【邪悪の樹――二籠】第一交流フェイズ――伽藍の矢

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「あの鳥が、大広間にいた。誰かが、私たち全員に、大広間に来るように言った。だから、」 何かあるから、大広間に行こうか。提案は、飛び道具を思わせる速さで自分たちの前を横切った少女に気を取られたことで、唇を出ずに消える。走るなら先の青年の姿になれば良いのに、とは内心の言だ。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

そして、少女を走らせた正体に気付く。 「【不安定】」 小さな影のもとに辿り着けば、少女は立ち止まり自分たちにしたように鳥を差し出すだろう。ならば、二人の意思疎通が一段落したところで呼ぶかと、手招くための自身の腕の位置を確認し、【愚鈍】への言葉を接ごうとして。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

――羽音に、囀りに、朗々と続く声に、引き寄せられるように鳥を見上げた。 「【伽藍の矢】に【万斛の鎌】、ハジマリとオワリ……か。いいね」 差し挟んだ呟きは、すぐ近くにいる者でさえ聞こえるか怪しい程に小さく、されど、対とも言える存在の明示に、大いなる興味を孕む。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

次の情報には一度眉を寄せ、内容を脳内で咀嚼し、鳥が床へと降り立つと同時、扉へと踵を返す。ガウンがふわりと翻る。 「私たちの記憶の賭け金となる人たちか。……それは何とも、愛（かな）しい人たちだね」 敢えて紛らわしい言い回しでもって述べ、口を僅かに綻ばせて、大広間へと向かっていく。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

記憶が戻る。誰かの命を対価に。つまり、己の記憶には誰かの命を踏み躙ってまで得るほどの価値がある。あるいは、記憶を永劫に手放してでも生かすべきほどの存在がいる。知りたい。嗚呼、知りたい！ 開け放された扉を掴み、力を込める。そこからでも見える扉に滲む喜色は、強がりとでも映るだろうか。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

鳥の伝えに【残酷】は、僅かに首を傾けたのみであった。邪悪を闘い心臓を喰うという、舞台と役者と条件とをざっくりと解いていく。得られる報酬と賭ける担保を乗せた天秤が傾く前に、留まるリスクはコスト以上だと思考の端で鐘が鳴る。 自分勝手に考えを纏め終え、他の邪悪の様子を窺う。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

何かを読んでいた【物質主義】が駆け出した、その行動に思考が追いつかずただ目で追いかける。大広間に飛び込んだ彼が崩れ落ちたように見え、漸く判断が追いついた。 「【物質主義】！？ どうしたの、大丈夫！？」 駆け寄り、何かを恐れるように縮んでいく【物質主義】の脇に屈み込む。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

その表情を見、視線の先を確認すれば、彼だった邪悪の恐れに思い至るだろうか。 姿を変えた【物質主義】が拒まなければ、その背に己のジャケットを掛け、視界を塞ぐように抱き寄せるかもしれない。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

視界を塞がれることも、『残酷』の体温を感じることも拒みはしない。その身体は先の少女より小さくなっていると、触れた輪郭のみでさえ判断できるだろう。 ジャケットとその先にある『残酷』の身に顔を埋めるようにして、しばらくの間啜り泣いていた。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

一息に吸い上げる、しゃくりあげる動きの感覚は徐々に伸びて、それとともにジャケットに覆われた身体が少しずつ大きくなっていく。 しかし『残酷』から離れることはない。それほどに動揺は、大きかった。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

鳥の言葉と、手紙。それらが示したこれからを知った後、『物質主義』『貪欲』『残酷』は慌ただしく大広間の方へと行ってしまった。残された『不安定』は軽く首を傾げ、ふと『愚鈍』を振り返ってまた首を傾げる。 不意に、『不安定』の周囲をぐるりと黒い文字が取り囲んだ。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

それは『不安定』を中心とした黒い黒い球になり、しかし解れるようにバラバラと落ちていく。そうして最後に現れたのは青年ほどの背丈の人間だった。黒いローブ、目深に被った黒いフード。微かに覗く肌だけが白く。 それは『腕』を持ち上げる。その肌にはビッシリと、隙間なく、『腕』を示す黒い文字。

