rsbs日誌#28

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　島風の威勢のよい返事に、提督は頷いた。「ならばお主に、ヘルメスの翼を授けてやろう。じゃがな島風。努々忘れるではないぞ。扱いを間違えればお主は必ず痛い目をみるのじゃから」「ずっと、覚えとくからっ…ずっと、走っていたいもんっ…」「あい判った。今は休め。泣き止むがよい」

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#rsbs日誌　今暫くは休む様に、と島風を宥めあやして帰らせてから、提督は「ふぅ」と溜め息を溢した。「ええの提督？あんな約束したりして」「わしは魔女じゃからな。泣き付かれてしもうたなら手を差し伸べてやらねばならぬ運命なのよ」「お伽噺の人魚の様に泡沫と消えへんといいけどなぁ…」

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#rsbs日誌　「あ、さて…夕張、話は聞いた通りじゃ。タイプβの推進機系の拡張艤装と部品をありったけ倉庫から持ってこい」「使っちゃうんですか！ずっと倉庫で眠ってたアレを！」嬉々として聞き返す夕張に提督は首肯した。「こんな時でもなければ使う機会は他に在るまい。じゃろ？」

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#rsbs日誌　「了解です！飛びっきりの魔法の翼を用意してあげましょうか」言うや否や、夕張は内線のマイクに飛び付き手透きのスタッフを倉庫前に集合するように呼び掛け、自分もバタバタと走り出した。「元気な奴じゃなぁ…」しみじみと提督は呟いた。「さて…龍驤、後は任せたのじゃよ」

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#rsbs日誌　「どないするん？」「休憩を入れてから図面を引くのじゃよ。ポン付け装備では飛びっきりの、とは呼べんじゃろう？」提督の言葉に龍驤は苦笑した「…つくづく、キミって艦娘に甘いお人やなぁ」「そりゃぁ…わしは魔女じゃからな。魔女とはお節介な生き物なんじゃよ」

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#rsbs日誌　煙管を取り出し、煙草を積めて火を点す。ふぅ…と小さく細く紫煙を吐き出しながら、提督は目を細め思いを巡らせた。「…あ奴もまた、スピードに魅せられし者の苦しみに踏み込んでしもうたかや…『いつか、こんな日が来ると思ってた』…じゃな…」かき消える煙は泡沫の夢の様だった

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#rsbs日誌　重巡リ級は今日も海を駆けていた。彼女は戦いに興味のない、珍しい深海棲艦であった。何故、恨み辛みも無いのに深海棲艦となってしまったのか、甚だ不思議であった。だが彼女は幸せだった。イルカや自分等に似た艦娘と言う物と追いかけっこをするのが楽しくて仕方がなかった。

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#rsbs日誌　この前追い抜いていった小さな娘は可愛くてとても速かった。悔しそうにしている顔が酷く愛おしかった。彼女は中々の速さだったがしかし、それでも私を興奮させ満足させてくれる艦娘では無かった。無理もない。自分は沈んだ艦娘や倒れた仲間の推進機を繋げたりしているのだから

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#rsbs日誌　不意に、小島の近くに人影を見た。目を凝らし眼球の倍率を高める。仁王立ちをした、セーラー服を着た少女が居た。彼女だ。私は機関出力を落とし、彼女に近付いていった。辺りを見渡すが、敵となり得そうな存在は居ない。つまり、『彼女』は囮か何かではない。安全だろう。

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#rsbs日誌　「あ…あー…コンニチワ。私、話す、下手。ＯＫ？」物知りなヲ級から覚えた片言の言葉で会話を試みると、彼女は頷いた。「これ！」険しい表情の彼女はくしゃくしゃの紙を渡してきた。読み辛いニホン語と、やけに流暢な深海棲艦語が書いてあった。翻訳かな？

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#rsbs日誌　さてはて何々？「わたし、これ読む。ウェイト。please」「うん！」　…――果たし状。私、島風型駆逐艦一番艦『島風』は貴殿にスピード勝負を申込む物である。一週間後に、場所は○○諸島の西の孤島で待つ。詳しくは同封の地図を参考にされたし。――…

