不知火に落ち度はない その21

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yamoto @yamoto

んじゃ、久々に時間とれそうなので落ちぬいはじめるのだ。 今回はメスゴリラの食卓から回で。 #落ちぬい

2014-10-19 20:23:07
yamoto @yamoto

深夜の食堂。本来そこは誰もが入れる共有スペース。 しかしながら、今宵ばかりは事情が違っていた。 『関係者以外立ち入り禁止 ──長門』 入口に虎縞テープと共にそんなボードが立てかけられている。 故に今は、誰も踏み込む者は居なかった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:28:00
yamoto @yamoto

「では不知火。準備はいいだろうか?」 「問題有りません、長門さん」 長門が呼びかけ、不知火が応える。 長門にあるのはこれからを楽しむ空気。 不知火にあるのは戦場を駆ける覚悟。 これだけ見れば、何かの作戦開始にも見えただろう。 ただ── #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:31:44
yamoto @yamoto

エプロンである。 二人の身に付けたそれが、これから行われる行為に戦闘がないことを示していた。 長門は、シンプルな黄色いカラーのエプロンに「Puka-Puka」の文字が書かれたもの。 不知火は、ピンクに黄色いひよこがついたデザインだった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:36:26
yamoto @yamoto

「では、不知火。料理経験はあるか?」 「ありません」 「訓練期間中に食べたものは?」 「レーションです」 「作戦行動中食べるものは?」 「カップスープとカロリーメイトです」 ──パーフェクト。完全すぎる未経験者だ。 長門はめまいを覚える。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:39:35
yamoto @yamoto

「ちなみに、訓練中カレーを作ると言う伝統があったはずだが」 「そう言えばありましたね」 「調理はしたのか?」 「黒潮と陽炎がそれぞれ。不知火は素材と飲み水、薪の確保を行いました」 「なるほど。見事なチームワークだな」 長門はため息を吐き出した。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:45:15
yamoto @yamoto

「長い夜になりそうだな」 長門はいくつかの素材を並べる。 当初はカレーにするかと思っていた。 素材の用意もしてある。 しかし── 「不知火。早速だがその包丁の持ち方はNGだ」 「逆手持ちは駄目ですか」 真顔で言われて、ちょっと困る長門がいた。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:50:15
yamoto @yamoto

「もちろん駄目だ。もう仕留める相手は居ない」 「言われてみれば」 包丁の握りから教えるべきだろうか? 不知火は決して頭の悪い娘ではない。 教えればすぐに吸収するだろう。 長門はそう踏んで、目の前で実演してみることにした。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 20:55:27
yamoto @yamoto

「包丁の持ち方はこう。場合によってはこう持つ」 「こうですか?」 ふむ。なかなか順調だ。 刃物への適正はある。 「次ににんじん、ジャガイモだが、これには皮があるな?」 「はい、ありますね」 「まず剝く」 するすると、にんじんの皮を剥いて見せる。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:00:15
yamoto @yamoto

「ゆっくりでいい、やってみろ」 「はい」 そう、刃物を添えて── #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:00:47
yamoto @yamoto

「不知火。刃は添えるだけだ」 「添えるだけでしたか」 絆創膏1消費。 ここであわてふためかないだけマシだが、ちょっとにんじんにヘモグロビン的な液体がついてしまった。 愛情汁とでも言えばごまかせるかな、とか長門は考えたが流石にまずいのでやめておいた。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:03:22
yamoto @yamoto

「痛みはどうだ?」 「続行に問題ありません」 タフだな。 そうでなくてはと、長門は少し頬を緩ませ洗ったにんじんを渡す。 不知火は頷き、再び刃を添えて── #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:07:37
yamoto @yamoto

「不知火。力を入れすぎだ。もう少し落ち着こう」 「緊張しすぎたかも知れません」 包帯消費。 思ったよりも深手であった。 「本当に軽く滑らせるだけでいいんだ」 「わかりました」 にんじんの赤が、さっきより赤く見えてしまった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:10:11
yamoto @yamoto

「あと、勢いも要らない。あくまで刃は添えるだけ」 「鉛筆削りの要領でしょうか」 「それだ」 なんだ、最初からそう言えばよかった。 不知火はそれで得心いったか、にんじんを手に刃を滑らせ始め。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:16:08
yamoto @yamoto

「本当に鉛筆状に削るやつがあるか。あくまで例だ」 「目的を見失ってました」 包帯消費2。 危うく皮膚まで削ぎかねない様子だった。 「もうこれはあれだな。不知火、包丁一時中止」 「不知火は失格ですか」 「ハードルが高すぎたんだ。緩めよう」 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:19:14
yamoto @yamoto

「と、いうわけで安全な方向で行こう」 「やや納得がいきませんが」 ここで登場、文明の利器ピーラー様である。 これ一本有れば大抵の皮むきはどうにかなる。 流石にこれをしくじるほど不知火は、間抜けではなかった。 おぼつかない手つきで、皮を剥いていく。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:25:19
yamoto @yamoto

その間に長門は包丁を洗い、傍らで準備を開始する。 難易度はそう高くないが、手間がかかるジャガイモの皮むきをさくさくとやっていく。 本来ピーラーの出番は、ここであったのだが。 食料庫の男爵様は今日も色つやがいい。 自然上機嫌になってするする剝いていく。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:31:15
yamoto @yamoto

「終わりました」 「よし。では、次はジャガイモの皮むきだ」 「了解です」 そして不知火は、それを持ち上げ── 「はいストップ不知火」 「? 不知火に落ち度でも」 長門は再度頭痛を覚える。 確かにそんな方法があるとは聞いていた。聞いていたのだが。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:33:23
yamoto @yamoto

「たわしはだめだ」 「駄目ですか」 そんな食品加工場テクニックをどこで覚えたのか。 大問題ではないが、それを調理過程に含んでいいかどうかは悩ましい。 おそらくあの2名が、この出血大サービス娘に割り振った仕事の結果なのだろう。 ちょっと苦労が伺えた。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:36:12
yamoto @yamoto

「では不知火。最大の敵を紹介する」 「タマネギですか」 首をかしげる不知火が居る。 それだけでわかった。 彼女はタマネギの脅威を知らないのだ。 そしてそれは、誰もが通る道と言える。 「油断するな。泣かされるぞ」 「まさか。たかだか野菜です」 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:50:05
yamoto @yamoto

ぽろぽろ。 ぽろぽろ。 過去慢心によって破れた兵は数知れず。 不知火もまた、その一人になったのである。 「だから言ったろう不知火」 「油断しました」 流れる涙は止まることなく。 不知火はぐず、と鼻をすすった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 21:59:37
yamoto @yamoto

「何なのですかこの催涙兵器は。こんなものを食べるなど正気ですか」 「黙って食べられるほど、タマネギもおとなしくないんだ」 「世界で初めてタマネギを食べた人間の意見が聞きたいです」 「焼いて食べたんじゃないかなぁ」 とんとんと。 リズミカルな音が響く。 #不知火に落ち度はない

2014-10-19 22:06:57