FF6二次創作【鎮魂のアリア】その1
- minarudhia
- 3049
- 0
- 0
- 0
「お前は王様と違って自由の身なんだ。どこに好きな女作ろうが兄貴より自由じゃないか。相変わらず修行だとか兄貴だとか、生真面目な奴だな」 「ほっとけ!」 「で、結局行くのか?」
2014-08-17 00:13:19「ここの所しばらくは刺激がなくご無沙汰だからな…女優目当てで行くか」 「刺激求めるのは結構だと思うけどさ、マリアはさらうなよ」 「チケット持って入る以上そんなことはしねぇって。むしろあそこで嫁さん探すって手もあるな?マッシュ」 「それこそ余計なお世話だって、遠慮被る!!」
2014-08-17 00:16:10翌日になり、時刻は夕方6時すぎ。 この間、ジドールで時間を潰していたロック・セリス・リルム・マッシュ・セッツァー、そしてアウザーを含めた六人はオペラ座へと到着した。
2014-08-17 00:17:36オペラ座はそこそこの賑わいを催しているようで、観客たる紳士や貴婦人が談笑を交わしながら席についていた。 エントランスホールに入ったところでセリスが聞いた。 「そういえば、この演目って、開演開始した日にちがかなり最近のものなのね」 「ああ、その事じゃがの…」
2014-08-17 00:19:36アウザーが声のトーンを低くして話しだす。 アウザーの話によれば、一か月前にオペラ座は一時閉鎖に追い込まれる事態に陥ったという。 「閉鎖!?」 「…開演中に殺人があったそうなのじゃ。わしも人伝てで聞いた話なので詳細までは知らんのだが」
2014-08-17 00:21:33「殺人?」 「目撃者の話によるとな。前の席に座っていた被害者が、いきなり目の前でナイフで刺されて事切れたそうなのだが…肝心の犯人の顔をよく覚えて居らんらしい。男らしいということはわかっておるんじゃが…」
2014-08-17 00:23:45「ダンチョーもよく胃がもったなあ。…それで、犯人は今も見つからないのか」 「うむ」 開演開始まで後少し。 指定された席に次々と客が座っていく。
2014-08-17 00:24:21中央の段、一つ段を離れて前の席にセッツアーとマッシュ、そして後部の客席には残りの四人がついた。 通路に近い席からロック、セリス、リルム、アウザーの順である。 客席は多くの客人で隙間なく埋まり、後列にはぽつりぽつりと数人が座るのみ。
2014-08-17 00:26:51そんな中、一人の男性が慌ただしく大扉を抜けて、マッシュの隣りの空席のすぐ後ろにある席についた。 不審挙動な男の慌ただしさに近くにいたロックは不審げに思うも、視界がふっと沈むように暗くなる。 ――――オペラの開演だ。
2014-08-17 00:28:40オペラは開幕から物語を順調に進めていく。 俳優はマリア以外見慣れない人選だが、どれも“豪華な”人選だとアウザーは言っていた。 しかし、どうしたことだろう。 六人の耳には先程から蠱惑的なソプラノが響いている。 そのためかわからない。
2014-08-17 00:31:19音楽も、台詞も、俳優の立ち回りも、オペラにおいて演出されてゆく何もかもが、頭の中に入ってこない。 ―――素晴らしい内容の、オペラであるはずの、内容が頭をすり抜けていくのを感じる。 まるで、今耳に聞こえるソプラノ以外の情報を、脳が受け入れまいと拒絶しているかのように。
2014-08-17 00:33:21ソプラノは、悲しげでありながら慈悲に満ち、厳かな響きと共に聴衆を魅了していく。 しかし、かすかな違和感をセリスは覚えた。 (……待って…) 改めて、歌声をよく聴いてみる。 その歌声は、目の前で歌う女優の口の動きとはまるで重ならない。 そして、その響きは……
2014-08-17 00:34:57「待って…この歌声…」 「ん?どうかしたのか?」 知りえなかった事実に戦慄し、震えるセリスにやっと気付いたロックが振り向く。 「…今聞こえる歌声、誰のものなの…?」 「え?」 瞬きをするロックをよそに、そして前々席に座る二人へ呼びかけた。
2014-08-17 00:36:39「マッシュ、セッツァー!」 「何だ?」 「おいおい、どうした?オペラは静かに観るものだぞ」 「そうだけど…おかしいわよ!二人とも、この歌声をよく聴いて…聞こえるんでしょ!?」 「綺麗な歌声…だよな」
2014-08-17 00:38:15呑気に構えるマッシュとは逆に、セリス同様違和感を感じたらしくセッツァーの顔色も変わる。 「おい……なんだ、この歌」 「何言ってるの、二人とも。リルムわかんないよ」
2014-08-17 00:39:54セリスが声に感じるものを伝える。 今耳を支配しつつある蠱惑的なソプラノは目の前の女優のものではないこと。 人間が出すことの極めて難解な音程・音階が声に含まれていること。 そして、その声が紡ぐ歌は、セリス達が知りえるどの言葉でもない、異質な言葉で紡がれていること…
2014-08-17 00:41:37五人が大扉の方を振り向くと、そこには一人の男が立っていた。 柳の枝という譬えが相応しい細身の体に纏った身なりはあまり良いものとはいえない。 頭に古びた布を巻きつけているため、顔も表情も見えなかった。 しかし、マッシュはその布の奥に光る眼を見て生理的な嫌悪感を感じる。
2014-08-17 00:44:34爬虫類のような冷たさと気持ち悪さの伴う眼。 人を殺めることに一切の躊躇を催さぬ世界に生きてきた人間の眼。 それは、マッシュがよく知るかつての仲間だった暗殺者の持っていた、刃の切っ先を思わせる冷たさとは趣きの異なるものだった。
2014-08-17 00:46:15その眼は、客席全体に視線を巡らすと、ロック達の座っている方へ止まった。 大扉からゆっくりとロック達の方へと歩み寄って来た。 (ちょっと!こっちにくるよ!?) リルムが焦りを感じて小声でセリスをつつく。 (わかってるけど、様子を見ましょう)
2014-08-17 00:47:55そう交わされる囀りを闖入者は意に介さない。 つかつかと距離を詰め、そしてロック達とマッシュ達の間に座った男の後ろへとやってきた。 男も後ろの気配に気づいたのだろう。 男が振り向こうとした刹那、闖入者の腕が流れるように動く。 その手に握られているものが鈍い光を放った――
2014-08-17 00:49:40金属が骨肉を割る鈍い音と共に、飛び散る脳漿と肉片。 不運にも前方にいるマッシュがそれを浴び凍りついた。 大扉から入って来た男の手は、大ぶりのマチェットを握っている。 そしてその刃は…座っていた男の頭に半分ほどめり込んでいた。
2014-08-17 00:50:27