FF6二次創作【鎮魂のアリア】その1
- minarudhia
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マッシュ以外の五人の口から溜息が吐き出された時、小さく声が聞こえた。 はっきりと六人に向かってかけられたその声は女性のものだ。 「―――皆さん!そちらの皆さん!」
2014-08-17 02:05:21一同が振り向くとそこに立っていたのは、ブラウンのボディスと白いスカート、白いケープを纏った、黒髪銀目と長身の若い女だった。 マッシュが見覚えのあるその女を見て思わず口を聞く。 「あ、あんたは、昨日の…」
2014-08-17 02:06:53「ジドールへ続く抜け道なら私が案内します。あまり人が使うことのない道ですが、人目を避けてジドールに戻りたいのであれば私についてきて!」 若い女は言いながら六人を手招きする。 彼女の背後には薄暗い林が広がっていた。
2014-08-17 02:08:58「……ついていって大丈夫なのかしら…?」 見知らぬ相手からの、唐突な道の提案を持ちかけられた者として当然な反応をセリスは示す。 しかし、ここで躊躇していてもいずれ危うい状況になる事は避けられない。 ロックがアウザーの方を向き直った。
2014-08-17 02:10:45「アウザーさん」 「……致し方あるまい。お嬢さん、お願いできますかな」 アウザーの問いに女はうなずく。 かくして六人は、不思議な雰囲気をその身に漂わせた女の後を続いて走ることとなった。
2014-08-17 02:11:21獣道を女は縫うように進んでいく。 ほのかに白く輝いているかのように闇に浮かびあがったその後ろ姿を追いかけながら――― 「死体が立ち上がった!?」 マッシュ達から事情を聞いたロックが思わず声を上げた。 「じゃあさっきの悲鳴と騒ぎはそのためか!…これは厄介な話だな…」
2014-08-17 02:13:01「マッシュの事を通報されないかどうか心配なんだけど…ロックの方は何かあったの?」 「ウラカタさんがあいつから一発貰ったって事と…、この殺しが計画的なものだってのが濃厚なのがわかったぜ」 「計画的!?」 ロックは自分が見たもの、そして自分がしたことをセリス達に話した。
2014-08-17 02:14:37「俺が思うに、一か月前に起こったっていう殺人事件もおそらく同じ奴の仕業だ。殺され方は違うが、ここまで用意周到なのに加えて一か月も犯人が見つかっていない。その上、同じオペラ座の公演中を狙うときてる。ただ、あくまで俺の推測でしかないから、後でダンチョーに詳しい話を聞きに行こう」
2014-08-17 02:15:35「少なくとも俺達はあいつの顔はともかくなりは見てる。それも一致したら、お偉いさん方に任せようか」 セッツァーが応えながら、前方を向いてぼそりと呟く。 「……まるで夢のようだな」
2014-08-17 02:17:06ぼんやりと闇の中に浮かぶ白い影を見ている間に、周囲の闇が開けた。 足を止める女に合わせて六人も足を止め周囲を見回すと、いつの間にか見慣れたジドールの町並みがそこにあった。 「ここならもう大丈夫。あなたの家までほんの数mの所です、アウザーさん」
2014-08-17 02:19:12いつ、こんな場所まで辿りついたのだろう。 周囲を見回す六人から女はゆっくり離れていく。 空に顔を出したばかりの月が辺りを照らし、その下で女は輝いているように見えた。
2014-08-17 02:20:31「私はここで失礼します。しがない旅の身で高貴な身分の家に軽々しく踏み入る訳には参りません」 「遠慮せずとも是非泊っていただきたいのじゃが」 アウザーの勧めに女は静かに首を横に振った。 そして、彼女はマッシュの方へ向いた。
2014-08-17 02:22:35「…また、お会いしたわね」 「あんたは」 「またお会いしたのも何かのご縁。また何かのご縁で会えたなら、ゆっくりお話ししたい…」 言いながら女は背を向けた。 他に声をかける者は一人もいない。 月の光に溶けこむように女の姿は消えていった。
2014-08-17 02:23:53「いや、昨日の朝にぶつかっただけだ。俺の顔が彼女の知ってる人に似てたらしいんだが、聞こうとしたらどこかへ行ってしまったんだ」 「ひょっとして脈ありなんじゃないか?また会ってお話ししたいとよ」 「またその話か、引っ張るなよ」 きらり 「ん?」
2014-08-17 02:27:30街道の一点、女が立っていた場所に何かが光っている。 ロックがそれを拾い上げると、親指の爪ほどの大きさの白銀に輝くかけらのようなものだった。 軽く持つ指でひっくり返してみると、光に反射して真珠色の光沢が浮かび上がる。 「何、それ?」 セリスとリルムがロックの左右から顔を寄せて見る。
2014-08-17 02:30:30その夜は六人とも、早いうちに就寝することに決めた。 服を世話係に渡し、血やその他の体液で濡れた体と髪を洗い流してマッシュが安堵する。 「ダンチョーの元へ一度行って事情を話さないとね」 「そうだな」 ベッドに入りながら、ロックとセリスはそう言葉を交わし合った。
2014-08-17 02:34:10夢うつつに、何かが頭の中に入り込んでくる感覚。 それは、この世のものとは思えない程に美しいソプラノ。 その歌が紡ぐ言葉は聴く者の知識にはあり得ざる言葉であり、その音程は到底人の出せるものではない。 その歌は悲しげで、厳かで、慈愛に満ちた響きを以って魂を揺さぶり安寧へ導いていく…。
2014-08-17 02:35:34「―――――ん」 かすかに聞こえる小鳥のさえずりにまぶたを開く。 けだるげにベッドから半裸の上体を起こし、セッツァーは窓から差し込む日差しを眺めた。 「……あの歌……」
2014-08-17 02:37:28オペラで聴いたものと同じソプラノ。 どうやって聴衆の耳に入り込んできたものか、そもそも歌い手が誰なのかもわからない名状しがたき響き。 「…くそ、俺も疲れてるのか?」 毒づきながら時計を見ると、時計は朝の4時を指していた。
2014-08-17 02:38:46