彼女のふり　Vol.1

pe-ko @Peko8_m

会社帰りに、寄り道して洋服を見ていると「そのワンピース可愛いですよね。私も色違いのを着てるんですけど…」と目がぱっちりの少し小柄だけど、スタイルの良い、色白の可愛い店員さんに声を掛けられる。まるで、私とかけ離れたような容姿…。こんな風に私も可愛かったらなって思わず見惚れてしまう。

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それを着たら、私も可愛く見えるかな？と思うけど「普段…こういうの着ないからなぁ」という私に「着てみるだけでも」と勧められて、試着したけどやっぱり、女の子らしいシルエットの服はどこか歯痒く感じて「お客様お似合いですよ」と言われてもしっくりこなくて、持っているような服を買ってしまう。

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下着も買っておいた方がいいのかな…？って、下着売場の前で立ち止まって、考える。一応、部屋も行くわけだしって、何を考えてるんだ。私は彼女じゃないんだよ。彼女のフリするだけだよ。何考えてるの？でも、やっぱり…勝負下着っぽいのは着てた方が、何かあった時のために…やっぱり…って妄想して、

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本当に恥ずかしくなってくる。勢いで可愛いピンク色のリボンの下着と少し大人っぽいセクシーな黒レース調の下着も買って。丸山先輩…どっち好きかなとか考えたりしてしまう。私はただの同僚。彼の彼女じゃない…そんなのわかってる…。でも、彼女のフリしてる間だけは彼女だって思っていてもイイよね？

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翌日は朝から快晴で。昨日の夜は今日のことが楽しみ過ぎて、いろいろ準備したりして、寝坊した。急いで家を出ると、待ち合わせの駅前には私服姿の丸山先輩が居て。初めて見るスーツ以外の姿にドキドキしてしまう。あぁ…やっぱり、私服もかっこいいな。 pic.twitter.com/45u2Y6mboT

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「すみません。待ちましたよね」「いや、今…俺も来たとこやから。あ、今日と明日は丸山先輩って言ったら、あかんよ」「え…？」「隆平って呼ぶように。一応、フリやけどカップルやから」「え、あ、はい、わかりました。丸山先輩」「隆平！」「すみません、隆平さん」「隆平…さんはなんかちゃうなぁ」

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「隆平くん」「うーん」「隆ちゃん？」「なんか、お前から呼ばれるんやったら、それが1番しっくり来るな。じゃあ、行くか！」「どこか行きたいとこ有ります？」「敬語もあかんな。有りますやなくて…」「どこか行きたいとこある？」「そうそう」何かやっぱり、いろいろと大変だけど、今日は楽しもう。

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いつもは、駅から家の往復しかしないから、わからなかったけど、丸山先輩とだったら、いろいろな発見があって、何と無くしか見てなかった景色が楽しくて、時間が経つのも早くて。あっ、と言う間にお昼でファミレスでご飯を食べながら買い出しの打ち合わせ「結局、どうする？明日のご飯」「せやなぁ…」

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だいぶ、堅苦しさも無くなって距離が近づいた気が勝手にしてて「その、お友達さんと彼氏さんってなにが好きとかあるんですか？好きなもの作ってあげたら、きっと喜びますよ」「うーん、せやな…。友達は基本何でも食うんやけど、彼女がめっちゃ好き嫌いあって、料理作っても食わせるのには苦労したな」

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何か、違和感のある話しの締めくくりだな。まるで丸山先輩と友達の婚約者さんが付き合ってたような…「ちなみに、俺の嫌いなのはピーマンやからな！覚えとけよ」って笑いながら言って来て「なんか、ピーマン嫌いって子どもっぽい」「いーの。無理なんは無理」って嫌そうな顔をする丸山先輩を見ながら、

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彼女だったら、仕事中に見せないような顔もいっぱい見られるんだろうな…。近くに居たら、もっと近くに居たくなる。このままの存在で居たくなる。彼女のフリが終わったら、もしかして、前みたいに見てるだけの存在になっちゃうのかな？やっぱり…意識されてないのわかってるけど、それは嫌だなと思う。

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このまま、彼女のフリが、終わるのだけは嫌だな。だから、最後に…叶わなくてもいいから、「丸山先輩のことが好きです。本当の彼女にしてください」っていう、自分の気持ちだけは、伝えよう。この時はそういう風に不思議と思えた。そう、この時だけは… pic.twitter.com/UOZvlkM2Ay

