【邪悪の樹――二籠】第一交流フェイズ――伽藍の矢

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

そう信じて、それは鳥を抱いたままその足を大広間の出口へ向けた。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

椿のあった場所から廊下へ、そして何処かへ。『不安定』が、ふらふらと宙を泳いで行く。その後を、文字の群れが続く。二頭身ほどしかないぬいぐるみのような姿は、しかしぬいぐるみと言うにはあまりにも味気ない。ひらひと裾をはためかせ、ふらふらと揺れて。それは大広間へと確かに向かっていたが、

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

本人がそれを分かっているかは怪しい。 ふらふら、ゆらゆら、ひらひら。大量の文字を引き連れて行く姿は、まるで黒い雲が動いているようでもあった。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

暫く廊下を進んだところで、書の記述でしか知らない鳥と同じ色らしい髪が視界に入った。ジャケットを手に出てきた相手に呼び掛ける。 「やぁ、【残酷】。私たち五人の誰でもない声が聞こえたかい？」 笑いかけられれば此方も和やかな表情を浮かべ、近づくだろう。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

並ぶ形になったところで、もう一つ問いを投げる。 「【不安定】と【物質主義】は、私たちで呼びに行くべきかな？」 音を知らない同胞の名前を並べる。残る一人は聞こえればやってくるだろうと信頼しているようだ。いくつ部屋を回ろうが大差はないが、大広間の方角をちらちらと見て回答を待っている。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

【貪欲】が近づけば喜色を笑みに乗せ、己も近づくだろう。 「ええ、聞こえた。楽しい目覚ましになってくれたわ」 問いのひとつに答えながら、足を止めた【貪欲】に対して更に1歩の半分、距離を縮める。その場所から【貪欲】の瞳孔を真っ直ぐ捉え、もう一つの問いにも応える。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

「それはいいわね、そうしよう！ 広間から遠いわけじゃないし、ちょっと部屋に寄るくらい手間にはならないもの」 【残酷】はぱっと笑い、それじゃあ行きましょ、と【貪欲】に掌を差し出す。互いの年齢を考慮してもいないことが明らかな、躊躇のない接触の要求。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【残酷】の要求に、一つ息をつく。その意味を相手が考えるならば、それを遮るように手を差し出す。相手の手を、握りはしない。 「手を繋ぎたいなら、君が掴んでくれる？」 傲慢にも聞こえるその言葉は、抵抗覚、即ち相手に触れる加減を失ったがゆえだ。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「……【愚鈍】も、迎えに行くかな」 ひとりごちる。連れ立って歩くことになり、一人で緩慢に歩を進めるだろう同胞を思って、先立っての考えを翻したのだ。単純に、気になるから、迎えに行く。【残酷】が止めなければ、結果的に無人とはいえ、無作法にも部屋の扉を開けることすらするかもしれない。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

【貪欲】の提示に束の間目を見開き、納得したのか笑んで差し出された手を柔らかく掴む。 「それじゃ、お言葉に甘えて」 繋いだ手を支点にするように距離が半歩広がるだろう。歩くに邪魔にならないような、知人同士での適切な近さ。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

「みんなで一緒に行くの？ 楽しそうね」 己に向けられたものではなかろと見当をつけはしたが、その邪悪は【貪欲】の言葉に反応して声を弾ませる。繋がっている方の手が歩みに合わせて揺らされるかもしれない。 【貪欲】が他の邪悪の個室に手を伸ばしたとしても、それは咎めようとはしない。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

揺らされる手に、万が一にも余計な負荷をかけないよう相手のするがままにさせておく。加減を知らない己と痛みを知らない相手では、接触にはことのほか気を遣う。 「ああ、どうやら全員を呼んでいるようだったからね」 声の主も知りたいが呼ばれた理由も知りたい。後者に全員必要ならば早く集めたい。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

