rsbs日誌#33

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　濃藍色の傘をさして雨の横須賀を龍田は歩く。普段は活気付いているこの街も、今は何処か人気も少なくまるで朧な夢を見ているかのよう。グレートーンに染まった家々はお伽噺の城壁のようにただ静かに佇むだけ…行き交う人々も少なく、見掛けた犬もキュンの一声も鳴きやしない…

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#rsbs日誌　「なんだか今日は、妙に余所余所しいと言うか…精気が無いわねぇ…雨が続いているからかしら…？」露店で買ったホットサンドも、出来立てなのに余り熱さを感じない。寝惚け眼の様にぼんやりと感じられる。疲れかしら、と思いながら町角を曲がった時、龍田は人影とぶつかった…

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#rsbs日誌　「きゃっ…！」「おっと」姿勢を崩しかけたその時、見知らぬ細腕が彼女を支えた。目を開くと其処に居たのは、グレートーンの世界の中で鮮やかに輝く、ヴィヴィッドトーンの存在。深紅の唐傘をさした、濡れ烏の黒髪に紅い双眸の美しい少女…「いや失礼。この街を歩き慣れておらんでな」

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#rsbs日誌　容姿に見合わぬ、酷く老獪な声と表情。とてもチグハグで在りながら、熟した美しさを内包していた。「ぁ…いえ、此方こそ…少しボンヤリしていたから…ぁ…海軍の、お方？」汚れ一つない白金の様な第二種軍衣を身に纏っている事に龍田は気が付いた。「ああ…そうじゃよ、軽巡龍田よ」

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#rsbs日誌　あまり陽の目を見ない初期型の軽巡洋艦の、それも旧式に分類される自分の事を知っている。龍田は直ぐに目の前に居る少女が提督と呼ばれる人種だと気が付いた。「ご、ごめんなさい…ご迷惑をお掛けしたわ」「いや、此れ位如何と言う事はない。わしこそ済まなかった」

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#rsbs日誌　眼前の少女の微笑みに、龍田は顔が赤くなった。途端、胸が痛み出す。「つっ…ぅ…」「…！大丈夫かや？病を患っているのか？」「大丈夫、よ…わたし、体が弱いみたいで…お薬、飲んだら…」「いや、わしに診せてみよ」とん、と胸に手をのせ少女は意識を集中させる…そして。

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#rsbs日誌　「此れか」指先を胸の中に沈め、抜き取る。ドロリとした粘液に包まれた刺の様な物が其処には在った。「な、…何？今の」龍田は驚き、キョトンとする。そして不思議な位、痛みは無かった「なぁに…ちょいとした魔法じゃよ。じゃが此れは応急措置に過ぎん。何れ刺は再び芽吹く」

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#rsbs日誌　手の中に納められた刺はパキリと音を立てながら握り潰され、ごぅ…と青白い炎と燐光を撒き散らしながら燃え尽きた。「おっと、済まぬが時間が差し迫っておるでな。何れまた会おう。必ずじゃ」「ぁ…！ちょっと！お名前を！」止める暇もなく少女は雨の街を行ってしまった。

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#rsbs日誌　街角から現れ、街角へと消えていく少女の背中を見送り、龍田は暫し佇んだ。触れられた胸はトクントクンと鼓動を響かせ、呼吸が僅かながら熱を帯びていた。「やだもう…私ったら…」恥ずかしそうに独りごちる。「違う刺が、胸に刺さったみたい…」ドキドキとした感情が其処にはあった…

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#rsbs日誌　ジー…コロロ…ジー…コロロ…ジー…コロロロ…機械制御のダイヤルが回され、ゼンマイが巻き戻される。雑音が暫し…プツリ、と通話が繋がる。「横須賀鎮守府オオサカ支部所属の比良坂巴提督じゃ。所長を出しておくれ……おう、比良坂じゃ。今日の昼に横須賀に着いた」

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#rsbs日誌　ヴィンテージな受話器に話し掛けながら、煙草を詰めた煙管に燐寸で火を点した。紅い火ではなく、冷たげな蒼い火であった。紫煙を燻らせ、比良坂はほぅ…と息を吐いた。「巧妙な手口じゃな。中々に尻尾が掴めぬ。何、時間を掛ければ必ず捕まえて見せようぞ。逃がしはしない…」