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ランチの後にスーパーで買い込んだ食材を持って先輩の家に行く「どうぞ…」と通された部屋はキレイで「キレイにしてるんですね。なんか、男の一人暮らしって片付いてないイメージで…」「そうなん？」「弟が居るんですけど、弟の部屋なんてゴミ散らかってたりして」「てっきり、元彼のことかと思った」

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「家族以外の一人暮らしの男の人の部屋に入るのは、今日が初めてで…その…」思わず、あたりを見渡してしまう「へぇ。そうなんや。俺…この部屋に越してから、女の子を家の中に入れたの初やわ。でも、ホンマに気をつけや？俺は大丈夫やけど、一人暮らしの男の部屋に着たら何されるか、わからんからな」

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俺やから大丈夫…。遠回しに君はないよと言われてる。料理作りながら「料理するようになったのか」って話になったら「好きな人が料理苦手で、少しでも喜んでほしくて、料理はじめてん」とか元カノの話をされる。表面では笑ってたけど、何でそんな話って思って苛々してたら「…っ痛い」見ると指から血…

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「大丈夫か？」切った指の方の手を握られて「とりあえず、血止めな…」と切った指を口元に持って行こうとされる「いや、それ止血方法として、間違ってますから！」「え、あ、そうなんや。いつもこうやって、あいつが怪我したらやっとったから…」「あいつが誰だか知らないですけど、私は違いますから」

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そんなん、わかっとるよ…。違うことくらい。せやけど、フリはフリやし、正直言って、俺はまだ俺やなくて、友達と結婚する元カノに未練有るし。たまたま、あの日に残業してたのは君だったってだけの話で、誰でも良かったはずなのに、気にするほど、何とも思って無かったはずのに、何をやっとんの…俺。

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多分、俺…。この子に、もしかして好かれてるんかなぁ…って勘違いもしたりして。元カノの話をしたら、嫌な顔するし。俺のつまらないギャグにも笑ってくれるし…。とにかく、ますます…気になるけど、これも、きっとフリだって思って、元カノの話をしてしまう。この彼女のフリが終わったら、どうなる？

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なんもなかったように、今まで通りは嫌やな。もう少し、この子のこと知りたいかも…とか思う自分も居て。そんなことを考えてたら、彼女が指を怪我した。元カノは料理中、指を怪我したら、俺の口元に手を持って来て「血が止まらない…止めて」って言ってきた。正直、俺もあの時はトチ狂ってたと思うけど

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彼女の指を咥えたりして…。ムラムラしてようそのまま、キッチンで料理するより先に彼女のこと、よく戴いとったなとか思ったりしてたら、思わず、あの子の手を掴んで口元へ持って来てて、照れてるのか、怒ってるのか分からない赤い顔をして、あの子に律せられて、気づく。俺…どんだけ欲求不満やねん。

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ってのもあったけど、大丈夫やって彼女に言っておきながら、今の俺、完全にあかんかったよな？やる気満々。間違いなく、俺…嫌われたよな。だけど、嫌われたら、嫌やな…。ん？嫌われたら？嫌…？別に、俺…なんとも思ってないんやなかったはずやんか… pic.twitter.com/Bx6hClPFt1

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やっぱり、丸山先輩は私じゃないよね。明らかに、そのあいつって言う言葉は君じゃないよって言われてる気になって。無性に腹が立つ。今まで、浮かれたりしてた自分は何だったんだろう。この人にとって、私はたまたまあの日、会社に居た後輩。折角、告白の決心したのに、その気持ちが段々と鈍って行く。

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「せやな。その血の止め方はちゃうな。とりあえず、止まるまで、そこ座っとき？絆創膏どこやったかな」と引き出しを漁る先輩に「ねぇ、先輩はまだ元カノのことが好きなんですか？」「どしたん？いきなり」と驚いた顔をしている「聞いてみただけです」「んー。好きやけど…でも、最近よう、わからんゎ」

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楽しく料理したかったのに、それからは何故か、必要以外の会話をしなかった。料理の下ごしらえが終わったのはもう20時近くで「飯…食ってかへん？」「いや、朝早かったし、明日また早いので」折角、取れかけた敬語もいつも通りに戻っていて「送ってく」と言われたけど、近いから大丈夫ですと断った。

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こんな気まずいまま、明日を迎えて大丈夫なんだろうか？そんなことを考えながら、夜道を歩いた。先輩と私の住むアパートは思いのほか近くて。今日のことを冷静に考える間も無く、歩いて10分弱くらいで着いた。でも、夜風は冷たくて少しだけ気持ちは落ち着いた気がした「そうか、もうすぐ11月か…」