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#rsbs日誌　……！！嗚呼！なんていじらしいのか！この少女は！追い抜いた私を一人で待ち構えてまで、リベンジマッチを申込むと言うのか！「読む、終わった。コレ、分かった」『待ってるから！』ただ一言、私達の言葉でそう告げると、彼女は背中を向け、走り出した。嗚呼、にやけて仕方がない…

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#rsbs日誌　私の、朧気な記憶が叫ぶ。ハレルヤ！カミサマ、とやらの存在を信じた事は一度たりとて無いけれど、今ならば信じても良い。有り難う！カミサマとやら！私にあの様な愛おしい競争相手を与えてくれて！全身全霊をもって、挑戦を受けようじゃないか！楽しみで仕方がない！

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#rsbs日誌　まるで瀑布の様な白波を巻き上げながら重巡リ級はその場を後にする。派手な水飛沫に似合った凄まじい加速でその場を後にしていった。彼女を観察する目があるとも知らずに……「すげぇ加速じゃのう」「かなりパワー出してますね…あ、翔鶴型のタービンの音も聞こえましたよ」

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#rsbs日誌　「相当な大馬力を注ぎ込んでおるみたいじゃな。重巡でありながら全力航行中の島風を追い抜く程はあるのう…」小島の森の中、蛸壺に身を寄せて提督と夕張は望遠鏡とカメラ、そして指向性集音マイクを構えていた。敵情視察である。とは申したものの、ただ眺めて音を聞いただけだ

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#rsbs日誌　「まー、推測100ノットオーバーのバトルとかになりそうじゃのー」「そんなのでスラロームしたら、スタビライザーがへし折れたりしませんか？」「いっそ固定と言うのもありかもしれん。ま、帰るぞよ夕張。楽しい楽しい工作の時間じゃ」「了解！」企みは順調に進んでいる様であった…

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#rsbs日誌　各々の画策が交差し合い、南の海は静かに、だが着実に熱気が高まっていた。鎮守府では急ピッチで島風の新たな拡張艤装の建造が行われ、深海ではひっそりと重巡リ級とその愉快な仲間達が彼女の主機やタービンを整備していた。そうして、太陽が登り月が降りるのを繰り返し…

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#rsbs日誌　一週間の時が過ぎた。

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#rsbs日誌　○○諸島西、特に何もない孤島。それは恐らく、二度と訪れないであろう泡沫の思い出。島には沢山の生物で溢れかえっていた。近隣の一般住民、暇をしていた傭兵、噂を聞いて駆け付けた艦娘、楽しそうだからと観光に来た艦隊、娯楽に飢えた深海棲艦…とカオスの極みであった。

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#rsbs日誌　「いやぁーなんじゃ。随分集まってしもうたのうー」呑気にサイダーを片手に述べる比良坂提督の背中にハリセンが飛んだ。「なんでやねん。他人事ちゃうやろが！自分からこの騒ぎの種をばら蒔いたんやろが！」「と云いながらも主も楽しんでおるではないかや、龍驤？」

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#rsbs日誌　「まぁ、楽しまへんかったら損やからな」もぐもぐとたこ焼きを食べる龍驤は素直に答えた。味はちゃんと関西のソースたこ焼きだった。カリッと焼かれた表面に中はトロッと熱々だった。「しかし屋台まで出るのはやり過ぎちゃう？」「じゃってうちらと深海棲艦だけでは面白くなかろ？」

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#rsbs日誌　そう、発破をかけたのはこの提督だ。ご近所の鎮守府やら泊地やら港町に「レースやるぞよー。屋台出さぬかー売り上げの３％でよいぞー」と言い触らしたのである。挙げ句の果てにはトトカルチョまでこさえた始末だ。「まぁ楽しもうぞ。別段破産するような価格設定にはしておらんし」