海上自衛隊予備自衛官の五日間訓練

青八木景 @aoyagikei

あくまでも予備自衛官の任務は、常備自衛官たちの後方支援、基地・駐屯地の警備などだ。万が一、有事の際に艦艇で欠員が出たら、まずは基地など陸上勤務の隊員が補充に充てられる。予備自はその陸上要員の欠員に充てられるという具合だ。

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そもそも、退職した予備自衛官がすぐに艦艇に乗れるわけがない。艦艇乗組員には、艦内で団体生活を送るにあたっての作法や、急変する事象・事態に即応するための判断力、そして常に更新されるハード・ソフト両ウェアに対応できる技術力が問われる。

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海上自衛隊では、これらの能力を総合して「潮っ気」と呼ぶ。艦艇を下りて長く陸上勤務に回っていた人間などは、「あいつは潮っ気が抜けた」などと言われることがある。潮っ気は常に艦艇に乗り続けていなければ、安易に失われてしまう厄介なものなのだ。

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海自を退職し、何年も何十年も海の上に出ていない海上予備自衛官にとって、潮っ気は抜けるどころか風に飛ばされ跡形も残っていない。

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だからこその陸上勤務である。今回の招集訓練では、試行として個人に対する事前配置が通知された。東日本大震災で海自も予備自の招集を行ったが、何も準備していなかったためにだいぶ混乱したそうだ。

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以前の招集訓練では、部隊実習はタグボートを扱う港務隊や、通信隊など、あちこちの陸上部隊に分散して行われていたとのこと。予備自個人の在職中の特技（任されていた職種）を考慮してのことだと思われる。

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しかし調理や衛生（看護師）ならばともかく、現在は関係のない仕事に就いている人にとって、陸上部隊の配置であっても専門機械を取り扱うなどの業務は難しい。だから現実的に考えられる、予備自衛官の活用法が試行される…とのことらしい。

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というわけで、今回招集訓練に参加した予備自衛官の大半が、横須賀基地の警備要員に指定されていた。ザ・ガードマンである。

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部隊実習は、横須賀基地の警備を担う、陸警隊という部隊で行われた。午前中は基地警備の根拠法令などについて詳しく学ぶ。有事の際であっても、不法侵入者に対して過剰に危害を加えてはならない、という内容が印象的。

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基地警備はあくまでも抑制的に。向こうが拳を振り上げたからといって殴り返すな、刃物や銃で狙われて、初めてこちらも銃が使える。

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とはいえ、まずは銃口を向けて警告、そして威嚇射撃。だめなら危害射撃。しかし殺傷が目的ではない、などなど。グーにはグー、パーにはパー、チョキにはチョキと常にあいこが原則なのだというお話。

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昼休みを挟んで、午後からは実戦訓練が行われた。といっても銃を使うのではなく、初歩的な、警棒と大盾を用いた警備訓練だ。機動隊の真似事のようなもの。

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しかし、殺気が隠しきれていない陸警隊員達にビビりまくって、鼻水がたれるかと思った。「敵はあなたたちを殺しに来ますからね、まじめにやってください」と凄まれ、慣れない警棒をひたすら振り続けた。

青八木景 @aoyagikei

陸警隊、といえば昔は窓際部隊だった。艦艇で爪弾きにされた者、体調を崩した者、事情があって艦艇勤務ができない者など、とにかくそういった人たちが仕方なしに回される所というイメージが強かった。だからよく「これだから門番は…」なんて言われ方をしていた時期もあった。

青八木景 @aoyagikei

しかし、それがガラリと一変していた。着ているものは、ヨレヨレの作業服ではなく、最新の青系デジタル迷彩服。俊敏な身のこなしで格闘や集団警備をこなす、まさに専門家の風格を漂わせていた。どうか、招集されたらお手柔らかにお願いします、としか言いようがない。

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招集訓練の５日目は、ほとんど帰り支度のようなものだった。訓練を振り返っての所感文作成、今後の訓練に関するアンケートなどの書類を書き、５日間暮らした隊舎の大掃除。

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海上自衛隊は、靴墨が床に付くのを極端に嫌う。靴墨とは、靴磨きの際に使用した薬品や、靴底自体がこすれてリノリウムの床に線のように付着したものを指す。

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海上自衛隊は、靴墨跡が床に付くのを嫌うくせに、革靴を制服の一部に取り入れ、靴磨きでよくピカピカにすることを奨励する。だから大掃除では、あちこちに付着した靴墨跡を必死に擦り落とさなければならない。

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それが終わると、荷物をまとめる時間を経たのちに、離隊式。教育隊司令の労いの言葉などがあり、最後は教育隊職員などに見送られて式場を後にする。

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あとは淡々としたものだった。１年に１回会うか会わないかという人たちなので、そこまで仲良くなるわけではない。軽く「じゃあ、また来年」という会釈で、重い荷物を背負って私も教育隊を後にした。

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…とまあ、こんな感じの５日間招集訓練でした。補足ですが、毎日外出もできます。同期や知人と飲んだり、懐かしい場所を散歩したりしていました。

青八木景 @aoyagikei

少々大変なこともあったけど、概ね懐かしく、楽しい５日間だったかな？ 来年も、仕事の都合がつけば参加してこようと思う。というわけで、これにて終了。寝よう。