rsbs日誌#28

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　『ぴんぽんぱんぽーん』鉄筋の音色が即席の観察塔やそこいらに設置されたスピーカーから流れ出した。『スタート１０分前。スタート１０分前。重巡リ級さま、駆逐艦島風さま、特設台の前までご参上下さい』那珂の耳をくすぐる鈴の様な声がアナウンスを流した。

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#rsbs日誌　「では特等席に向かうかや」「せやね」「ヲ客サン。焼き海老ウマイヨーウマイヨー今朝の取れ立てダヲー」空母ヲ級が手慣れた手付きで海老を焼いていた「…なんで深海棲艦が商売上手なん？」「戦うのにツカレタ深海棲艦なんて沢山居るヲ。ヲ一つ如何？」なんとも平和であった。

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#rsbs日誌　「あー、あー、本日は我が鎮守府の島風とご近所に住まう深海棲艦の重巡リ級の決闘に観覧頂き、群衆の皆様には誠に感謝であるのじゃよ。これより駆逐艦島風対重巡リ級の決闘、もといレースを始める！ルールは妨害禁止、並びに攻撃禁止！指定されたコースをぐるっと一周する物じゃ！」

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#rsbs日誌　「たーだーし、卑怯な真似をした輩は永久に軽蔑されるであろう。と言うかわしがする。晒し首にする」比良坂提督のスピーチに海上は沸いた。「では、双方始める前に挨拶でもしたまへ」そう言うと壇上に立った二人は歩み寄った。ただ互いに静かな闘志をみなぎらせて。

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#rsbs日誌　赤いスカーフを首に巻き、ゴーグルを頭につけた島風は静かに喋った。「今度は、前には行かせないから」『今日をずっと待っていた。楽しみだった』通訳を介してリ級は心中を語った。そして、どちらからともなく、互いに拳を軽くぶつけ合い、二人は壇上から去っていった。

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#rsbs日誌　『ぴんぽんぱんぽーん』スピーカーから再び鉄筋の音が鳴り響いた。「発進、三分前。発進、三分前。選手は艤装を装着してください」強い足取りで波止場にまで歩いていく二人を、声援や掛け声、指笛に楽器が応援していく。不意に、島風は目の前に立つ提督に気が付いた。

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#rsbs日誌　「提督…」「存分に走ってこい」「…ありがとう…私、前に提督が話してくれた、鈍亀の話、今なら凄く判る気がする…」島風は小さく俯き、そして顔を上げた。「スピードって、こんなにも悔しく感じるものなんだね…今日は、タービンが燃え尽きるまで走るから。だから…見守ってて！」

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#rsbs日誌　提督は何も言わず、笑顔で頷いた。島風は波止場に走り、そして用意されていたこの日の為だけに作られた、急造仕上げの強化推進装置の前に立った。「島風ちゃん！火入れするわよ！」「ハイ！」飛び乗り、脚部と腰のハードポイントと接続する。機関に火が入り、振動し始めた。

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#rsbs日誌　夕張や仲間達に見守られながら、機器を目覚めさせていく。起動用の強制吸気機を作動させ、島風は合図を送った。「コンタクトぉ！」バルッ…バルッ…ドォン！と機関が目覚め、うっすらと黒煙を煙突から立ち上らせた。隣の桟橋からも、似たような音が聞こえてきた。

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#rsbs日誌　機関部に取り付けられたファンネルは轟轟と空気を吸い込みながら振動し、ガバナーが震えながら機関のアイドリングを保って、主機たるタービンがぶるぶると痙攣しながら回り、ボイラーはガバガバと燃料を飲み、水を沸騰させて復水機がオンオンと使われた蒸気を冷却させていた。

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#rsbs日誌　「発進、１５秒前！」此処まで来たのだ。御託は要らない。「５秒前！」全身全霊を持って、タービンが吹き飛ぶまでスロットルを全開にするだけだ。島風は念じる。私は速い。私は、負けない。と。「４！３！２！１！０ォッ！！」「行けえぇぇ！」彼女は慟哭し、スロットルを開いた。

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#rsbs日誌　何機もの推進機が、海水を暴力的にかき混ぜ、引き裂き、かいてゆく。キャビテーション気泡が化学反応を起こした溶液の様にぶくぶくと生まれ、二人は桟橋から飛び出していった。最初に頭を取ったのは、リ級の方であった。「やはり重巡は改造のキャパシティが駆逐艦とは桁違いじゃのう」

