【邪悪の樹――二籠】第一交流フェイズ――伽藍の矢

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

【貪欲】の振り返る動作に合わせて添えていた手を外した。そのまま己も向きを変える。【残酷】の身体ひとつ分、再び【貪欲】の空間に踏み込む。 「あら、雪。おはようかしら？」 そこにいた邪悪の訥々とした呼びかけを、名を呼ぶ意が強かろうと決め込んで【邪悪】でなく『名』で返した。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

【愚鈍】が【貪欲】との会話で首を傾げて頷いたのには、嗚呼これは覚えてないなと内心呟く。 「私達も大広間に行くの。【愚鈍】も、一緒に行きましょう？」 焦点のはっきりしないで【貪欲】と【残酷】を揺れる視線の前に、つと左手を差し出した、

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

瞬間、背後で大きな物が勢いよく動く気配にびくりと、跳ねんばかりの勢いで振り返る。そこには大きく開かれた扉と、見たことのない見知った少女。 視線の先にいた【残酷】が飛び退いたことで、【愚鈍】にもその光景が見えるだろうか。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

「おはよう【物質主義】、一番乗りね？」 咄嗟に繕った笑顔は若干固かったが、これ以上ないような【物質主義】の笑みに忽ちほぐれる。 「可愛い鳥ね。見せるために私達を捜してくれたの？」 鳥を確り見て、少女に視線を合わせ、笑う。ポケットから取り出した筆記具で同じ言葉を綴り、少女に見せた。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【愚鈍】に手を差し伸べる【残酷】を視界に留められる範囲で、大広間に続く扉へと視線を流そうとする。その動作をするや否や音を立てて目標物が開いてみせた。瞬きをしつつ、さて残る二人か自分たちを呼んだ者かと完全にそちらに焦点を合わせれば、目と髪の色だけは見慣れた青年の姿。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

次いで少女に転じた姿に、同胞の一人だと確信する。 「おはよう、【物質主義】。それは、此処に、いたのかい？」 挨拶の後、言葉を区切る。鳥を指し、広間を指し、首を傾ける。 【物質主義】が意を汲んで首肯するならば一つ頷き、意を取れなければ何でもないと首を振って鳥を覗き込むだろう。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

ふらふら。漂って、彷徨って。そのうち行き先も忘れてただただ浮遊した。しばらくそうしているうちに、何やら四つの人影を認識する。黒い雲はふらりと揺れて、そちらへと行き先を変えた。 アレは何だったか。アレは誰だったか。 アレは『邪悪』。アレは『人』。アレは『己と同じもの』。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

ああならば、姿も同じであっただろうか？ ふらふら、ゆらゆら、ひらひら。『不安定』は四人の近くに寄っていく。黒い雲は次第に引いて、霧のように薄くなった。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

それから『愚鈍』へ見せつけるように鳥をずいと差し出しながら廊下中に忙しなく視線を走らせて、この場にない自分より小さな影を探している。『不安定』にも早く、これを見せてみたいと。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

『愚鈍』の見せたのは、それが望むような反応ではなかった。困惑の色を隠さぬその表情と定まらぬ視線。その理由をうまく推測することのできないまま、こちらの眉尻も下がっていく。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

ひとまず伝えるべきは伝えねばなるまいと、改めて腕に抱える鳥を『残酷』へ、『貪欲』へ、そして『愚鈍』へと示して見せた。全員に見せに来た、と。 そうして視線をともに移動させていくうちに、それは気付いた。廊下の奥から近づく定まらぬ輪郭、待ち望んだあと一人の到来に。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

気付くや否やそれは衝動に従って、鉄砲玉のように『不安定』へと駆けていった。まるで手に入れた宝を見せびらかすように、鳥を頭上に掲げたまま。

【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

——五人の邪悪が集まった。 身動ぎさえしなかったその鳥は【物質主義】の手を離れ、翼を広げて飛び上がる。その目は全てを見下ろして、大きく一つ鳴いてみせた。 『お集まりの皆々様にお知らせを、お知らせを。 我があるじ様からのお知らせを。』 何処からともなく便箋が床に落ちる。