『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

『手』は握るような動作を見せて、手の中に現れたのは白い棒とその先についた白い板——所謂、プラカードであった。 プラカードに黒い文字が踊る。それは次第に文を成して。 《お前は行かないのか》 『愚鈍』へ向ける言葉になった。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

くつくつと笑い出しかねないその表情から欲求の色が消えたのは、啜り泣く声が耳朶を叩いたからだった。 数度瞬きをし、出処を探す。ジャケットごと【物質主義】を抱き寄せる【残酷】と、その身に縋る小さな姿を見つけた。逆に言えばそれまで歯牙にもかけていなかったわけだ、己の浅慮に軽く首を振る。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

そんな己が慰めに加勢しても役者不足だろう。結論付け、扉の数が鳥の言葉と相違ないこと、大広間の他の部分に変化は見当たらないことを確認する。 そういえば【愚鈍】と【不安定】はどうしたのだろうと思い当たり、痩躯は来た道を舞い戻る。ちょうど【不安定】が声なき声で【愚鈍】に問うたところだ。

【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

近寄れば多かれ少なかれ二人の対話の邪魔になる。そして、興味の対象がまだ残っていたことを思い出す。 『あるじ様』とやらに飼われる存在、または仕える存在と、自覚しているもの。 二人の対話が終われば声をかけようと気を配りつつ、動かない闖入者に近づいて腰を落とした。暫く観察する構えだ。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

啜り泣く【物質主義】を抱きしめる。 小さな子供にするようにぽんぽんと背中を叩く。しゃくりあげる動きの間隔が徐々に伸び、伴い 【物質主義】が大きくなるのに合わせて腕を開いてゆきながらも、離れる意思が見えない限り間を取るつもりはないだろう。

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

それをしながら、広間と扉を検分する【貪欲】を目で追いかける。 検分の前の仕草には気がつかなかったかもしれない。 廊下へと舞い戻り鳥の前に腰を落としたのまでを眺め、対なる敵か報酬か、あるいはその仕掛人に、強く関心があるのだろうと問いもしないで推測した。

【愚鈍】雪 @Setsu_MM

鳥の言葉を、知らせを、ゆっくりゆっくり、かみ砕く。どこまでも、良く言えばマイペースに、とっくりと思案して。 記憶。あまり、執着のないものだ。ただでさえ、平時の行動に支障をきたすほど、ほろほろと消えていってしまうものだから。 大事、なのかな。かくん、と首を傾げ。

【愚鈍】雪 @Setsu_MM

そんな鈍い思考を珍しくよくかき混ぜていたら、やっぱり状況に置いていかれていた。目の前で大きくなった【不安定】を、まるで初めて見たかのような目で見つめて、こくん、とにぶく頷く。もたついた足取りで大広間に歩を進めつつ、【物質主義】が泣いているのを、何故だろう、と再び首を傾げながら。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

次第に落ち着いてくれば、離れぬままにジャケットを取り、眼を腫らした少女の面立ちを露わにする。一度手でもって目を拭ってから、目の前の『残酷』の顔を見た。 迷い無くこうしてくれた『残酷』の心配は嬉しいもので、しかしそれ故にその負担が気にかかった。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

何をも伝えぬまま泣き出せば、相手だって混乱する。思うまま抑制無く動き続けるそれでも、その程度の常識を思い出すことはある。 そう思ったならば、『残酷』との身体の間に少しだけ隙間を空けて、そこから手を出してみせた。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

紙片が一枚。筆記具はない。望んだ時から、その上には既に字が記されてある。 『あんなの　なかったから　びっくりした 　さっきまで　ほんとに　なかったのに』 そしてそこから、その先へ更に字が書き加えられていく。

『物質主義』マテリアリスムス @materia_evil

『グラオザームは　いきたい？　むこうがわ 　なくなったもの　やっぱり　ほしい？』

【残酷】グラオザーム @Evil_Gra

腕の中にいる【物質主義】が身じろいだことを感じ視線を落とす。ジャケットを取り去った少女の視線と交わるだろうか。 伸びた手が持つ紙片をうん、うん、と頷きながら読み進める。背中に回している手がゆっくりと背を摩っているかもしれない。続き記された文字列に目が届けば首が傾いでいくだろう。