「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」 #3
「バカなー!」ワタナベは叫んだ。「ダークニンジャ=サンが倒れたなどと……何者だ、そのテロリストは?」ウォーロックはくすくす笑った。「イチロー・モリタ=サンですよ、あなたと仲のよろしい好青年ですな」ワタナベは打ちのめされたように後ずさった。
2010-08-16 19:38:02「あれは偽名でしょうが、本当の名は我々も掴んでおりません。ただ、『ニンジャスレイヤー』と自称しております」ぽつり、ぽつりと雨粒が落ち、すぐに土砂降りになった。ウォーロックは続けた。「私はあなたのご存命を知り、こうしてスカウトに来ました。まさかその場にニンジャスレイヤーが……」
2010-08-16 19:43:40「奴を殺れというのかウォーロック=サン」ワタナベは呻いた。ウォーロックは深々とオジギした。「ボスはあなたをシックス・ゲイツへ呼び戻した後、ニンジャスレイヤーをテウチ(訳註:暗殺すること)にせよ、とお命じになるおつもりでした。一度でそれが済んでしまうとは、まさにアブハチトラズです」
2010-08-16 19:56:44「だが…おれはシンジケートを抜けた人間だ……」ワタナベは言葉を口から押し出した。ウォーロックは頷いた。「そのオトガメすらも白紙にして、迎え入れようというのです。なんと寛大なボスのお計らい!」ウォーロックはニヤニヤと笑った。
2010-08-16 20:22:15「それに、言ってはなんですが、インターラプター=サン、あなた自身今の不本意な暮らしを通して、ご自身の本当の生きる道を身に染みて実感されてらっしゃるのでは?」ウォーロックがワタナベの顔を覗き込んだ。「シックス・ゲイツ最強のニンジャ、タタミ・ケンの使い手、それがヨージンボーなど…!」
2010-08-16 20:28:00「言うな!」ワタナベはさえぎった。しかしウォーロックは続ける。「さらに、あなたにとって素晴らしい福音が用意されている。……オハギ、おいしいですか?インターラプター=サン」「貴様…!」「憎くて愛しい、黒い甘味……」「やめろ!」「血中のアンコをクリーンにして差し上げます」
2010-08-16 20:36:09「何だと」ワタナベは呆然とした。「そんな事ができるわけがない」「リー先生のラボであれば、それも容易い。あなたのいた頃とは違うのです、色々と」ウォーロックは言った。「血液を入れ替え、体細胞を……まあ、私にはよくわかりません。リー先生に直接お聞きになっては?」ワタナベは沈黙した。
2010-08-16 20:41:29長い沈黙であった。二人は重金属を含んだ激しい雨に打たれていた。やがてワタナベは口を開いた。「……約束を守れよ、ウォーロック=サン」「ホホホ!私は伝令に過ぎません。ですが嘘は申しておりませんよ。これで私の首もつながります。ニンジャスレイヤーの首、お待ちしておりますよ」
2010-08-16 20:46:06言い終えると、ウォーロックであった浮浪者は唐突に意識を失い、糸の切れたジョルリのように(訳註:人形浄瑠璃か)、アスファルトに倒れ伏した。ワタナベは握りしめた己の拳を見つめた。そのおそるべき眼差しは、殺意に赤く燃え上がるようであった。
2010-08-16 20:50:23トミモト・ストリートの中心、巨大ゲームセンター「ヤング・オモシロイ」の廃墟内では、今まさに危険な宗教的儀式がたけなわであった。
2010-08-16 21:01:04「キング!」「キング!」「キング!」日没を迎え、まったき闇となった「ヤング・オモシロイ」の中央ホールで、半裸の男たちが声を合わせて叫んでいた。彼らはみな、センタ試験に失敗し、帰る家を失った十代の若者達である。
2010-08-16 21:13:46「キング」の呼び声が響き渡る中、中央に据えられた祭壇のボンボリに火が灯った。炎が巨大な人の影を映し出すと、呼び声は割れんばかりの歓声に変わる。影は両手を高く差し上げ、それに応えた。「約束の子供らよ!今宵も時が来た。オメンを被れ!」歓声。少年達は競い合ってヒョットコの面を装着した。
2010-08-16 21:19:55「我々は自由だ!今こそ、夜!太陽は死んだ!手にはバットを持て!」「キング!」「キング!」「キング!」「今宵の約束の地は、下水とともに暮らす不潔なネズミの巣だ!」「キング!」「キング!」「キング!」「ヨージンボーなど恐るるに足らず!」「キング!」「キング!」「キング!」
2010-08-16 21:33:56ドオン、と銅鑼が鳴らされた。首領は手に持った青龍刀を火に差し上げた。「ゆくぞ!」狂乱のヒョットコ集団は首領の号令下、雪崩のように「ヤング・オモシロイ」から飛び出して行った。目指すは……浮浪者のキャンプである!
2010-08-16 21:37:49