FF6二次創作【鎮魂のアリア】その1
- minarudhia
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「・・・・・・!!」 ロックが腰を上げるより先に、男がマチェットを無造作に引きぬく。 座っていた男はドクドクと頭から体液を流しながら、前席の背もたれに倒れかかり、二三度痙攣した後動かなくなった。
2014-08-17 00:52:30「な、なんだ一体!?」 それまでソプラノに陶酔していたアウザーが、強く握りしめられたリルムの手の感触で我に返り、目の前の惨劇に固まる。 マチェットの男は踵を返すと大扉へと向かっていく。 そして、大扉の向こうへ消える前に、ロック達の方を振り返った。
2014-08-17 00:54:21「待て!」 「ロック!」 「どうする気だ!?」 追って大扉へと駆け上がっていこうとするロックをセッツァーとセリスが引きとめた。 「俺は今の男を追いかける!セリスとセッツァーはダンチョーにこの事を知らせてくれ!!」 「一人で行くつもりなら俺も一緒に――」
2014-08-17 00:56:06「ダメよ、マッシュ!血まみれのあなたが動いたら周囲が混乱するわ!?」 慌ててマッシュを引きとめるセリス。 「サンキュー、マッシュ。ただ、セリスの言った通りだからお前だけは絶対に動くなよ!」 改めてマッシュの様相を見直し、苦笑を浮かべるとロックは大扉の向こうへと消えていった。
2014-08-17 00:56:24――――オペラはなおも続いている。 まるでこの惨劇は最初からなかったかのように。 惨劇が起きた直後はもう、あのソプラノも聴こえない。 代わりに女優の口から響くソプラノが舞台と客席を満たしていた。
2014-08-17 00:58:03六人以外名も知らない男の死を知る者はなく、舞台は中盤へと物語のページを繰りだしていく。 しかし、五人と今しがた出ていったロックにとって、もはやどうでもいいことだった。 …なにより。
2014-08-17 00:59:15六人の耳に入ってきた歌―――先程のソプラノに比べれば、女優のソプラノの優雅な響きは霞むようだった。 もはや月とすっぽん。 それほどにあの歌声は、あまりにも、美しかった。
2014-08-17 01:00:36大扉を抜け、周囲を見回したロック。 視界の端でちらりと男の姿を捉えると、大扉の両脇にあるうち向かって左階段へと登りだしているところだった。 階段を上がった先には二階目の客席がある。
2014-08-17 01:02:33かつて女優をさらおうとしたセッツァーをおびき寄せるため、セリスを女優に仕立て上げた舞台を観るためロック達が着いた席のある場所だ。 二階目の席にも客がぽつりぽつりと座っており、足早に通り過ぎていく男に気を配る者などいない。 「待て!」
2014-08-17 01:04:25ロックがすぐさま駆け足でその後を追うように走った。 走りながら、懐に腕を差し込み、しばらくまさぐって取りだしたのはスーパーボール。 もう片手に短剣を抜くと、それを構えながら男の後を追う。 男が向かう先には、舞台の照明等の小道具や細工を担当するウラカタのいる部屋があるはずだった。
2014-08-17 01:06:27「ぐぅ…」 「ウラカタさん!」 部屋に入ってすぐ、頭を打たれたらしく倒れている男をロックは支え起こした。 「大丈夫ですか?」 「あ、あなたは確か、…うぅ」 「無理をしないでください。何があったんですか?」
2014-08-17 01:08:06ロックが尋ねると、ウラカタが窓を指差した。 「……男、が」 「…窓に逃げたんですね。後は、俺がなんとかします。しばらく安静にして下さい」 ウラカタを気遣いながら壁にその背を横たえさせ、ロックは窓へと飛び出した。 窓から樹を伝って降り、周囲を見渡すと人影が走り去るのが見えた。
2014-08-17 01:10:23「おい、待てよ!逃がさ―――…ん?」 走り出そうとしたロックは、男を眼で追いながらもある事に気づき足を止めた。 薄暗くなり、視界の悪くなった中、男は一直線に林に向かって走っていき闇に呑みこまれた。 …ように、見えた。 (…車…?)
2014-08-17 01:12:00夜闇に慣れたロックの目は、男がチョコボの牽く車に乗り込んだという事をかろうじて認識させてくれた。 車は黒に近いこげ茶で塗り潰され、チョコボにも黒い布がかぶせられ、固定されている。 闇に溶けこみ易い工夫が施されているのだ。
2014-08-17 01:13:41(これは…計画的なものだったってことか。するとさっきやられた男は、自分が殺されるのを知っててここに逃げ込んだ?) 思いを巡らせている間に車が走り出す。 車とロックの距離は約100m程。いくら俊足なロックでも、今から走っては間に合わない。
2014-08-17 01:15:15「そうは問屋がおろさねえよ!!」 片手に持っていたスーパーボールを、叩きつけるように車へ投げつけた。 スーパーボールは弾力で跳ね返りながら、車へと向かって跳んでいく。 ロックが耳をそばだてると、まもなく何かが砕けるような音がかすかに聞こえた。
2014-08-17 01:16:55そして車体が大きく揺らぎ、車はぎしぎしと耳障りな音を立てながら去っていった。 「これで何かあった時、追跡しやすくなる。…ダンチョーに報告しないと」 そう呟いた時、ロックの耳に誰かの悲鳴が響いた。 ―――――――人殺し!!
2014-08-17 01:18:39――ロックが大扉へ消えてまもない頃。 残された五人は、無惨な死体をどうしようかと考えあぐねていた。 このまま放置していてはいずれ観客が気づくのも時間の問題である。 「それなら、俺が改めて死んでいるかどうか確かめる」 マッシュが言いだしたのを聞いて全員が訝しげに彼の方を向く。
2014-08-17 01:20:39「確かめるって、頭こんなふうにされたんじゃ生きてる方がおかしいよ」 リルムが頭を振りながら、セリスの横で顔を伏せていた。 強気な彼女でもさすがに人の死体を見るのは嫌なようだ。
2014-08-17 01:22:13「…というより、お前さん、死体を診るって医者でもなんかやってんのか?とてもそうには見えねえよ。…てか、今まで見たことないんだが」 「俺達モンク僧は武術を学ぶ一環で、医術の手習いも身につける必要があるんだ。人が死んでるかどうかの確認くらいならできる」
2014-08-17 01:23:52セッツァーの呆れた物言いに訳なくマッシュはうなずいた。 「…なら、マッシュ、死体とあなたが周りに見えないように配慮するわ。…そこにあるコートを借りるわね」 セリスは立ちあがり、男の座っていた座席の背もたれにかけられているコートに手を伸ばした。
2014-08-17 01:25:33手短に済ませるため、マッシュが死体に近寄り、セリスもそれに合わせて動く。 三人が少し席を空けて遠のき、そしてマッシュが死体のそばに屈みこんで手を伸ばした時。 セリスの耳が何かを拾い上げた。 それは、声―――
2014-08-17 01:27:06しかし、ソプラノのような歌声の類ではなく、くぐもったうめき声のようなものだった。 その声は、確かな意思と意味のある言葉を、かすれるように繰り返す。 その声はこれ以上にない程強い呪怨と執念をこめて、こう呟く。
2014-08-17 01:28:22