戦後の日本人が上書きし損ねた「愛国心」について 《山崎雅弘》

表題に関連するツイートをまとめてみました。現在の日本社会で「愛国」と評価される基準は、戦前戦中に使われたそれをそのまま「流用」したものが主流で、誰もそれに疑いを差し挟まず、事実上「戦前・戦中式の愛国」だけがあたかも専売特許のように「愛国のスタンダード」とされてきましたが、果たして将来もこのままで良いのか? 「戦前・戦中式」以外の「愛国」を、戦後の日本は自らの手で創り出し、それをもって「戦前・戦中式の愛国」を「上書き保存」することを怠っていたのではないか? こうした問題について、考える一助にしていただければ幸いです。 また、以下のまとめも関連するテーマを扱っていますので、合わせて読まれることをお薦めします。 本当の「愛国」とはなにか 続きを読む
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山崎 雅弘 @mas__yamazaki

昨日、出先で読売新聞を見たら靖国神社に関する記事が出ていたので、帰りにコンビニで買った。読売新聞は、産経新聞のように「国家神道」や日本会議にベッタリではなく、現在の靖国神社の位置づけや首相の靖国参拝にも批判的視点を持ち合わせている。 pic.twitter.com/sUyRHHVSzY

2014-11-07 13:18:48
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山崎 雅弘 @mas__yamazaki

「最初の合祀は、戊辰戦争での官軍の戦没者3588柱。太平洋戦争で213万柱が合祀され、合祀の合計は246万6千余柱に上る」(読売、2014年11月6日)つまり全体の86パーセントが、太平洋戦争の戦没軍人(松岡洋右など非軍人も一部あり)。現在までの研究によれば、その約六割が餓死者。

2014-11-07 13:20:32
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

読売の記事は、いわゆるA級戦犯の合祀(1978年)に昭和天皇が「不快感」を示し、以後今上天皇まで一切の参拝を行っていない事実と背景も簡潔に解説している。また、世界各国の戦没軍人墓地が靖国神社と異なり「特定の対象者を慰霊する宗教施設ではない」との小泉内閣時代の報告書も紹介している。

2014-11-07 13:22:08
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

前にも一度紹介した本の画像だが、国家神道の政治体制がいかにして「教育勅語」の意味を恣意的に膨らませて、国民が国家のために犠牲となることを当然視する思想教育を行ったかという実例(教育勅語の副読本『教育勅語と我等の行く道』昭和10年)。 pic.twitter.com/mOl5fmHnEd

2014-11-07 13:24:57
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山崎 雅弘 @mas__yamazaki

「教育勅語」は、危機や災難の時には公に奉ぜよ、という「非常時の」「例外的な」義勇的精神の美徳について言及しているが、この副読本はそれを「国家体制への自己犠牲」は国民として当然の義務だと解釈し意味を著しく膨張させた上、靖国神社の写真を添えて同神社を自己犠牲顕彰のシンボルにしている。

2014-11-07 13:26:17
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

靖国神社には本来、戦死する軍人の数が少ないことを良しとする価値判断はない。むしろ戦死者が多いほど、祀ることで多くの遺族を「味方」につけることができ、神社の影響力が強まる。部隊が退却して兵士が生き延びれば、靖国神社には何の利益もないが、死ねば影響力拡大の宣伝に利用する材料が増える。

2014-11-07 13:27:46
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

靖国神社は戦没軍人を「お国のために立派に戦って倒れた軍人」という美麗なテンプレートに当てはめて祀り、個別の死因等には一切目を向けない。戦場で敵弾を受けて死んだ軍人と、食料の補給も無いまま未開のジャングルを彷徨って絶望の中で餓死した軍人を区別しない。実際には後者の方が多数派だった。

2014-11-07 13:29:25
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

上層部が無謀な作戦を強行して、補給を送る見込みもない戦場に部隊を送り込み、絶望的な状況で戦わせて餓死させたり『戦陣訓』で敵への投降を禁じて自殺的突撃を行わせたりすることは、靖国神社の利益に一致する。神格化で体制の政治宣伝に利用できる「魂」が増えることを、靖国神社は悪いと思わない。

2014-11-07 13:31:27
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

戦死した軍人の「魂」を物語化し、国家体制への国民の更なる献身を要求する材料にすれば、自分の「誤断」や「無能力」など重大な資質の欠落は検証の対象から外されるので、戦争指導部にとっても都合がよい。「戦死者が増え続けるから戦争を止めよう」という発想は出てこない。特攻の根源もここにある。

2014-11-07 13:32:47
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

死亡した軍人の「魂」を神格化し、国家体制と戦争指導部の正当性を補強する材料として利用することで、その死者と同様の死に方をする軍人がさらに増加する。それは死亡した軍人の「魂」が望んだことだったか。国家神道の政治体制は、指導部の誤断で死なせた犠牲者をも自らの権力強化に利用してしまう。

