rsbs日誌#39

レズボス日誌。第三九巻 ツイ鎮SS
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﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌 「ヒスイや。世の中人間が集まるだけ集まってメシは不味いわ空気は悪いわ銭湯の湯はキッタナイわとダメ押しの役満がそろっておる場所もあるのじゃよ。何処がとは申さんが」提督の酷い言葉にヒスイは自分の島が恵まれているのだと理解するのにそう時間は掛からなかった。

2014-12-23 17:18:30
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#rsbs日誌 「あ、そうだ。良かったら赤城さん…私の弓を見てもらっても良いですか?」おずおずと問いかけるヒスイに提督と赤城は互いを見やった。「フムン…別に構わんじゃろう。夕飯の時間までには戻るのじゃよ」提督の言葉に赤城は微笑み、ヒスイへと向きかえった。「…と言う事みたいよ」

2014-12-23 17:20:02
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#rsbs日誌 少女の顔は見る見る内に輝き、まるで太陽のやうに輝いた。「それでは私、軽く稽古をつけてきますね」会釈をして、赤城は艦隊から離れた。「良い子ですね。ヒスイちゃん」榛名の呟きに提督は頷いた。「将来、必ず…きっとよい艦娘になるであろうな」提督はしみじみと呟いた。

2014-12-23 17:21:43

…―――――…

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#rsbs日誌 この島は古くから防人としての稽古が盛んであった。知られる事無く…古今の有名人、有識人…そして、時の権力者を守る防人として…深海棲艦が現れ、艦娘と言う存在が生まれた今では…艦娘候補生として…彼女らは旅立っていく。戦う痛みを、強さを知る艦娘として…

2014-12-24 00:16:34
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#rsbs日誌 そして…ヒスイの様に、艦娘に教えを乞う娘らもまた少なくは無い。彼女等の多くにとって、戦い生き続ける艦娘とは憧れの的でもありまた人生の目標でもあった。艦娘の中には、退役後にこの島で講師を勤める者や…護衛艦隊として 近隣を守り続けるのを望む者も少なく、無い…

2014-12-24 00:24:54
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#rsbs日誌 タタタン!と小気味よく、矢が的を射抜く音が響いた。複数の人間が一度に射った訳ではない。独りの少女が、一度に射ったのだ。複数の矢を一気に番がえ、放つ。少女の得意技だった。神憑り的な命中精度で矢は的の真ん中を射抜く。其れだけではない。少女は様々に射抜いて見せるのだ。

2014-12-27 22:13:53
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#rsbs日誌 少女の矢は、水平に拡散させて射つ事も、斜めに反らして射つ事も、複数の的に一矢ずつ射つ事も出来た。変化自在。縦横無尽。曲射ちもまた極めればひとつの脅威となり得よう。少女の摩訶不思議な弓を、赤城はゆっくりと…そして確りと見詰めていた。少女は矢筒の矢を全て射ち終えた…

2014-12-27 22:19:14
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#rsbs日誌 ぱちぱちと小さな拍手が少女に贈られた「見事でした。ヒスイちゃん」赤城はそっと立ち上がり、少女に近付く。「鬼気迫る程の集中力…一矢たりとも射ち漏らさないその弓捌き。鬼神の如き迫力でした」ヒスイは無言で感謝の会釈を返した。「但し…理解しているとは思いますが…」

2014-12-27 22:25:16
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#rsbs日誌 赤城は言葉を区切り、ヒスイの弓を受け取った。いつの間にか、一本の矢を手にして。「実戦は…海の上は、弓道場とは違います。的は静かに佇み続けては居ないし、其処には恐ろしい死と恐怖の闇が溢れています。其れにひと度飲み込まれてしまえば…無事ではありません」

2014-12-27 22:29:14
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#rsbs日誌 「故に…常に最悪の事態を想定なさい。第一の矢が反れた時は。仲間が倒れた時は。己の片腕がもげた時は」懐から式神を取り出し、赤城は空へと放る。それは深海棲艦の艦載機を模した、精緻な紛い物。鋭く動き、加速し、懐に抱いた航空爆弾を落とそうとアプローチを仕掛ける。

2014-12-27 22:37:18
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#rsbs日誌 赤城は目にも止まらぬ素早さで矢を番がえ、瞬く間に狙いを着けると弓を引いた。パアン!!と三千世界に響き渡る様な弦の爆ぜる音が響くと、矢は奇っ怪な動きを見せる深海棲艦の艦載機を真っ直ぐに射抜いて見せた。「それらを理解した時、貴女は一人の戦士として羽ばたく事でしょう」

2014-12-27 22:45:01
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#rsbs日誌 「貴女が一人前の戦士として…この海で強く立つ日が一日でも早く来る事を祈っていますね」「…はい。赤城さん」真剣に頷く少女…ヒスイの顔をみて、赤城は微笑むと彼女の額に小さな接吻を落とした。祝福有れと言わんばかりに。弓道場には何時しか、傾いた陽の灯りが射し込んでいた…

