない。

2014-08-17 01:40:40
みなみ @minarudhia

後部座席の客が真っ先にこれに気づいて悲鳴をあげ、それに気付いた前部座席の客の何人かを皮切りに舞台に近い客席まで恐怖と混乱の波紋が広がっていく。 ついに、誰かが叫んだ。 「人殺し!!」

2014-08-17 01:41:01
みなみ @minarudhia

――開演中のオペラ座に突如起きた殺人事件から一か月が経ち、落ち着きを取り戻しつつあった時期にとって、これ以上にない非常事態宣言。 半狂乱に陥った観客が一斉に立ち上がり、大扉に向かってなだれ込んでいく。 五人も迂闊に動くことができず、人の雪崩を避けるように席の間を移動する。

2014-08-17 01:42:44
みなみ @minarudhia

舞台に目をやれば、客席の混乱が舞台にも響いたのか演劇は止まっていた。 スタッフや俳優の中には、状況がわからず立ちすくむ者、血相を変えてうろたえる者…。 皆一様に何が起こったかを把握したようで、一人が舞台裏へと走っていく。 その頃には、すでに客席に残っている者は誰もいなかった。

2014-08-17 01:44:23
みなみ @minarudhia

「私達も早くここを出ましょう。ダンチョーへの報告が遅れてしまった今行っても、余計に混乱させてしまうかもしれないわ」 「そうだな…」 先立ってマッシュが誰もいなくなった大扉の前に立つ。 後にセリス、セッツァー、アウザーとリルムが続く。

2014-08-17 01:46:10
みなみ @minarudhia

大扉の前まで来た時、マッシュはその床の一部の、人間の体の大きさと同じ面積が赤黒く濡れていることに気づいた。 それと共に赤黒い何かが点々と飛び散っており、エントランスホールまで続いていることも。 それが何であるかに気づき、マッシュはここで起きたことを理解してしまった。

2014-08-17 01:47:51
みなみ @minarudhia

――想像する。血と飛び散った脳にまみれて歩く男を。その背後から半狂乱に狩られた観客達がなだれ込んでくるのを。幸か不幸か、観客達の目に彼の姿は映らない。

2014-08-17 01:49:13
みなみ @minarudhia

客達に突き飛ばされ、倒れ込む男。彼を観客達は容赦なく何度も踏みつける。何度も、何度も、何度も。観客達がようやく去った後の彼はもはや死体とはいえない惨状となっているだろう。

2014-08-17 01:50:39
みなみ @minarudhia

それでも男は歩いたのだ。おそらく、あの執念深い強い恨みのこもった言葉を口にしながら・・・ マッシュは全身に強い怖気を感じ、眉根を顰めた。 惨状の全てを、目の前の血だまりが伝えてくれたことに対して。

2014-08-17 01:52:28
みなみ @minarudhia

「どうしたの?」 眉をひそめるマッシュの後ろから尋ねるセリス。 彼女を始めとする後ろの者は、マッシュの巨体に遮られて悲惨な事になっている床が目に入らない。 「いや、なんでもない。早く表に出るぞ」 「一体何があった!!」 「ロック!」

2014-08-17 01:54:21
みなみ @minarudhia

大扉を次々に抜けエントランスホールへ出る五人。 そこへ左脇の階段を下ってくるトレジャーハンターに、セリスは胸を撫で下ろした。

2014-08-17 01:54:52
みなみ @minarudhia

「今悲鳴が聞こえたんだが一体何があったんだ?」 「説明は後だ。今は早くここを離れるぞ」 「待った、ダンチョーには話はしたのか?」 「……生憎だけど、その余裕はなくなってしまったわ。それより早くここから出ましょう!」

2014-08-17 01:56:30
みなみ @minarudhia

オペラ座の前まで出た六人は、そこが混乱の坩堝と化していることにすぐ気付いた。 紳士のわめき声に淑女のすすり泣く声。 そして、それ以上に喧しく複数の犬の吠える声が木霊していた。 「一体何かしら…?」 そう呟くセリスの横でロックは、隣で交わされる会話を聞きとっていた。

2014-08-17 01:57:51
みなみ @minarudhia

―――何なんだ、あの血まみれの男は!? ―――来賓の一人の御者が連れていた狩猟用の犬達が狂ったように襲いかかっていって… ―――…いくらなんでもあれでは助かるまい。八つ裂きにされてしまっては、もう…

2014-08-17 01:59:29
みなみ @minarudhia

「ジドールへはここを行く時と同じ道を使うしかないのか?」 「少なくとも、わしが行き来をするため使っていた道はあそこしかない。じゃが…こちらの方がこの有様なのを見られれば、捕まるじゃろうな」 マッシュの方を振り返りながらアウザーが悩んでいる。

2014-08-17 02:00:52
みなみ @minarudhia

そうでなくても、マッシュはフィガロ国王の双子の弟、現在こそその身分を捨てていても王族の血筋の一人だ。 彼が殺人の疑いをかけられ、身分が明かされようものならフィガロとジドールの国交関係にも影響が及びかねない。

2014-08-17 02:02:23
みなみ @minarudhia

「腐ってもこのキンニク男は王子様だもんね…このままここに置いておくってわけにもいかないし」 「とんだことになっちまったぜ」 「頼むから置いてくのはよしてくれ」

2014-08-17 02:03:57
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