【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

『あなた方は【伽藍の矢】。全てをハジマリへ還す方々。 あらゆるものを失くし溢して此処へ来られた。 屋敷の扉は閉ざされ出ることさえままならない。 あなた方に朗報を。 あなた方を阻む者。全てをオワリへ狩り取る者共。それは無性。【万斛の鎌】。 あなた方に朗報を。あなた方に朗報を。

【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

彼の者共の心臓は、あなた方の失われた記憶。 喰らって飲み込むその時に、あなた方は欠けた物を取り戻す。 さあどうぞ、扉をお選びくださいませ。扉は大広間に現れましょう。 その向こう、あなた方の記憶が待っているでしょう。』

【邪悪の樹——三ツ牙】企画管理アカウント @treeofevil

そうして鳥は再び嘴を閉ざす。何も言わず、何も鳴かず。床に降りたまま、自ら動くことすらしないだろう。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

廊下の先から、誰かが駆け寄ってくる。誰だったか、アレは誰だったか。そうだ、アレは『物質主義』だ。そう思い出して、『不安定』も近づこうとした。——が。 突然、『物質主義』の腕から何かが飛び上がる。アレはなんだったか、ああそうだ、アレは『鳥』だ。鳥は何かを鳴いて鳴いて示していたが、

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

音を知らぬ『不安定』にはそれがとんと分からない。しかし落ちた何かなら分かる。アレは『便箋』だ。 ふらふら宙を泳ぐ。廊下に落ちた便箋を、黒い文字たちが中に浮かせる。『不安定』は小さな身体で器用に封を切り、中身を取り出し視認する。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

なるほど、なるほど。欠けた記憶が、あるらしい。取り戻す方法が、あるらしい。 『不安定』はそれだけ確認すると、同じく耳が聞こえない筈の『物質主義』へ、その紙を泳がせた。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

それは再び、強すぎるほどの驚きをその貌に表してみせた。それは伝えられた文面故ではない。鳥が人の言葉を苦もなく操った、そのためでもない。それには何の言葉も届いては居ない。 それの驚きはただ、何をしても石像のように身を固めたままだった鳥が動き、飛び立ったそのためだ。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

その翼の動きに見とれているその間に、鳥の口は閉じ翼は畳まれ、見つけた時のその通り動かなくなる。 一体これは何と言ったのだろう。誰か教えてやくれないかと四人を見回そうとした、その一人目。『不安定』の差し出す紙に気付く。 小さな礼とともにその紙を受け取り開き、文面へ目を通す。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

読み進めれば読み進めるほどにその表情は曇っていき、その内に混乱が混じる。 万斛の鎌。無性のものたち。その心臓。失われた記憶。そして扉。 何を求められているのか、判ったけれど、解りたくない。 それが行動を起こすのは、いつでも早かった。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

駆け出したそれの身体は、一瞬のうちに最速に。すなわち動くに最も適した男へと変わった。向かう先は、先に開け放してきた大広間の入り口。 自分は先まであそこにいたのだ。だけれどそんな扉なんて影一つさえ見えなかった。だからこれは嘘っぱちだ。誰かの仕掛けた、質の悪い悪戯だ。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

そう心に浮かべながら、あるいはそうであることを祈りながら、それは大広間へと飛び込んで、 そうして、そのままの勢いで転げるようにへたり込んで、その恐れに負けるように姿は縮んでいった。 そこには確かに、五つの扉があった。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

【物質主義】が改めて示してきた鳥に、抱えてきたことの謝意も込めて大きく頷いて表情を和らげる。その動作の裏で、会話を綴る【残酷】が笑んでいることと焦点を彷徨わせる【愚鈍】が混乱していることを把握した。 「【愚鈍】、ひとつひとつ、分かればいいよ」 噛んで含めるように声をかける。