2014-12-27 22:51:26
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#rsbs日誌 平穏が満ちていた。深海棲艦出没の警報も、駐留している護衛艦隊によって瞬く間に討伐される。湯治に来る艦娘らが態々出向く必要が無い程に。…そうして比良坂提督の艦隊は数日間の療養を終え、墓参りをするべく西へと艦の舵を切った。坊之岬沖…最早多くを語るまい。最期の艦隊戦…

2014-12-28 15:01:16
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#rsbs日誌 …何が、そう仕向けたのであろうか。その日は湯治に来る艦娘、艦隊も居らず…ただただ静かだった。ヒスイは村を走っていた。何故か?彼女の友人と呼んでもよい、白い烏が居ないのだ。胸がざわめく。何かが可笑しい。風も妙に渦巻いていた。爽やかな潮風が吹いてこない。

2014-12-28 15:04:54

…――――――…

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#rsbs日誌 「ヒスイちゃん!」「あっ…蔦子ちゃん、日菜ちゃん!」ヒスイを呼び止めたのは、幼馴染みの少女らであった。其々が薙刀と太刀を携え、彼女らもまた…ヒスイと同じく防人として育てられて居た。「白ちゃんまだ見付からないの?」「うん…こんな事…今まで無かったのに」ヒスイは俯いた

2014-12-28 15:10:38
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#rsbs日誌 「ヒスイ、もう一つ話があるんだ」日菜が神妙な顔で語りだす。「君なら感付いていると思う。この妙な風の事だ…村長と護衛艦隊の旗艦から通達があった。防人候補生は島を巡回して警戒に当たれ、との事だ」「…やっぱり可笑しいんだ。この風」ヒスイはキッ…と遠くの沖を見据えた。

2014-12-28 15:14:14
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#rsbs日誌 「私達は島の東側を当たるから、ヒスイちゃんは北をお願い」「勿論、大事な友人の白も探そう…もしかしたら、この風を怖れて何処かで隠れているのかも知れない」「ありがとう…二人とも。終わったら、蜜柑アイスでも食べよう」「えぇ、約束」三人の少女は小さく己の拳をぶつけ合った。

2014-12-28 15:17:54
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#rsbs日誌 渦巻く風に息が荒くなる。空気が籠っているような感覚。そのまま、陽は下がり…黄昏時を迎えようとしていた。魔の時間である。誰そ彼時と云われる所以の一つ。姿がハッキリとしないのだ。人であるか、魔であるか…最初の砲声が、轟いた。小口径。5インチ砲…駆逐艦か軽巡洋艦の物…

2014-12-28 15:35:39
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#rsbs日誌 初弾に続いて、何発もの砲声が響き、炸裂音が木霊する。ヒスイは咄嗟に、己の持ち場を離れて駆け出した。聞こえた方角は東側…そう、友人達の居る場所に他ならない。獣道を駆け抜け、藪を交わし、岩を飛び越える。ヒスイは島の最短ルートを駆け抜けた。その間にも、砲声は止まない。

2014-12-28 15:44:20
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#rsbs日誌 更に言えば、護衛艦隊の砲声さえも混じって来た。冷や汗が垂れる。無事を祈り、ただ走る事しかヒスイには出来なかった。そして…海岸に出る林を抜け、大きく飛びながら彼女は砂浜に躍り出た。其処が、地獄絵図の渦中であるとも知らずに…凄惨な殺戮現場が、ヒスイの目の前にあった…

2014-12-28 15:47:56
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#rsbs日誌 砂浜を埋め尽くすのは…死に体の艦娘と…僅かな、防人候補生達…飛び散る血潮、体の端切れ…臭う臓物に煙を上げる艤装の残骸。ヒスイは…吐かなかった。だが…ただただ涙が流れた。彼女の脳を、悲しみと怒りが塗り潰していく。嗚咽が喉から溢れ出し、大粒の涙が頬を伝っていく…

2014-12-28 15:56:51
﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌 「…だれ、か…いる、の?」声が聞こえた。ヒスイは顔を上げて辺りを見渡した。「生きてる人、居ますか!誰か!」ヒスイは声を上げた。もう一度、声が耳を擽る。「そのこえ…ひすい、かな…」途切れ途切れの声。今度は確りと聞いた。場所も判った。ヒスイは直ぐに駆け寄った…

2014-12-28 16:00:05
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#rsbs日誌 「瑞鶴さん…!」護衛艦隊の正規空母の一人…瑞鶴がいた。下半身は消し飛ばされたのか何処にも見当たらない。更に言えば、左胸にも巨大な穴が開いていた…彼女が喋れるのは偏に…艦娘だからである。もう、死んでいると言っても違いないのだ…沈むまでの、僅かな空ろな時間に過ぎない。

2014-12-28 16:08:10
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