つまるところ【残酷】とは意識のずれが生じているわけだが、言葉の上では同意を返す。 部屋を開けては無人であることを確認する。三人の部屋を見終えたところで、【残酷】に視線を向ける。 「【愚鈍】は、もう行ったみたいだ。ひとまず広間に行って、近くに二人がいなければ手分けして探そう」

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【残酷】が先に二人を探そうと言えばやはり手分けして探すことを提案するだろうし、先に広間に向かうことに同意してくれればそのまま広間に向かうだろう。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

【貪欲】の気遣いを察しているのかいないのか。【残酷】は全く呑気に握った手を揺らし続けている。 主のいない部屋に小さく肩を落とすこと3回。向けられた視線を感じ取れば返すように視線を当てるだろう。 「そうね、広間に行きましょう？ 屋敷は広いもの、入れ違っちゃうかもしれないわ」

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

そう言ってくるりと向きを変え、広間に足を向けるだろう。その動作が繋いだ【貪欲】の手に負担をかけるようならば、包む手は離れそのまま、腕に添えられるだろうか。 「私達は何番目だと思う？」 何かを期待するように声が笑う。すぐ隣の邪悪の応えか、大広間に在るだろう未知か。

【愚鈍】雪 @Setsu_MM

ほて、ほて、と中庭を出て、視線はうろうろとさまようばかり。幾度重ねても、なかなか屋敷の内部構造が記憶できないのだ。それこそ雪のように、ほろほろとこぼれてしまう。 わずかな記憶を頼りに、歩を進める。

【愚鈍】雪 @Setsu_MM

向かう先は本当に大広間なのか。そもそも向かっていたのは、どこ、だったか。 記憶が溶けて目的が曖昧になってきたところで、ふたつの背を見つけた。 辛抱強く踏み固めた根雪の記憶は、掘り起こすのに時間はかかっても簡単には消えない。 「あ、と、……え、と。ぐらおざーむ、と、はーぷぎーあ」

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

包まれた手は負担でも不快でもなかったが、動きに合わせてするりと腕に添えさせる。 「そうだね、【愚鈍】はいるだろうから、」 答えようとしたところで、声が途切れる。今まさに名を紡いだ同胞の呼び掛けに振り返った。 「【愚鈍】、今から向かうところかい？」 問いを返し、立ち止まる。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

向かう、と言っても大広間は既に目と鼻の先だ。聞き慣れない声の主が痺れを切らして出てきたとしても、此処で鉢合わせになるだろう。そう考え、同胞の到着を待つことにした。

【愚鈍】雪 @Setsu_MM

「向かう、え、と、うん」 そう、どこかに向かっていた。けれど、どこに向かっていたのかもう忘れてしまっていて、首を傾げながら頷く。 のろのろと覚束ない足取りで近づいてゆき、焦点のはっきりしない銀瞳の視線が瞬いて、二人を交互に見ていた。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

最初はゆっくりとしていたその足音は、次第にその感覚を狭く、そしてその音を重く。 この鳥のことを考えれば無理に走らない方が良い。しかし出来る限り速く、この鳥を他の『邪悪』達に見せてやりたい。その思いはそれの肉体を変化させる。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

走らないという条件の下に、最も効率的に歩くことの出来る姿。すなわち背の高く歩幅の大きい、短髪の男へと。 そのまま大広間の端まで歩いていくと、そこに鎮座するに相応しい豪奢な扉を勢いよく開き、 そのまま己の持つ蒼い瞳をも丸く見開いた。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

それは鳥のもたらした言葉を何も聞いていない。故に、残りの四人のうち三人もがここにいるとは全く予期していない。 しかしその驚きが過ぎ去れば、音もなくその身体は縮んでいく。鳥を胸に抱いた、二次性徴もまだかと思える少女の姿へ。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

自分より背丈の上となった三人へと精一杯腕を伸べて鳥を提示しながら、その表情はこれ以上もなく笑顔である。