2014-11-07 13:34:18
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

「教育勅語」自体には、このような政治体制を肯定する文面は無い。だが「教育勅語に基づく道徳教育」は、副読本で文面の解釈を恣意的に膨張させることにより、失政の犠牲者が多いほど政府の政治的支配力が増大する本末転倒した国家体制を作り上げることも可能になる。過去の犠牲者がそれを教えている。

2014-11-07 13:35:47
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

自衛隊の海外派遣が実現すれば、紛争地で命を落とす自衛官が出るリスクは増大する。自衛隊派遣を可能にする法的整備や法解釈変更の研究は着々と進んでいるが、命を落とした自衛官は「靖国神社に祀られるのですか」という質問が国会でなされたか。この質問への答えは、現政府の本質を浮かび上がらせる。

2014-11-07 13:37:23
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

戦後の日本における失敗の一つは、「愛国心」という概念と正面から向き合うことから逃げ続けたことだと思う。戦前戦中の国家神道体制において、愛国心は国民に体制への服従を強いる政治教育の柱であったため、戦後の日本では「愛国心の鼓舞=軍国主義の復活」と短絡的に忌避され、価値を全否定された。

2014-11-11 13:27:41
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

世界を見渡してみれば、近隣諸国と良好な関係を築いている民主主義国でも「愛国心」は普通に人々の心に根付いている。だが、戦後の日本では「愛国心」の価値を否定した結果、国家神道系の人が提示するスタイルだけが「愛国心」の専売特許になってしまい、それ以外の形態もありうることは忘れ去られた。

2014-11-11 13:28:46
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

「愛国心」について考える場合、愛の対象である「国」とは何かが問題となる。民主主義国では、国民の生命や生活環境も「国」の中に含まれるが、非民主的で抑圧的な国では「現政府を頂点とする国家体制」だけが「国」であり、その体制を護持するために我が身を犠牲にする人間が「愛国者」と見なされる。

2014-11-11 13:29:55
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

現在の日本でも、国家神道系の人々が提示するスタイルだけが唯一の「愛国心」であるかのように錯覚され、それに賛同しない人間は「愛国的でない」と決めつける風潮が一般的。しかし実際には、国家神道系のスタイル以外にも「愛国心」の形態はあり、自分はどの「愛国心」を選ぶかという問題でしかない。

2014-11-11 13:31:03
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

戦前戦中の日本では、国家神道の価値判断に思考と行動を適合させ、政府の言う通りに行動することが「愛国的」なのだと教えられたが、現実は正反対で、日本は長い歴史の中でただ一度、国として滅亡の危機に瀕し、主権を他国に譲り渡した。亡国の道を「愛国」だと勘違いしていた。今もその錯覚は根強い。

2014-11-11 13:32:07
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

政府の言う通りに行動することが「愛国的」なのだと教えられたが、現実は正反対だった。「では何が間違っていたのか」をきちんと分析・精査せず、ただ「愛国」という概念自体が「危険物」だから全部捨てよう、と安易に問題から逃げたのが、戦後の日本だったと思う。重要な問題を克服する機会を逸した。

2014-11-11 13:33:17
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

本当なら戦争に負けて「民主化」した時点で、戦前戦中の「愛国」と、明治や大正期の「愛国」、よその国々の「愛国」の形を比較検討して、戦前戦中の「愛国」思想の欠陥を洗い出した上で、新しい「愛国」のファイルを作って「上書き保存」しなくてはならなかった。だが結局、それをせずに今日まで来た。

2014-11-11 13:34:40
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

日本人が民主的な体制下で再興するために新しい「愛国」ファイルを作ることは、完全主権国家としての日本の復活を危惧する戦勝国にとっても、望ましいものではない。戦前戦中の体制を復活させたい国家神道系の人々と、日本人が精神的に自立することを望まない米政府の利害は、この点で奇妙に一致した。

2014-11-11 13:36:05
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

米政府は、日本の占領統治政策を進める中で、民主的な国家にふさわしい「愛国心」のスタイルを示唆することを、おそらく意図的に回避した。それは第一次大戦後のドイツに適用されたヴェルサイユ条約に似ているが、当時のドイツと大きく異なり、戦後の日本人は「愛国心の不在」を屈辱とは考えなかった。

2014-11-11 13:37:16
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

自分の所属する社会集団が大きな困難に直面し、自信や将来への展望を見失った時、所属集団の「強さ」や「進路の正しさ」を裏付ける何かにすがり付きたいという感情が、極端な政治思想を生みだす土壌となる。20世紀の歴史は、これの繰り返しだったように見えるが、いよいよ日本にも順番が回ってきた。

2014-11-11 13:38:30
山崎 雅弘 @mas__yamazaki

国家神道系の人が提示する「愛国心」のスタイルは、実質的な人権の無視をはじめ様々な意味において時代遅れだが、その思想の欠陥を洗い出して新しい「愛国」のファイルで「上書き保存」するには、まだ手遅れではないと思う。「愛国か反日か」という二項対立ではなく「何が愛国か」を議論すべきだろう。

2014-11-11 13:39:49