【邪悪の樹――二籠】第一戦闘フェイズ――生の樹

伽藍の矢――貪欲(@habgier_toe) 万斛の鎌――拒絶(@Az2_abl
0
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

手元に残る羊皮紙には、ひとつ、ふたつと染みがつくられていく。 その染みをつくるのは…様々な色を映すその瞳から零れる大粒の涙だった。 紡げない。 怖い。とても怖い。 拒絶しよう、しようとすればするほど「もしも」が世界を侵食した。 失うのは嫌だ。 寂しくなるのは嫌だ。

2015-01-14 03:57:51
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

そこにあったはずの笑顔が消えるのは嫌だ。 幸せが。せっかく手に入れた幸せが崩れるのは嫌だ。 震えが止まらない。怖くて怖くて仕方がない。 俯き、顔を覆う。まるで見ることさえも拒絶するかのように。

2015-01-14 03:58:25
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

それでも脳裏に浮かぶ「もしも」は、消えることなどないというのに。 涙は止まらない。 紡がれていた戯曲は、rest=静寂=を迎える。

2015-01-14 03:58:27
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

消えた炎蛇に目をすがめる。此方が境界を出た以上は小休止も策か、と考え始める思考を、舞台から響いた様々なものの落下音が阻んだ。幾つかの軽いものの次に、硬質なもの。 落ちたのは羊皮紙、そしてペン。相手は武器を取り落としたも同然だ。 相手の足元を注視していた視線を上げる。

2015-01-14 12:40:06
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

性を知らない華奢な肩が震えていた。俯いていても、制御出来ない感情に苛まれているのが見て取れる。【残酷】に抱き締められて泣いていた【物質主義】を思い出す。 降りしきる静寂の中で息を整える。声なき嗚咽がようやく届いた。

2015-01-14 12:40:08
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

腕を組む。欲求を満たすための行動に遠慮はないが、一方的に痛めつけて勝利をおさめるのは本意ではない。 「喪失の可能性だけで立ち止まるなら、私の心臓は、あげられないよ」 【拒絶】に届くように、少しだけ声を張り上げる。 「私の準備が出来たら、もう一度君の射程圏内に入る」 続く、宣言。

2015-01-14 12:40:16
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「それが、君の最後の攻撃のチャンスだ。私は踏み込むと同時に君の命を狙う。君が避けなければ私の勝ち。避けても反撃しなければ、私は命の続く限り君から遠ざかる。そうすれば、生きたまま心臓は抜けないよ」 言い含めるようにゆっくりと告げる。羊皮紙を取り出す。こちらも、これが最後の攻撃だ。

2015-01-14 12:40:19
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

告げられる宣言。 苛まれ「もしも」を拒絶し続けるなかでも、【貪欲】の言葉は確かに届いた。 …何も告げずそのまま攻撃してくればよかったものを。 そうやって言葉をかけずにいたなら最後まで嫌いだと…拒絶すべきものとして見れたものを。 最後の攻撃。 生きたまま、心臓。 記憶。 ――仲間。

2015-01-14 18:45:57
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

いつの間にか涙は止まっていた。 思考を停止。拒絶することも、受け入れることも、なにもかも一度止めてしまう。 そうして一呼吸おいて、導き出す答え。 だがそれを記すものは近くにあれど、この手では届かない。 手元に残るのはたった一枚の羊皮紙。

2015-01-14 18:46:07
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

それを裏向けて――インクを零したかのような真っ黒な面を表に。 ただ、それだけ。 俯いたまま動かない。 戯曲はただ、その時を待つ。

2015-01-14 18:46:09
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

揺らいでいた相手が凪いだ。これは、使い古された表現をするならば、嵐の前の静けさだ。 じわりと傷が疼く。ゆるりと口端が上がる。引き摺るように利き足を引く。 「覚悟は決まったかい? 【拒絶】」 聞くまでもない。それでも問いを重ねるのは、万年筆を走らせる手を、止めない為だ。

2015-01-15 00:36:16
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

羊皮紙に残っていた空白を全て埋め尽くす。 才能も知識も足りない。貧しいものを悔やんでも進めない。ならば、それらを補って余りある欲求を! 「私は、私の欲求を満たすものか、私より強大な力を持つものにしか、対価を差し出しはしない。いいね?」 喋りながら、記しながら、軸足で強く踏み込む。

2015-01-15 00:37:04
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

「それじゃあ」 万年筆を手放す。屋敷から持ち出したものの一つが、片割れより一足先に役目を終えて落ちる。 「これで」 楽譜を振りかぶる。舞台へと飛ばす。 「――さよならだ」 灼熱。山楝蛇を思わせる二匹の炎蛇が、混ざり合い双頭の蛇となって、彼等を生み落としたばかりの楽譜を焼いた。