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#rsbs日誌　観客席で悠長に海鮮類の盛り合わせを食べながら提督は呟く。島のあちこちに設置されたテレビで何処に居ようとレースの様子を観戦できた。『さあ、いよいよ始まりました！重巡リ級と駆逐艦島風による栄光と名誉を掛けた一騎討ち！実況は私、長良型巡洋艦の由良が勤めさせて頂きます』

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#rsbs日誌　『両者、スタート地点を飛び出し第一のポイントに向かいます！最初に先頭を取ったのは重巡リ級！僅差で島風が食らい付きます！航行速度がどんどん上がる！５０…６０…７０！最初からどれだけのスピードを出すと言うのか！さぁそうこうしている内に第一のポイントに近付きました！』

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#rsbs日誌　島風はゴーグル越しにリ級の背中を睨んでいた。この前は、突き放されただけだったが、今は手が届く程に大きく見える。必ず捕まえてやる。そして私の背中を見せつけてやるのだ、と。島陰が見えてくる。ラグーンの小さな島々だ。高速スラロームのタイトロープ。ミスれば座礁。上等！

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#rsbs日誌　『両者一歩も引きません！白く鋭い航跡を残しながら突っ込んでいきます！減速は、減速はまだしないのでしょうか！あれ程の速度を出したら最後、そう簡単には減速できないと言うのに！まだか！まだか！まだ減速しない！最初の島はもう目前です！来た！ノーズダイブだ！』

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#rsbs日誌　脚部の拡張艤装の小さな舳先が沈みこみ、激しく波飛沫をあげる。ウォーターブレーキが体に減速Ｇをぶつけてくる。スタビライザ、舵起動！リ級と島風はさながらスピードスケートかスキィの様に体をバンクさせ、鋭く島の外周部へと切り込んでいく。浅瀬のスレスレを二人は駆け抜けた。

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#rsbs日誌　足に取り付けた船体が海面から引き剥がされない事を祈りながら、凶悪な旋回Ｇを無理やり押さえ込み歯を食い縛って耐える。コーナーが終われば、次の島へと目掛けてスロットルを全開に。スクリューが暴力的に回転し、体に加速Ｇをぶつけた。「イケる！」島風は確信した。

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#rsbs日誌　速度はどっこい。加速はあちらがまさり、旋回性能はこちらの方が切れが鋭い。レース中盤の連続タイトコーナーゾーンで追い抜いて、マージンを広げれば勝利が見込める。提督、凄いよこの艤装！私、今こんなに輝いてる！この前、負けたのは悔しかった。だけど今は凄く楽しい！

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#rsbs日誌　競り合える事がこんなに楽しいなんて、私…気付けなかった。わたしは何時でも一人ぼっちで、一緒に居るのは連装砲ちゃんだけ。連装砲ちゃんは私の体の一部でもあって、一緒に走る友達や仲間じゃない。だけど今、私には出来た。こうやって走り合うライバルが。

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#rsbs日誌　今なら判るよ重巡リ級。貴方のさっきの言葉。貴方も私と同じ。走る仲間が、ライバルが居なかった。そして貴方は私に、私は貴方に出会った。こんなに嬉しい事は無い。同じ好きな物でこんなにも激しく、熱く競り合う事が出来るだなんて。手に取るように判るよ。貴方の今の喜びが。

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#rsbs日誌　…――百万回の言葉よりも、もっと分かり合える瞬間(トキ)がある。――…　何時だったかな。提督が持っていた漫画にそんな言葉が書いてあった。だけど…理屈じゃ、ないよね。私達は…人間じゃないけど。私は艦娘で貴方は深海棲艦。それでも、同じスピードに魅せられた、愚か者同士。

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#rsbs日誌　こうやって、肩を並べあって走っていて…お互いに譲れない思いではち切れそうなのに、間違え様の無いライバルだけど、私達は今、色んな垣根を越えた先に居る仲間同士なんだって判るよ。だから…「だからこそっ、悔いがない様に！残らない様に！全力で、全開で！突っ走るよ！」

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#rsbs日誌　…――私は今、手に取るように私の後ろを追い縋る彼女の気持ちが判る。悦びと運命の神への感謝。そして…溢れ出る只々純粋な私への闘争心。後ろを振り返らなくたって判る。彼女は今、とてもいい笑顔で、私を追い抜くその瞬間を虎視眈々と伺っている。抜けるのならばどんな瞬間でさえ。