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#rsbs日誌　雨は窓を打ち付け、ぴちゃぴちゃと細かな音を響かせては耳を擽る。時折ゴロゴロとそらが唸っては暗い曇天の夜の空が僅かに煌めいた。「全く、お主ももう少しは知人を増やさぬか？手が負えぬ事件をわしにばかり回して此れでは艦隊勤務が出来ぬ……仕方有るまい。其れで手を打とう」

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#rsbs日誌　「褒美に期待させて貰おう…わしは報酬分の仕事はするつもりじゃよ。わしは明日再び調査に出る故な。また何かあったならば連絡しよう。ではな…」受話器を下ろし、チリン…と鈴が鳴る。比良坂は一切手を使わずに服を脱ぐと一糸纏わぬ姿となって寝床のシーツの海へと横たわった…

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#rsbs日誌　シーツの海に広がる黒髪は妖しく、艶かしく、さらさらと流れてゆく。「雨は暫し続きそうじゃな…龍でもおれば雨を操る事も容易かろうが…さて…雨乞いや稲荷の力では有るまい…その辺りを当たるのも悪くは無いかや…」ピシャリ、と光る稲光が怪しい彼女の人成らざる影を壁に映した…

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#rsbs日誌　「協力者が欲しいのう…この地で生まれ、育った物が…街を歩いて探してみるかや…」指先をつい、と動かし念力でカーテンを閉じる。僅かに灯りを灯していた室内灯を消して、シーツに身を包んだ。「ハンプティダンプティの殻の中身はなんぞやら…蛇が出るか…鬼が出るか…楽しみじゃ」

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#rsbs日誌　やがて少女は眠りに着いた。とっぷりと眠りに着いた。泥の様に眠りこけ、濡れ烏の様な黒髪は、闇を吸い込み艶を増していた。見守るのは時計の音と、窓を打ち付ける雨音ばかり――――……

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#rsbs日誌　―――…「はぁ」今日も雨、なのね…と龍田は小さく溜め息をついた。時折雨が止むことはあっても、雲が晴れる事は何もなく何時間かが過ぎれば再び雨が降る。横須賀を覆う空はその様な事をずっとずっと、ここ数日は繰り返していた。「大丈夫？龍田。酷い溜め息だけど」

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#rsbs日誌　同僚の長良に心配され、小さくついた筈の溜め息が酷く憂鬱混じりだった事に龍田は気が付いた。「あぁ…うん…大丈夫よ。ただ雨が続いているじゃない？気持ちが晴れなくて憂鬱で…」「だよねぇ…私も憂鬱。こんな雨、さっさとパーッと晴れちゃえば良いのに」

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#rsbs日誌　腕を広げてソファーへと倒れこむ長良に龍田はクスクスと笑った。「はぁ…ちょっと気が滅入るからジムで体を動かしてくるわ」「いってらっしゃい」今の彼女らは非番であった。だが非番と言ってもこの雨では出掛けるのも億劫となる。どうした物かと悩んだ時…彼女の端末に着信があった

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#rsbs日誌　端末を開き、彼女は顔を僅かに曇らせた。そして閉じると内線電話に手を伸ばす。「すみません龍田です。ちょっとお散歩に出ようかなって…はい、はい…夕食までには」そう言うと彼女はそっと部屋を後にし、雨の滴る横須賀の街へと静かに出掛けていった。その心中を誰にも知られず…

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#rsbs日誌　しとどに濡れた横須賀の道を龍田は歩く。濃藍色の傘をさして。指定された場所は、人気の無い裏通り。幾重にも張り出した雑多な屋根が雨を凌ぎ、流れてくる雨水で道は濡れて居れどもポツポツと広がる波紋は無かった…「嫌な趣味ね…」小さく呟く龍田は人影を見つめていた…

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#rsbs日誌　「逢瀬の場にはぴったりでしょう？」エキゾチックな顔付きの女性提督が、其処に立っていた。「悪いけど、あまり時間がないの…早くしてくれる？」「焦らなくてもいいでしょう？」女性提督が呟きながら、龍田の唇を奪う。啄みから始まり、やがて舌を絡ませあう…

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#rsbs日誌　…が、龍田の瞳は前を見ていなかった。精気なく、焦点も合わさっていない瞳にはただ義務感が存在しているだけだった。「…ん、ぅ…ぷあ…はぁ…ねちっこい、わね…貴女って」嫌み交じりに龍田は呟くも厭らしく笑われるだけだった「こんな時でなければ、君を味わえないからね」