2015-01-15 00:38:17
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

兄蛇はまっすぐに【拒絶】を目指す。首筋に喰らい付き、血を啜り、命すら我がものとせんと。 弟蛇は僅かに軌道を逸れる。【貪欲】の禍罪が本物に及ばないことの証明であり、その上での伏線。 それらの軌道を見据える紫苑は揺るぎなく、されどがくりと膝をついた。その位置は……境界線の、一歩内側。

2015-01-15 00:39:02
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

声が聞こえた。筆の落ちる音がした。温度を感じた。 喰らい尽くさんと向かう二尾。 【貪欲】の言葉で決心したのは――受け入れること。 数多の楽譜(世界)を生み出してきた己の指を噛む。

2015-01-15 02:00:07
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

一つ、享受したのは痛み。 滴る血。今はこれが新たな世界を紡ぐためのインクとなる。 一つ。享受したのは覚悟。 黒面に指を滑らす。己の血汐で紡ぐ禁忌めいた行為。 ―――見せてあげる。 私の世界を。私が紡ぐものを。

2015-01-15 02:00:20
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

fiere=気高き=者よ。 focoso=神火=を纏い、seelenvoll=すべての想い=を喰らい尽くせ。 轟音。隆々と蠢く黒焔。産み出されたのは、一匹の巨大な蛇竜。 咆哮をあげ、蛇竜はこちらに向かう兄蛇を正面より喰らい尽くす。 片割れの炎蛇(雑音)など興味ない。

2015-01-15 02:00:28
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

圧倒的力を、圧倒的美しさを、圧倒的旋律を、魅せてあげる。 黒炎を撒き散らし舞う蛇竜の勢いは止まることはない。 真っ直ぐ、まっすぐ紫苑へと向かい――寸で霧散する。 残るのは…【貪欲】が放った片割れの炎蛇により燃える【拒絶】の楽譜(せかい)と、それを生み出してきたペン。

2015-01-15 02:01:00
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

そして【拒絶】を支えてきた車椅子と…そこから離れることなどできない、【拒絶】自身。 戯曲は見てもらわなければ意味がない。 いくら世界を紡ぎあげても共に楽しむものがいなければ、共に悲しむものがいなければ意味がない。 理解を深めようとしてもらえるものがいなければ、なにも嬉しくない。

2015-01-15 02:02:14
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

複雑すぎる旋律は、理解されず誰にも認めてもらえないものだから。 例えそれが敵であっても。例えそれが己を殺すがために行ったものでも。 一つ。享受したのは他人の世界。 都合のいいものばかり与えてもらえる者ではない、本当の何かを。 だから。

2015-01-15 02:02:23
【拒絶】アップレーヌング @Az2_abl

【貪欲】(観客)に、【貪欲】(理解者)に。 ―――最大の賛辞を。 炎に包まれ身が焼けそうになっても、【拒絶】は腰翼を広げ、その先を手でつまみ頭を下げる。 それはまるでフィナーレ飾る演者のように。 戯曲は終焉。演者は観客が立ち去るまで、こうべをあげることはない。

2015-01-15 02:02:26
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

赤と黒によって織り成された蛇竜は、さながら何処か遠い場所の伝説の再現そのもので、自分を屠るために向けられた牙を、【貪欲】は死すら覚悟して見上げていた。 業火の化身が自分を呑むなら、それでもいいとすら思った。心身が揺さぶられ、魅了されていた。

2015-01-15 12:31:15
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

兄蛇は既に正面から喰われて絶えた。弟蛇が残されたのは、精々楽譜を奪うのが限度だからだ。 今が最期となるのなら、この黒焔を目に焼き付けて死にたいと。 ーー寸でのところで消えた炎を惜しいと思ってしまったのは、偽りのない本心だ。

2015-01-15 12:31:20
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

客席を支えに立ち上がり、歩み出す。 「悔しいな。分かってはいたけれど……君が生み出すもののほうが、私が生み出したものの何倍も美しい。比べることも失礼なほどだ」 だからこそ、見られて良かった。相手が音楽家としての矜持を貫くのなら、自分は観賞者に徹しよう。

2015-01-15 12:31:24
【貪欲】ハープギーア @habgier_toe

求めたものが差し出されるなら、躊躇うことなく応えることが、自分の本質。 三度舞台に上がる。惜しみない拍手を捧げながら、一歩一歩近づいていく。 「情けはかけないよ。君は誰より憎らしく誇らしい宿敵だ」 外套の奥に仕舞い込んでいた懐剣を取り出し、頭を上げない相手に向ける。

2015-01-15 12:31:30
前へ 1 ・・ 3 4 次へ